表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倶利伽羅怪談 ㇰリヵㇻ ヵィダン 〜社畜バディと奔放JKの怪異対応処理〜  作者: 路明(ロア)
【第惨話】櫻人ノ迷宮 サㇰㇻ ビㇳ 丿 メィキュゥ 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/202

ㄚ縣ㄚ市郊外 四


 白装束の人々が、車のフロントガラスのすぐまえに迫る。


 シンバルの音と軽いデンデンという太鼓の音を鳴らして、まっすぐこちらに歩みよってきた。

 全員が無表情というのか疲れたような表情だ。

 げっそりとして生気がないのは、霊だからなのかそれとも生前になにかあったのか。

 先頭の人物たちが、車のボンネットの二メートルほど手前まで歩みよる。

「塩でも持っときゃよかったか……」

 涼一(りょういち)は、スマホを耳にあてつぶやいた。身体をわずかに縮ませる。


「──塩、持ってなかったの鏡谷(かがみや)くん。血洗島の件のときいきなり塩に助けられた経験しておきながら?」

 土屋(つちや)(とが)めるように言う。

「また怪異に遭うとは思わなかったんだよ。お不動さんにつきあう気とか最初からねえし」

 涼一は顔をしかめた。

「いやそれでも、アウトドアグッズくらい用意しておこうよってこのまえ言ったじゃん」

「そろえる(ひま)とかあるかって」


 

「──助手席の窓あけて、鏡谷くん」



 土屋がそう指示する。

「あ? ああ」

 理由も分からないまま、涼一はキーを差しこみ助手席側のサイドウィンドウを開けた。

 桜の花びらが、サァァッと吹きこむ。

 土屋が自身の車の運転席のウィンドウを開け、身を乗りだして何かを投げてくる。

 ポトンと小さいものが助手席のシートの上に落ちた。

 口を輪ゴムでくくった小さいビニール袋だ。なかにわずかな量の白い粉が入っている。


「なにこれ。砂糖? 塩? ヤバい薬物?」

「──話の流れ的に塩でしょ」


 あきれたように土屋が答える。

「──念のため鏡谷くんの分も持ってきてやってよかったわ。あげる」

「おう」

 用意のいいやつと思いながら、涼一は投げられた小袋をスーツのポケットに入れた。

「──もしも何日かここに閉じ込められるようなら、その塩桜に振りかけて食料にもできるし」

「え……おう」

 何だそれ。涼一は引いた。

 幽霊よけと非常食をいっしょにするやつをはじめて見た。

 こういうやつと巻きこまれてるからいまいち恐怖感がないんだろうか。


 ジャァン、と妙鉢(みょうはち)の音が鳴った。

 

 葬式の列の先頭がボンネットの間近まで迫る。

「……俺の目のまえでそれ鳴らすな。トラウマがあるんだ、クソが」

 涼一は顔をしかめた。

 車のなかに素通りで入ってこられる覚悟をしたが、葬式の列はあたりまえのように二手に分かれ、車の両側を通って先へと進んだ。

 列にならぶ人々の顔を、サイドウィンドウからうかがい見る。

 こちらのことはまったく認識していないのか。

 土屋の車を見やると、やはり両脇をぞろぞろと通り抜けられている。

 土屋が列を目で追っていた。


 すぐ横から、すすり泣く声や吐息まで鮮明に聞こえる。


 人々の身体の質感や体温まで感じる気がするのは、さすがに錯覚なんだろうが。

「──土屋」

 涼一は通話口に向けて小声で呼びかけた。

「何かありましたか、──どうぞ」

 土屋が返してくる。

「いや。大声出すと気づかれて何かされるかなと思って」

「──元ネタなに? 耳なし芳一?」

「そのへんかな……」

 定かではないが。

 

「行員さんが見せたかったのはこれか? もしくはこれを見ることになると予言しに来た? ──どっちだ?」


 涼一はサイドウィンドウに沿うようにして行く白い装束の動きをながめた。

 装束の素材は、麻か木綿か。質素な感じだ。

 近くで見ると真っ白ではなくかすかに黄ばんでいる気がする。

 漂白剤のない時代だろうしなとどうでもいいことを考えた。


「過去二回のパターンからすると、この人らの集落か周辺の村か後世のおなじ土地の人らがお不動さまを(まつ)ってる? ──んで成仏できない人がいるか、成仏したくなくて逆らってる人がいるか、成仏のしかたが分からない人がいるか」

「……ぜんっぜん推理にならねえじゃねえかよ」

 涼一は眉根をよせた。


 

 (たる)型の棺桶(かんおけ)をかついだ二人が、涼一と土屋の車のあいだで立ち止まる。

 ほかの人間も立ち止まった。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ