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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第惨話】櫻人ノ迷宮 サㇰㇻ ビㇳ 丿 メィキュゥ 

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120/202

ㄑटかハ亻ッ 五



「いっせいじょらい しょうそゆうしょ きっしょうしょうたん たいまじてん」



 バァンと響く妙鉢(みょうはち)の音。


「あのさあ! さっき俺の葬式やったろおまえら! それでも何も変わってねえの。だから解決方法はたぶんそれじゃねえの。分かる?」


「しょうじょうかんさく れいたくそうばん びふうようげき」

 聞いちゃいねえ。

 涼一(りょういち)は眉をひそめた。

 もしかしてこっちの音声は伝わってないのか。

 桜の花のあいまから、やっとこちらの一人や二人の姿だけが垣間(かいま)見えているだけなのか。

 そんなふうに想像してみた。


「しゅまんえいらく はんまんげっとう じいそうげん」

「おねがいしやす。成仏してくだせえ」


 若い娘二人ががっちりと手を合わせて、前後にガタガタと振る。

 いやそれこっちのセリフと涼一は脳内でツッコんだ。

「あにい、名前はなんだ」

「言うわけねえだろ」

 涼一はそう言い返してみたが、これは伝わっているのかどうか。

 とつぜん男性二人が目のまえに現れた。(なた)(おの)のようなものを涼一に向けて振り上げる。

「うわっ!」

 涼一は利き手で自身の頭部をかばい、身を縮めた。



 ガシャッと音がする。



 桜の迷宮に突如としてアコーディオンドア型の出口があらわれ、土屋(つちや)が乱入した。

「間違ってたらごめん!」

 そう声を上げて大きく手をふる。

 何かをばらまいたようだ。あたり中でパラパラとこまかい粒子が壁に当たる音がする。

 片手に持ったビニール袋に手をつっこみ、なんども何かをばらまいた。

 

 桜の迷宮が消える。白装束の人々も姿を消した。


 涼一はその場に座りこんだ。

 「あ゙ー」という、うんざりした声とため息が漏れる。

「お葬式の人ら来てた?」

 土屋がビニール袋に手をつっこみつつ宙を見上げる。

「来てた」

 (ひたい)に手をあてる。察するところ、ばらまいたのは台所にあった塩か。

「いきなり大声上げてたからさ、もしかしてと思って」

 「ついでに」と言って、なぜかインスタントコーヒーをばらまく。

「……何してんの」

「さやりんとヘビよけになるものググッてたら、いろいろ出たんだけど台所にあるものといったらこれくらいしかないよねって」

「……効くの?」

 コーヒーの苦味と香ばしさの混じった香りが風呂場のなかをただよう。

「あんまり効かないってさ。じっさいいちばんなのはホームセンターのヘビ避けの忌避薬らしいけど」

 土屋が風呂場の出入口にしゃがみ、コトンとわきにインスタントコーヒーの(びん)を置く。

「風呂は? 上がるとこだったの?」

「……まだほとんど何もやってねえ」

 涼一は、さきほど泡立てたボディースポンジを(あご)で指した。

「んーじゃ見張りしてやるから風呂続行しな」

 そう言い、土屋がいったん部屋に戻る。

 見張りするんじゃないのかと思い部屋のほうをうかがっていると、スマホを持ってきてドアを開けっ放しにした風呂の入口に座った。




 バスチェアに座り、涼一はシャンプーで泡立てた髪を洗った。

 土屋は開けっ放しの出入口に三角すわりで座り、爽花(さやか)とスマホでやり取りしている。


「部屋に湿気いかねえ?」

 

 シャンプーの泡をシャワーで流しながら涼一は問うた。

「多少いくと思うけどしゃあない。窓開けてきたけど」

 土屋が答える。

「ここに塩置いていけばよくね?」

「鏡谷くん、気絶してたらだめじゃん」


「──ねっ、ねっ。りょんりょんの声が聞こえるけど、りょんりょんはお風呂あがったの? 土屋さん緊急事態かもって言ってたけど大丈夫っ?」


 爽花の声がスピーカー機能で聞こえる。

「いま俺の横で風呂入ってる」

 土屋がそう応じた。

「言葉だけで説明すると何のこっちゃって感じだな」

 涼一は髪の毛の泡をシャワーで流した。


「──ひえっ」


 爽花がおかしな声を上げる。

「──おおおお俺の横でお風呂って、そこどこ? 夜景の見えるここ高級ラブホとか。ラグジュアリーなひとときをみたいなおおおお大型のジャグジーバスとか」

 土屋が理解不能という感じで首をかたむける。

「どんな発想だ」

 涼一は髪をかき上げた。

「──こここのまえユーチューブの配信で見たの。えええ映画のプリテンスウーマンみたいなホテル?」

「知ってる?」

 土屋がこちらに問う。

「顧客がスポンサーやってたんでチケットもらってリアタイで映画館で見た」

 涼一は答えた。ユニットバスに張られた湯に浸かろうと水面を見る。桜の花びらはない。


「──あこがれちゃうよねっ! 正統派シンデレラストーリーって感じで!」


 爽花が感極まった声を上げる。

「初対面の立ちんぼさんを唐突にホテルに囲って薄笑い浮かべてるだけの男と、それを警戒もせんではしゃいでる不思議な感性してる女の話って感じだったけど」

 涼一はユニットバスに足を入れた。


「なるほど。総合したらなんか内容の見当ついた」


 土屋が言う。

「おんなじ方法で有名プロデューサーに口説かれた歌手が、シンデレラストーリーってはしゃいで飛びついたら、あとですぐにポイ捨てされて頭おかしくなってたじゃねえか」

「何それ、知らない」

 土屋がこちらに横顔を向けたまま答える。

 涼一は湯に浸かった。はーと大きく息が漏れる。


「──でででもでもさ、もとから恋人同士だったら違うじゃん。たまの刺激っていうの? ここここいつこんな色っぽかったのっていうか」

 

 爽花が引っくり返りそうな興奮した声を上げる。

 ろくなエンタメ見てねえなこいつと涼一は思った。

 土屋がこちらを見る。

「とりあえず鏡谷くんの入浴見ても色気はない」

「……あってたまるか」

 涼一は顔をしかめた。



 


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