ㄑटかハィツ 三
「そこに鏡谷くんがまたもや後出ししたヘビって要素を加える……」
土屋が頬杖をつきスマホを操作する。
「何おまえ “後出し” 強調してんの」
涼一は眉をよせた。
「んで、なにか分かったか」
「あんまり」
思わず顔をしかめてしまった涼一を土屋が見る。
「さっき言われたばっかじゃ、そりゃさすがにでしょ」
それでも土屋がポチポチとスマホ画面に何かを打ちこんでいる。
「白蛇ってのはないけど、変な共通点のあるものなら出たな……」
土屋が言いながらポテトチップスをつまむ。
「ウロボロスっての。白くないけど」
「自分の尾っぽ飲みこんでぐるぐる回ってるヘビだっけ。――海外のじゃないの? あんま関係ないっしょ」
涼一は後ろ手に両手をつき、宙をながめた。
「ヒントにはなりそうじゃないの? あの葬式、ようはループしてるんでしょ」
土屋が言う。
涼一は目を見開いた。
「あ……」
スマホ画面を見る土屋の様子を見つめる。
「あ━━━━!!! ループしてんのか、あれ!!」
つい大きな声で言ってしまった。
土屋がとなりの部屋のほうを気にして壁を見る。
「悪り」
涼一は口をおさえた。
「ループか、なるほど。だから ”何べんやるんだ” か」
ポテトチップスをつまんでかじる。
「いやループは気づいたでしょ。あのセリフで」
「ぜんぜん。そんなん考える気なかったっていうか」
涼一はコーヒーカップでウーロン茶を飲んだ。
そもそもお不動さんのお仕事なんかことわる算段にしか頭が回ってない。
こんなやる気のないやつをわざわざ巻きこんでないで、高名なお坊さんとか国を憂いてる政治家のところにでも行ったらいいのになと何べん思ったことか。
「んじゃ “あたらしい葬式” とかってのは?」
「知らんけど……」
土屋がスマホを操作しながら前置きする。
「この手のループもののアニメとかマンガとか昔話とかだと、毎回のループと違うことをやって脱出をはかるってのはわりとよくある印象」
「どういうこと」
涼一は眉をよせた。ややしてからようやく思考が追いついて、さらにきつく眉をよせる。
「……それで脱出できんのかよ」
「さあ」
土屋が答える。
「鏡谷くん、いっぺん棺桶に入れられてぐるぐるされてるわけだし、それでもまたお葬式しに来られたらムリだったってことかな」
はーっと涼一は長いため息をついた。
「マジかよ。自宅帰れねえっていうか、仕事中に来られたらどうすんだ……」
「また田中さんにスタンバイしてもらうしか」
「くだんねえ冗談言うな」
涼一は顔をしかめた。
土屋が深刻な感じに声音を落とす。
「……冗談抜きで言うとさ、もしかしてこういうこと何回かあったのかなって。あの周辺かあそこを訪ねた人のなかで死因不明の突然死とか何べんか起こってるんだとしたら」
「……怖えこと言うなよ」
スマホの着信音が鳴る。
「うわっ!」
涼一は思わず声を上げた。
タイミング的に最悪すぎる。胸元をおさえて速くなってしまった心臓の鼓動をおさえる。
「なっ……なに。つか誰の」
「鏡谷くんのじゃなかったら俺のしかないじゃん」
土屋がテーブルの上に置いていたスマホを手にとる。
「あ、さやりんだ」
スマホ画面を見てそう言う。
「連絡とり合ってんのマジだったのか。よくあんなうるさい生物……」
涼一は顔をしかめた。
土屋が頼みもしないのにスピーカー機能にする。
「──やっほぉ、土屋さぁん。いまお部屋だよう。JKのお部屋見たい見たい?」
能天気な声が、あまり広くはない和室に響く。
「──土屋さんはさあ、りょんりょんって人がいるから安心じゃん? お部屋に遊びに来てもいいよお」
自分のときも同じこと言ってたな、こいつと涼一は思った。
「つかなにスピーカーにしてんのおまえ」
「いや。さやりんだし、情報共有してたほうがいいかなって」
土屋がポテトチップスをつまむ。
「ん? ──だれがいんの? 土屋さんいま会社?」
「いや自宅。鏡谷くんといっしょ」
「──へ……」
爽花がしばらく沈黙する。
「──えっ、うわわわわ、うわわごめん。二人のお時間邪魔してごめんんん!」
そのまま「ひああああああ」と意味不明な声をしぼりだす。
「あいっかわらず言ってることがちょくちょく意味不明になる生物だな。責任持っておまえがしゃべれよ。――俺はできればもう風呂入って寝る」
「あ、んじゃ鏡谷くん、風呂さきに入る?」
土屋が尋ねる。
涼一はグーにした手を軽くふり、じゃんけんをしようとした。
「じゃんけんいいよ。俺そのあいださやりんと話してるから」
「あそ」
涼一はたたみに手をつき立ち上がった。
土屋が座った姿勢のまま、部屋の一角の棚のまえに移動する。
「ん」
ソフトボックスに手を突っこみ、タオルを投げてよこした。
「ん」
そう返事をして受けとる。
「──おおおおお風呂、えええりょんりょんお泊り……ひああああ」
爽花がふたたび意味不明な鳴き声を上げた。




