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倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第惨話】櫻人ノ迷宮 サㇰㇻ ビㇳ 丿 メィキュゥ 

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110/202

ㄚ縣Ɣ市郊外 五


 リーンと高い鈴の音が響いた。


 ちょうど二台の車のあいだで立ち止まられてしまったことに、えらい気味の悪さを感じる。

 壮年の僧侶が、地面に下ろされた(たる)型の棺桶(かんおけ)のまえに進み出て読経をはじめた。

 現代のものとは微妙に発音がちがうところがある気もするが、自身の祖父の不動尊で聞いたことのあるものだと涼一(りょういち)は思った。

 スマホを耳にあてる。


「──たぶんこの人らの集落だか村、お不動さん(まつ)ってそう。これ真言かな。聞いたことある」


 通話で土屋(つちや)に告げた。

「まじか」

「般若心経とかならたいていの宗派で使うからあんまり特定できないけどな。これは分かりやすいっつうか」

「──不動尊を不動産業者と混同しててもさすが」

 土屋が返す。

「やかましいわ」

「──そうなると、行員さんは何をしろって出てきたのかな」

 土屋が大きく息をつく。

 通常の声の大きさで話していてもべつに葬式の参列者は反応はしないようだ。

 それこそ今までのパターンからすると、ちがう時空のものをリアルに垣間(かいま)見ているだけなのか。


 真言がくりかえし続くなか、(たる)型の棺桶(かんおけ)がガタガタと動く。


 人々がそれぞれに後ずさり、身をかがめて手を合わせはじめた。

 棺桶は左右にゆれ、足元を地面から浮かさんばかりに大きくゆれる。

 人々が悲鳴を上げはじめた。なかには座りこんで手を合わせている者もいた。

「なに? 生き返った?」

 涼一は顔をしかめた。

「──それともまだ生きてる人間を棺桶に詰めてた?」

 土屋がそう言葉を引き継ぐ。

 涼一は土屋の車のほうを見た。


「どっちだ」

「──知らないって」


 土屋が困惑したように返す。

「むかしだと死亡確認も曖昧(あいまい)で、埋葬されたあとに蘇生したなんてけっこうあったらしいけど」

 棺桶が大きくゆれる。

 なかで暴れているように思えた。

 周囲の人間は、ぺたりと腰を抜かしたように座りこんでひたすら手を合わせている。


「──海外の調査だけどさ。十九世紀に、埋葬したお墓をすべて掘り起こしたら二割の遺体が蘇生して(もが)いた ような形跡があったって」


 土屋が言う。

「幽霊より怖えわ」

 涼一は顔をしかめた。

「つかあれ、助けないの? ふつうはあわてて棺桶あけそうだけど」

 涼一は人々の様子を見つめた。

 棺桶がなかから非常に強い力で押され、一部の木材がぐにゃりとひしゃげる。

 こわれて隙間になった部分からぐにゃぐにゃと人の腕が伸び、読経していた僧侶の袈裟(けさ)につかみかかった。

 僧侶がおびえた顔で読経を止める。

 「お坊さん!」「お経!」と、人々が悲鳴のような声で懇願(こんがん)する。

「お坊さん、お経やめねえでえええ!」

 若い女が金切り声を上げる。

 中年の男が頭を抱えて絶叫した。

「もうイヤだあああ! なんべんやるんだあああ!」

 そう言い地面につっぷす。

 

「何か修羅場っつうか……」


 涼一は眉をよせた。

「──わけありっぽいけど過去の記憶みたいなやつだしな」

 土屋が返す。

 頭上を見上げると、桜の樹の枝がウネウネと蛇のようにうねって絡み合っている。

 カフェレストランで見た幻覚とおなじ光景だ。


「マジで桜の妖怪?」


 涼一は桜を見上げた。

「──落ち着いたらググッてみたいけど、そんな妖怪なんて聞いたことないなあ……」

「つか行員が言ってた “桜は平気ですか” ってなに。これのこと?」

 人々がそれぞれに読経のつづきを僧侶に懇願する。

「んなこと言ったって、お坊さま!」

 中年の男性が声を上げる。

「何べんめだ、これ何べんやるんだあああ!」

 そう叫んで壮年の男性が座りこんだ。



 サァァッと風が吹く。



 車のなかにいて外の空気に当たっているわけではないが、外気がまったく真逆の雰囲気のものになったのを直感的に認識する。

 頭上までおおっていた桜の樹は、全体が花びらと化したかように崩れ夜空に消えた。


 周囲の景色が、商店街の裏のせまい駐車場にもどる。


「戻った……?」

 涼一はスマホを耳にあてサイドウインドウの外を見回した。

 車のエンジンをかけてみる。無事にかかった。

 となりで土屋の車もエンジンがかけられる。

 一角を見ると、何ごともなかったように駐車場の出入口は存在していた。

 出入口の両側の建物の壁。そこからのぞくレトロな街灯は、オレンジ色のあかりを(とも)している。

 時間は十六時四十三分。

 怪異のあいだほとんど時間は経っていないようだが、F山は夕陽の沈みゆく空をバックにしていた。

 

「──どうする? 帰れそうだけど」


 となりにならんだ車から、土屋がスマホで問う。

「いや帰るだろ。ふつうに」

 涼一は答えてギアをドライブに入れた。





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