コーヒーショップ 二
会社の近くのコーヒーショップ。
白を基調とした内装に白のテーブルと白いイスがあいかわらず少し冷たい印象をおぼえるが、このまえ倒れたカフェレストランにはまだ行きにくい。
桜のループ葬式の件が解決するかべつの人に移ってくれるかしない限りは、また気絶して騒がせる可能性がある。
土屋と待ち合わせをして、同じテーブルで向かい合って同じナポリタンをたいらげ、コーヒーを口にする。
時間は午後二時近く。
たぶん日中ではいちばん空いている時間帯だろう。店内は空いている席のほうが多く静かだ。
すぐ前の県道は朝夕の交通量が多いところだが、いまは数分にいちどしか通る車をみかけない。
涼一は深くため息をついた。
「なに。当分おまえに風呂見張られて、おまえと布団ならべて寝て、メシもいっしょに食う生活しなきゃならないわけ?」
額に手をあ゙てて愚痴る。同僚がまるで保護者みたいな状態だ。何だこれ。
「何日やんの。まさかマジでループ葬式が解決するまでじゃねえだろうな」
「トイレも見張ったほうがいいと思うんだよね、本当は。個室んとき。トイレに来られたらヤバいでしょ」
土屋がコーヒーを口にする。
「来るかよ」
「来ないって根拠なに、鏡谷くん」
土屋が問う。
「大まじめな話、ドアにカギかけた状態のときに葬式しに来られたら、こっちはまずカギ破んなきゃでしょ」
「そんときは大声出すからドアの上から塩ドサドサぶっこんでこい」
涼一はなかばヤケになってそう答えた。
「んじゃ個室に入る場合は、ドアの上に隙間が開いてるトイレに入ってくんないかな。せめて」
土屋が真顔で言う。
「おう」
いちおうそう返事をする。要介護者かよと思う。
「んなこと言っても、一日のほとんど別々のルート歩いてるんじゃん。基本、おまえの助けとか期待できんときのほうが多くね?」
「それなんだよね……」
土屋がコーヒーを飲む。
「だぁから、はじめから会社勤務の社畜にこういうこと押しつけんなってのなあ、お不動さんも」
涼一は頬杖をついた。
「お不動さんの人事ミスだろこれ。はよ配置換えしろって」
「いちばんヤバいのはさ、鏡谷くん。そのへんをどうにかするために、お不動さんが会社辞める方向に持っていこうとする可能性もあるってことなんだよね」
土屋がコーヒーを飲みつつ言う。
涼一は軽く鳥肌を立てて顔を上げた。
「……は」
「言ったじゃん。神仏って、たとえばどこかに行かせたいためにわざと何か失敗させるとか、だれかと別れさせるとか、強制的にそういうことやるって」
「……悪霊と変わんねえ」
涼一は顔をしかめた。
「つか女って、何でムチャクチャな理屈で人の手ぇ借りる気にばっかなんの。ああいうのどうにかならねえ?」
「……女の人のカテゴリーなんだ、お不動さま」
土屋が目を丸くした。
「さやりんちゃんがきのうの深夜にメールくれてさ。Y県のF山付近の民話とか言い伝えとか過去の新聞記事とかSNSで聞いてくれたんだけど」
土屋が白いテーブルに肘をつきスマホを操作する。
「何かいい手がかりあった?」
「んまあ、これがわりと」
土屋が答える。
「朝気づいたの? メール」
「いや、そのとき。リアタイで」
土屋がスマホを親指で操作する。
「なんで言わんの」
「鏡谷くん、風呂上がりにおふとん敷いてやったら、いっさい手伝いもせず布団の上にぱふって倒れてそのまま寝ちゃったんじゃん」
涼一はコーヒーを飲んだ。コクリと飲みこむ。
「……んだっけ?」
「そうだよ」
「……どうりでおやすみ言った覚えがないっつうか、寝るまぎわの記憶ねえなって気はしてた」
涼一はズズッとコーヒーを飲んだ。
「怪奇現象に連チャンで二回も遭っておいて速攻で熟睡できるとかすごいよね。一種の才能じゃないの、それ」
土屋が淡々と言う。揶揄しているのかと思ったが、口調はまじめだ。
「んな才能いらね。お金持ちになる才能とトレードできんか?」
涼一は顔をしかめた。
「そもそもお不動さんって、人の才能とかどこで見てんの。この場合は神仏がまずテキトーなんだよ」
涼一は愚痴った。




