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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第逸話】新紙幣怪談 ㇱン ㇱㇸィ ヵィダン

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12/202

病院まɀ 五


「──あ、土屋(つちや)?」


 午後八時。

 涼一(りょういち)は、ようやくスマホに出た同僚に呼びかけた。

 小中学校の同級生だ。

 実家も知ってるし、身の回りのことを頼めそうなのは身近ではこいつくらいかと思う。

 

 かたわらでは、爽花(さやか)がこちらの話す様子を見上げている。


 家の門限とかはいいのかととがめたが、自身の姿が二人に増殖した渋沢 栄一(しぶさわ えいいち)に見えるようになって以来、家族も困惑した感じで接するので居心地が悪いそうだ。

 そもそも家族に自分だと納得してもらうのが大変だったらしい。

 自分も地元に帰ればそんなふうになるのか。

 ここから帰れば解決と何となく思いこんでいたが、自分のふりをして会社にいたあのニセモノのことを考えると、たしかに爽花とおなじことになりそうだ。


「説明が長くなるんだけど──いまどこ? 出先?」


 爽花と立ちっぱなしで話していたので、少々つかれた。

 スマホを耳にあてたままその場にしゃがむ。

 病院の敷地内だが、もう入院病棟とナースステーション以外はあかりも落とされていて、見舞客も来る時間ではない。

 たぶん迷惑ではないだろう。

 爽花がおなじようにしゃがみ、こちらの顔を見ている。


「──いまどこって、一分まえに廊下で別れたばっかでしょ」


 土屋がそう返す。

「それ俺じゃない。俺のふりした何か亡霊かもしれんやつ」

 われながら中二病みたいな陳腐(ちんぷ)な説明だなと思いつつ涼一はそう答えた。

「あ? ──どうりで」

 土屋が声をひそめる。

「やっぱ分かったか?!」

 さすが古いつきあいだ。マンガみたいに見事に見抜いてくれるもんだなと涼一は感激した。


「──どうりで一万貸してって言っても貸してくんなかった」


 涼一は顔をゆがめた。

「貸したことねえし」

「だな。何やってんの? ──そっちの廊下からかけてんの?」

 土屋がふり向いたような衣ずれの音がする。

「だからそっちの廊下にいるやつは、俺のニセモノ」

 通話口の向こうから、悲鳴のような声がかすかに聞こえる。

 カツカツとあわただしい様子で走るローヒールっぽい足音。

「何か騒がしくね? もうほとんどのやつ退社してるだろ」

 涼一は尋ねた。

「いや──なんか」

 もういちど土屋が衣ずれのような音を立てる。



「夕方ごろから、女の社員の人ら気味悪い話してたじゃん。新紙幣のホログラムが笑ってるとか何とか。──んで」



「新紙幣のホログラム?!」

 涼一は聞き返した。爽花が顔を上げる。

「つか、してたじゃんって言われても分かんねって。俺いまS県の血洗島(ちあらいじま)ってとこにいて」


「──ちょうどおまえが変な電話受けとったときって言ってたけど。関係あるかどうか知らんけど、血洗島社の鏡谷(かがみや)って人から電話きて……」


 土屋がふいに黙りこむ。

 「あれ?」という雰囲気だ。

「それ、俺。だから何でか知らんけど、とつぜん血洗島ってとこにいて」

 さきほど会社に電話をかけたさいの女性社員のとまどった様子は、もしかするとそれだったのだろうか。

 手近にあった新紙幣のホログラムが笑って見えて驚いたのか。

 通話口のむこうから、さらに悲鳴が聞こえた。

 だれかがなんども「救急車!」と叫んでいるようだ。

「──何したの」

 土屋がそちらに向かって声をかける。

「笑いが止まらなかった人たち! 呼吸困難おこして!」

 通話口のむこうから、女性社員がそうわめいているのが聞こえる。



「りょんりょん! りょんりょん! ヤバい新情報きたッ」



 横を向いて自身のスマホ画面を見ていた爽花が声を上げる。

「新紙幣のホログラム、笑ったやつ見た人はみんな笑いながら死んでるんだって!」





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