最終話
主人公は「蠱毒の中で集中攻撃を受けて死ぬ、特別な一匹」でした
「あぁ……」
僕は逃げようとする生徒達の首や胸を次々と刺しながら、恍惚とした声を漏らす。
彼らは、僕をいじめてきた人たちだ。殴ってきたり、蹴ってきたり、生ごみをぶつけてきたり、溺れさせたり、僕のモノを盗んだりしてきた人たちだ。そしてそんな僕をみて、笑ってきた人たちだ。
それが、どうだ?
今の彼らは、哀れな悲鳴を上げ、無様に逃げまどい、涙を流し、来るわけもない助けを求めて叫んでいる。
なんて、なんて素晴らしい光景なのだろう。
やっぱりみんな、ずるいよ。僕を仲間外れにして、こんな楽しいことをしてきたんだね。
逃げ惑う生徒達は一人だって逃がさないよう、殴って、蹴って、生ごみをぶつけて、最後に刺し殺した。
普段は強気な生徒達も、凶器を持った僕を前にすると足がひるんで、まるで立ち向かえなくなるらしい。
そんな哀れな連中をひたすら刺し殺していくのは、ただただ気持ちよかった。
――もう、何人殺したかもわからない。最後の一人が、僕の目の前にいる。
「……な……なんで……」
そいつは怯えながらなにかを言おうとしたので、僕はその髪を乱暴に掴んで持ち上げる。
「なんだ? 言いたいことがあるなら聞くぞ」
「なっなんで……なんで、こんなことするんですか?」
「……」
妙な既視感を覚えた。だが、そんな事どうでもいいと思えるくらい、今は気分が良かった。
「そんなの、決まってるだろ? 楽しいからだよぉ!!」
俺はソイツの顔を、思いっきり川の水に突っ込んだ。
そいつは苦しそうにもがきながら、必死になって川から顔を出そうとしている。その姿はひたすら滑稽で、僕のテンションを昂らせた。
「その苦しそうな顔を見るのが、僕を苦しめた連中が苦しそうにしているのが、どうしようもなく楽しいんだよ! どうだ!? 水の中で動けないと苦しいだろ!? 苦しいよなぁ、なんてったって――」
――――あれ?
「僕はなんで知っているんだ……?」
おかしい。確かに僕はいじめられてきたが、そのバラエティ豊かないじめの中で水に溺れさせてくるようなものはなかったはずだ。
……じゃあなんで、僕は、その苦しみを知っている?
「っていうか、ここ……」
僕が今いる場所は、学校の近くにある川だ。死体を処理するのに使ってきた、川だ。
あれ?
僕はさっきまで、ここにいたんだっけ? そもそも、僕は、この辺には転校してきたばかりだ。この場所は僕の自宅とは反対方向にある場所だ。
親の言いつけで寄り道なんてしてこなかった僕が、なんでこの場所を知って――
なんで……知って……
「…………あぁ……そう、なのか…………」
気づいたときには、僕の目から涙がこぼれ落ちていた。
分かってしまった。僕がなんでここにいるのかを。なんでこの場所を知っているのかを。
何かがおかしい、とは思っていた。
あんな雑な処理で、僕が殺したと気づかれないはずがなかった。
これだけの生徒が行方不明になっておいて、普通に授業をしているはずがなかった。
僕が彼らを殺せたはずがなかった。
殺されることができたのは、僕だけだったのだ。
あの件以降、ひたすら耐え続けた僕に対するいじめは収まることはなく、日に日に過激化していった。
やがて普通のいじめじゃ満足できなくなった彼らは、僕をこの場所に連れてきた。
この場所で僕は、何度も殴られ、何度も蹴られ、何度も石を投げつけられ――何度も水に顔を突っ込まされ、僕の意識を奪った。
そうか……そうか。さっきまでのは、僕の夢だったんだね。
「……こんなのって、あんまりじゃないか……」
自分の体が複数の手によってばらばらにされていく光景を最後に、僕の意識はなくなった。