02 出会い
高専の受験をするために王都へ向かった正宗とクシナの乗った馬車は半日以上の時間がかかるも王都に到着しようとしていた。
「お客さん。もうじき王都ですよ」
「おい。起きろ正宗」
「ん〜何〜?」
「もう少しで王都に着くらしいから起きろ」
「後10分...」
「ダメだ!一度許すとお前は起きないだろ!」
「よくご存知で〜」
「よし、捨てるか」
「じ、冗談だって!もう起きてるよ」
「それにしたって、よくもまぁ魔物が来たら任せろとか言っといてあれからずっと寝れるな...」
「いや〜ここ最近勉強に集中しすぎてあんま寝れてなかったからな」
「お前が勉強か...珍しいな」
「まぁな!受験落ちるわけにはいかないし」
「でも筆記の科目は分かってないんだし何の勉強をしたんだ?お前に限って私みたいに殆どの教科を勉強するとも思えないし...」
「ふふん!クシナは俺を舐めすぎだな!俺がそんな運任せに一教科を勉強する訳はなかろう。それにクシナみたいに全教科勉強なんてこと俺ができるはずもない」
「自慢げに言うことじゃないんだが...それで?結局何をしたんだ?」
「これだよ!」
そう言うと正宗は小刻みに馬車の床を指で叩いた。
「は...?何やってるんだ...お前」
「モールス信号だよ!モールス信号」
「...はぁ⁉︎お前はそんなことのために勉強する時間を無駄に使ったのか⁉︎」
「無駄とは何だ!無駄とは!」
「これがあればどんな内容のテストだって簡単だろう?」
「お前...天才だな」
「そうだろう!もっと褒めてくれてもいいんだぞ」
「...あぁ、本当...天才だよ。天才的なバカだよ‼︎」
「なっ⁉︎どこがバカだ‼︎」
「第一な!お前がモールス信号覚えたところで他に勉強ができてモールス信号使えるようなやつがいなきゃ意味ないだろうが‼︎」
「それにそんな優秀な奴がいたとして、お前なんかのカンニングに手を貸すわけないだろう‼︎」
「?勉強できてモールス信号覚えれて俺に答えを教えてくれる奴はいるだろ」
「どこにいるんだそんなアホ!」
「?ほら今俺の目の前に」
怒鳴るクシナに対して正宗は平然とした顔でクシナのことを指差した。
「はぁ⁉︎私がそんな事に手を貸すわけないだろうが‼︎それに私はモールス信号なんか使えない!」
「いや〜クシナなら1日もあればモールス信号全部覚えれるでしょ」
「ふざけるな‼︎仮にできてもやるわけないだろうが‼︎」
「なっ⁉︎頼むよ‼︎お前が答え教えてくれる前提でモールス信号覚えたんだから!」
「知るか!今から必死こいて勉強でもするんだな」
「待ってく!本当にお願い!今から勉強したって絶対無理だよ!」
「人に頼る事しか考えてなかったお前が悪い。まぁ諦めて来年受験するんだな浪人生」
「お、終わった...」
「はぁ...試験ギリギリまで勉強手伝うくらいしてやる」
「モールス信号覚えてくれたりは...」
「よし、1人で勉強するんだな」
「冗談だって!お願いします!勉強みてください!」
「お前、全然できなかったからって試験前に喚いたりするなよ」
「流石にそこまではしねぇよ!多分...」
「恥ずかしいから本当にやめてくれよ」
「お客さん。王都に着きましたよ」
「おっ!クシナ!王都着いたってよ!」
「聞こえてる。子供じゃないんだからそんなはしゃぐな」
2人が乗った馬車は王都を囲っている外壁の門をくぐり抜け、門のすぐそばにある馬車の停留所に止まった。
「では、お会計が6万Gになります」
「じゃあ大銀貨6枚で」
「はい。大銀貨6枚でちょうどですね!ご利用頂きありがとうございました!」
「ありがとうごさいました」
2人は母親から渡された金を御者に支払い、お礼を言うと王都に降り立った。
「おおー!すげぇ!ここが王都か!夜なのに人が大勢いるぞ!うちの村とは大違いだな」
「正宗、恥ずかしいからあまり騒ぐな」
「いや、こんな都会初めて来たんだからはしゃぐなって方が無理だろ」
「気持ちは分からなくもないが...さっきから周りの人に見られてるからやめてくれ」
「そんな事いちいち気にすんなよ!それより飯食いに行こうぜ!」
「!! そうだな!まずはご飯だな!」
正宗が食べ物の話を切り出すと露骨にクシナの表情と態度が一変した。
「とは言っても王都なんて初めて来たしな。適当に見て回ってピンと来るものがなかったら適当な人におすすめの店聞くか」
「そんな感じでもいいか?」
「あぁ!美味いものなら私は何でもいいぞ!」
「だろうな」
「んじゃ行くか」
そう言いしばらくの間2人は飯屋を探して見て周ったが結局、通行人におすすめの店を聞きおすすめされた定食屋に行く事にした。
「ここだよな。さっきの人が言ってた店」
「合ってるはず」
店の看板にはデカデカと『暗澹』と店の名前が書かれていた。
「何つーか...すげぇ不安になる言葉だな」
「だよね...」
「ま、まぁ店名はアレだけど飯は美味いと思う...よな?」
「何で私に聞くんだ!知らんわ!」
「とりあえず入ってみるか」
ガチャッ...
「いらっしゃいませー!」
不安になりつつも入店すると店名とは裏腹に店は客で賑わっていた。
「何名様ですか?」
「2人で」
「かしこまりました!こちらの席へどうぞ」
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
ウェイトレスは案内を終わるとすぐ他の客から呼ばれ席を離れた。
「思ったより人いるな」
「...」
「何か俺らと同い年くらいの人多くないか?」
「...」
「ねぇ聞いてる⁉︎」
「聞いてない」
「いや、聞けよ!てか聞こえてんじゃねぇか!相槌くらいしろよ」
「後で構ってやるから少し静かにしてくれ」
「いや、人を赤子みたいに言うんじゃねぇよ!」
「...」
クシナは席に座ってからずっとメニュー表に釘付けになっていた。
「本当にお前は食と刀に関する情熱は凄いな...」
「...よし!決めた!もう頼んでもいいか?」
「まだ俺決めてないんだけど⁉︎」
「全く...正宗は優柔不断で遅いな。早く決めてくれ」
「誰かさんがメニュー表独占してたから決めるも何も見れてないんですけど⁉︎」
「はぁ...とりあえず決めるか...」
「へぇ...色々あるんだな」
「あんまグダグダ決めてたらお前に斬られかねないからな。よし!俺も決めた」
「すみません」
「はーい!少々お待ちください」
定員が来てから正宗はハンバーグ定食をクシナはオムライスを注文し、10分ほどで料理が運ばれてきた。
「ん!美味っ!王都の飯はこんな美味いのか...なぁクシナ」
「......」
クシナの方を見ると黙々とオムライスを食べていた。
「何というか...うん。凄いな...情熱」
「......」
「なぁところでさ」
「...何だ?」
「やっと話す気になってくれたか...何かさ客やけに同年代くらいの人多くないか?」
「...確かにな。まぁ王魔高専(※王都魔法魔術高等専門学校の略)は受験人数がそこらの学校とは文字通り桁違いだからな。私たちと同じで王都に受験しに来た人達じゃないか?」
「なるほどな...みんなだいぶ余裕そうだけど試験大丈夫なのか?」
「少なくとも明日受験を受ける全員、お前だけには言われたくないと思うぞ」
「ねぇ!君たちも王魔高専の受験を受けるの?」
2人が話をしていると突然隣の席にいた同年代であろう男女が話しかけてきた。
「そうだよ。もってことは君たちも?」
「もちろん!やっぱ国1番の学校だから入学したいよな!あっ、名前言うの忘れてたね」
「俺は珍彦!よろしく!こっちの女は...」
「ルーナよ。よろしくね」
「俺は正宗こっちはクシナ。よろしく!」
「よろしく」
「俺らのことは呼び捨てで構わないからな」
「分かった。俺とクシナのことも呼び捨てで構わないよ」
「...勝手に決めるな!まぁ構わんが」
「そういえば珍彦達は随分余裕そうだな」
「あぁ!俺たちは故郷の街でも特に魔法が得意なんだ!」
「なるほどな。でも筆記の方は大丈夫なのか?」
「筆記?今年は筆記無いぞ」
「「え?」」




