第460話 もみじちゃん別働隊伝説
「先輩! チェンファが別のとこで頑張ってるみたいだから応援に行きますー」
「ほいほい。がんばって!」
もみじちゃんとハイタッチして別れたのだった。
今回、もみじちゃんをそこまで連れて行ってくれるのはバングラッド氏。
イギリスでは一緒に行動だったけど、今回は別ルートだね。
『任せよきら星はづき。我ともみじで西部地方のダンジョンを殲滅してくれよう』
バングラッド氏、実に楽しそうなのだ!
この人、人類を相手に魔将やってるより、人類側に立って魔王相手にしてたほうが生き生きしてる気がする……。
『そりゃあ、相手が遥かに強いからな! 敵が強いほど燃えてくるというものではないか』
「戦闘種族~」
こうして、バングラッド・スカイボードみたいに変形した彼に、もみじちゃんがくっついてブイーンと飛んでいってしまった。
「バラバラに動いて大丈夫なのか!? 君はまだしも、あんな小さな子まで……」
「彼女、同い年なんですが……! あと、もみじちゃんはああ見えてイカルガトップ2なんで全然大丈夫です」
「トップ2!?」
書記代行の人が驚いた。
登録者数200万人を超える超大物ですからね。
私はその日、ホテルに行く前にちょっとヘリで運んでもらって、近場まで迫ってきてるダンジョンをペチッと叩いて消滅させてきた。
「あっ、見渡す限りの黒い泥が消滅した!!」「はづきっちの配信は本当だったんだな……」「対ダンジョン装備で完全武装した軍隊ですらなすすべが無かったのに……」「ゴボウ一本で……」
「本気でやると大変なことになるので、細心の注意を払って優しく撫でるように叩いております……」
ダンジョンとしてはちょっと強めだけど、まだまだ触れば吹き飛ぶ儚いものだからね。
下にある地面を大事にしたい!
私はこれくらい仕事できますよー、というのを示した後、カナンさんとともにホテルに来た。
おおーっ、広い。
広いなんてものじゃない。
「はづき! このホテル、部屋が八つある……。なにっ、お風呂が三つある! トイレが四箇所!? どうなっているんだ!」
「ロ、ロイヤルスイート!! まるで国賓待遇だあ……」
衝撃に震える私だった。
そう言えば国賓なんだった。
「ちょっと待ち時間の間にもみじちゃんの配信を見ますかねえ……」
なんとなく今、配信がされている気がした!
スマホでチェックすると、今まさにチェンファと再会しているところだった。
バングラッド・スカイボードに掴まって、ぶいーんと飛んでいくもみじちゃん。
片手を使って、麺棒を振り回す。
「やきそばパーン!」
もみじちゃんを取り巻くように、焼きそばパンがたくさん出現。
そこから伸びた焼きそばが、周囲にいたモンスターを一気に拘束する。
焼きそばの量はモンスターより全然多くて、周囲のダンジョンした環境にも突き刺さり……。
「みんな変えちゃってー!!」
もみじちゃんの叫びに応えて、焼きそばパンが光り輝いた。
焼きそばが突き刺さったダンジョンが、もみじちゃんの進行に合わせてその表面を引き剥がされて、もみじワールドに変化していく。
『ダ、ダンジョンを侵食しているというのか!? それは魔将という域を超えた権能……!!』
あっ、なんか現地の魔将っぽい人だ!! オオカミ人間型だねー。
中国語で叫んでるのが翻訳されてて、便利ですねえ。
「もみじばっかり見ているなー! 私はここだー!!」
チェンファが横から飛び出してきて、ウサギみたいな装備のまま魔将に強烈なキックを放った!
『ウグワーッ!』
「とどめー!」
「いくよー!」
チェンファが吹っ飛んだ魔将目掛けて、背中のブースターで加速して、追いつきながら踏みつけキック、キック、キック!
中国の配信者さんはメカニカルな感じと、武術とか道術とか妖怪みたいなのを融合させてるから見てて面白いですねえ。
で、もみじちゃんを取り巻く焼きそばパンが次々射出された。
あっ、焼きそばパンがチョリソードッグに変わった!
そして打ち出される粗挽きチョリソー。
それが魔将をばかすか打ちのめす。
『ウグワワーッ!? こ、こんな、一気に戦況が逆転……ばかなーっ!!』
無数の惣菜パンが映える、ファンシーワールドに乗っ取られたダンジョンで、魔将は叫びながら光の粒になって消えたのだった。
そしてもみじちゃんとチェンファの再会!
なんか手を取り合っているシーンで、コメント欄が滝のように流れる。
おお、日本人も中国人も、てえてえ、とかしか言ってない!!
考えることは一緒ですねえ。
私が感心していたら、ルームサービスで中国茶とお菓子を取り寄せていたカナンさんが来た。
「もみじは己の世界を作り出し、世界そのものに相手を取り込んで倒す。その素材が惣菜パンなので、まあ暴食の系統の能力ね。はづきの眷属筆頭らしい能力だと言える」
「そうかー、私の影響だったかあ……」
それっぽい気はするもんね。
『お茶飲むの? じゃあ私も飲む飲む』
ベルっちが分かれてきて、三人でお茶とお菓子を楽しんだ。
パイの中に果実の餡みたいなのが入ってるの美味しい。
上品なお味ねえ。
「ベルゼブブ、はづきの眷属である三人は、あなたが取り込んだ大罪の力を使っているのではない?」
『鋭い。えーとね、もみちゃんが暴食、はぎゅうが憤怒、ぼたんが色欲と嫉妬。もちろん、三人ともそういう感情とは全然切り離されてるけど、覚醒前の大罪勢くらいの力は発揮するんじゃない? あ、もみちゃんはもう覚醒してるかも』
「やはり。はづきを起点にして力を供給されているのか。道理で、あの三人は特別な才能を持っているわけでもないのに、飛び抜けた強さを発揮するはずだ」
ふんふんと頷くカナンさんなのだった。
『私としては、カナンさんは自力だけなのに彼女たちと並ぶ強さを手にしたの、凄いと思うんだけど』
「努力と研鑽、そして何より観光地パワーだ」
「観光地パワーすごい」
カナンさんこそ、人との繋がりとか、観光地への期待のパワーで戦う正統派かも知れない!
なお、バングラッド氏は地力がめっちゃくちゃ強いので、同接数がちょっとしたブーストにしかなってない気がする。
さっきももみじちゃんの配信の画面端で、魔将以外のモンスターは一人で片付けてたもんね。
『そういうわけで、うちの眷属は強いのだ。他の大罪とは違うのだよ、他の大罪とは』
「ベルっちがなんか大罪の魔王っぽいこと言ってるなあ!」
『いやいや、一応魔王だから! 人間に敵対するより、身内に入って美味しいもの色々食べる方が全然お得だと気付いた賢い魔王だから!』
そう言いながら、ベルっちが現地のお菓子をパクパク食べるのだった。
うわー、食べ切られる前に私も食べるぞー!!
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