お憑かૠਟまڃᒐた
暗い山道を、土屋の運転する車のうしろについて行く。
またGPSのマップタイムラインを使ったのだろうから、こんどこそすぐに街なかに出るだろうと思っていたが、予想に反してなかなか暗い山道を抜けることはなかった。
「おい……」
運転しながら、涼一は顔をしかめた。
前方を行く土屋のスマホと通話してみようかと思ったやさき、向こうからかかってきた。
周辺に警察の検問でもないだろうか、チラッと横目で確認する。
おそらくいまだ異空間のなかだ。
こんな鬱蒼とした山中で検問している警察官はいないだろう。
「──はい」
スマホを肩にはさんで返事をしてから、スピーカーにして助手席に放り投げる。
「──あ、鏡谷、悪いお知らせなんだけど。マップタイムライン、さっきから起動しなくてさ」
涼一は顔をしかめた。
まさかさきほどの成仏がまじで失敗したのか。
お不動さんのやりなおし食らうとかか。
「どこ失敗したんだ。──っていうか、そもそも成仏のさせ方とか正式なの知らんのだけど」
いまさらながら、偉い坊さんか神主にでもたのめと思う。
般若心経すらさいごの二行くらいしか知らん一般の社畜にたのむな。
前方に廃寺のような建物が見える。そのまえにあるタタミ一畳分くらいかと思われる大きさの祠がライトに浮かび上がった。
通りすぎるまぎわに、チラリと見る。
一部が格子戸になっている祠のなかに、青鬼のような不動明王のような像が見えた。
むかしこの辺りは、青鬼と不動明王を混同して祀ってた地域とか土屋が調べたんだったか。
「土屋」
前方を行く土屋に呼びかける。
「ちょっとストップ。あの祠、不動明王だ」
前方の車が、ウインカーを出して停まる。
涼一もすぐうしろに停車した。
バンッとドアを閉めて土屋が降りてくる。手には懐中電灯を持っていた。
「なにすんの。ぶっ壊すの?」
涼一が運転席のドアを開けると、土屋が上体をかがめて尋ねてくる。
「お使い辞退を伝えてやる。べつのやつに続きやらせろって」
涼一は軽くネクタイを直しつつ車から降りた。
祠のほうを見ると、いつの間にか巫女姿の女性がこちらを見てたたずんでいる。
行員の霊池さんこと不動明王だ。
「おつかれさまでした。すべて成仏いたしましたので、安心して帰路におつきください」
きれいな姿勢でお辞儀をする。
「いや……」
土屋が困惑したように苦笑する。
涼一は行員に歩みよった。ポケットに手を入れて見下ろす。
「んじゃ何でまだ異空間ぐるぐる回らされてんだ。まだ何か用か?」
「巫女姿がご希望とおっしゃいましたので」
行員が、かわいらしく首をかたむける。
わざわざそれを見せるために足止めしたんだろうか。
「え……ああ」
拍子抜けして反論する気力が失せる。
「宗教的に違くないの? ──あ、神仏習合?」
土屋が尋ねる。
「以前よりこの姿で現れるときはありましたので。いかがでしょう?」
行員がにっこりと笑う。
「まあ……うん。いいんじゃね?」
涼一はわずかにゆるんだ口を手で押さえてきびすを返した。
運転席のドアを開ける。
つぎにまばたきした瞬間、周囲の景色は自社の社員用駐車場になっていた。
LEDライトのあかりが煌々と車内を照らす。
「そういや山の怪異で、ナゾの巫女姿の女性に遭遇したとかいうのいくつか聞いたことあるわ」
土屋が頭を掻く。
「お不動さん、ちょくちょくあの姿で歩いてるんかね」
「知らね」
涼一は答えた。
いちど開けた運転席のドアを閉める。
車はきちんと区画線に沿って停められていた。動かす必要もない。
このまま直帰するかと息をついた。
「あ……」
LEDのあかりを見上げ、涼一は不動明王への辞退を言い忘れたことに気づいた。
「くそ。巫女姿でごまかされた」
そうつぶやいて舌打ちした。
第似話 みィᑐιϯタ ミィッヶタ
終




