7話 乱れたものは
「なあ聞いてくれよ!この前久々に王都に言ったんだけどさ、超かわいい子がいてさあ!」
「ほう、サイズは」
「俺のヨミだと86、54、88」
「最高じゃねえか!」
今日もうちのギルドは平和である。相変わらず男ばかりなのでむさくるしいが、そのおかげか各々自由な話題に花を咲かせている。八割そっち系の話だが。
中央のテーブルでワイワイと、男たちが旅の土産話を出し合っている。
なかなかの盛り上がり具合だが、俺はこの喧騒が嫌いではない。むしろ安心感まで覚えている。旅や冒険はワクワクする心が無ければなければ決して続かない。
もちろん俺もワクワクしている。だがその感情は彼らと相いれるようなものでは無いだろうが。
田舎のこのギルドには、多くの旅人が訪れる。だから情報集めにも便利だった。そのかいもあって、俺は予想よりも早くゴブリンの王、ゴブリンロードの所在地を掴むことができた。とはいえ3年かかっている訳ではあるが。
俺も中央テーブルの円の中に入る。
「あー、ちょっと聞いてくれ。実はすごい情報を手に入れたんだが……」
「「「まさかベルちゃんのスリーサイズか!?(一同)」」」
前言撤回。やっぱりこいつらは少し元気すぎる。微熱くらいでちょうどいいんじゃないだろうか。
ちなみにベルちゃんと言うのは、このギルドの受付嬢のことだ。このギルドの数少ない癒し担当でもある。その彼女がこちらを見る。全く笑顔をくずしていない。だがその目からは、恐ろしいほどの圧迫感を感じる。シンプルに怖い。
筋骨隆々な男たちも静かになった。無言で黙らせることができる彼女は、この中の誰よりも強いのではないだろうか。
「違うしそんなことをでけえ声で言うな。怖いだろ」
俺は咳ばらいをし、一枚の地図を取り出す。地図は大雑把な世界地図で、至る所に俺のメモが書かれてある。
その中でもひと際目立つように、赤色のペンで丸を付けられている個所がある。
「俺は一番出没するゴブリン、その王であるゴブリンロードの居場所の情報を手に入れた。ゴブリンロードを倒せば、ゴブリンたちは統制を失い、次第に自滅していくだろう。そうなれば、王様から報酬たんまりもらえる、多くの人をゴブリンの被害から守れる、いいことずくめだ。正直、ゴブリンの単体での脅威度は大したことない。でも一番数が多く、実害のある魔物でもある」
嘘だ。ゴブリンロードの場所をずっと探していたのは、そんな大義名分ではない。俺はずっと復讐のために行動してきた。
だが忌々しいことに、あの蛇女は一切の情報が集まらない。悔しいことに、リザの顔も身体特徴も、年々ぼんやりとして来ている。そもそも出自が不明で、いつからいたのかもわからない奴だ。そう簡単にしっぽは掴ませないだろう。
冒険者の男たちは、一気に盛り上がった。なにせ最近のここらの依頼は小さなものが多く、報酬金も少なかった。つまりこのビックイベントは、彼らにとって一攫千金のチャンス。腕利きの冒険者にとって、これを逃す手はないのだ。
そう、金と言うのは人を操るのにも効果的なのだ。
こうやって仕向けるのも大変な作業だった。大きな依頼から小さな依頼まで、片っ端から俺が片付ける。そのついでに情報も集める。すると、大体の魔物の分布状態が見えてくる。そしてギルドの冒険者たちは、金欠になり依頼に飢えてくる。
そうなれば後は簡単だ。大きなエサをぶら下げてやれば、簡単に食いついてくる。こんなに簡単な釣りは無い。
本当にこのギルドのメンバーに入ることができて良かった。そこそこの実力者はいるが、田舎の為大きな依頼は入ってこない。魔物も人の少ないところより、多いところを襲った方が戦利品が多いと言う事を知っている。
このギルドはまさに俺にとって、うってつけの場所だった。
「悪いがみんな、協力してもらうぜ」
「あったりめえだろ!久々だよ、こんなビッグイベントはよお!」
ゴブリンとはいえ、ゴブリンロードは種族の王だ。一筋縄でいくはずも無いし、戦力も足りているのかすら分からない。
できればみんな死んでほしくない。これは本音だ。嘘じゃない。
でもそれ以上に、俺は目的を果たさなければならない。不器用なりに、精一杯育ててくれたジジイの敵討ちは俺にかかっている。ジジイが望んでいるかどうかじゃない、俺がそうしたいからするんだ。
だから、みんなごめんな。
バターンッ!
その時、大きな音を上げて扉が乱暴に開かれた。いや、乱暴と言うよりは、感極まってと言うべきか。それとも喜びのあまり、の方が正しいだろうか。
扉を開けたその人物は、特徴的な銀髪と見覚えのある剣を携えた、あの少女だった。
「やっと!やっと見つけましたああ」
素っ頓狂な声が、ボロいギルドの内装に響く。
俺の計画が全て狂ったのはここからだった。
これ以上に騒がしい奴が増えるのはもうたくさんだ!俺の求めていたヒロインを、こんなところで消費しないでくれ!
運命が乱れた予感がした。
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