第401話 本日も賑やかなりイカルガエンタ伝説
「くくくくく、悔しいです……! 人生で唯一望んでも手に入らないものでした……!!」
なんかファティマさんが大いに悲しみ、ビクトリアに慰められている。
「よくあるわ、多分。私、人生経験が浅いから良くわからないけど」
「慰めになってるようななってないような……」
ここはイカルガのスタジオ。
新しい公式番組の収録をやってるところなのです。
今は休憩時間。
「時にファティマさん、悔しがっているのは一体」
私は興味が湧いてきたので尋ねてみた。
そうしたら、彼女は沈痛な面持ちで……。
「斑鳩さんに振られました……! というか、普通に春に式を挙げるつもりだから参列してねって……!」
「おお、さすが兄、人の心を知らない」
あと、私も春に挙式って初耳なんですけど。
なんで実の妹が知らない情報をファティマさんに流したんですかね?
近くにいたからだけが理由じゃないかな。
ついに兄、受付さんと結婚するようだ。
式は身内だけで挙げる小規模なのにするつもりらしく。
その小規模の内側の内側にいるはずの妹が、他の配信者づてで初めて知ったんですけど?
まあおめでとうということです。
ファティマさんとしては傷心だけど、それはそれとして日本の特殊な制度を使って第二夫人が狙えるかもなんて言ってるので、まだ諦めてないっぽい。
ははあ、実は功績を挙げた配信者は配偶者を二人までゲットできる制度が、まだあったんです?
「あったんですよ」
「ひえー」
スレイヤーVさんがやってるあの状況、人は選ぶけどまだまだ行けるんだ。
恐ろしい国だ。
想像の上を行ってくれる。
震え上がる私。
じゃあ一体、スパイスちゃんだったらどうなってしまうんだ……!!
旦那さんが? 奥さんができたらかわいいがダブルに?
うーん!
想像すると頭が混乱してきてお腹が減るのだった。
「むっ、いたな」
噂をしたら兄だ。
「きゃっ」
なんかファティマさんが甲高い声をあげてる。
こんなカワイイ声出す人だっけ……!?
失恋はまだ全然してないのでは?
「いや、今日はファティマではない。お前だお前。宇宙明の式神が見つけたのだが、お前、正体不明の異世界人を弟子にしたな?」
「うおー、なぜそれを。いや、調べられたんだった」
兄の耳が早い!
私とスファトリーさんの関係をあっという間に知られてしまったのだった。
まあ、半月以上付き合いがあるんですけど。
「いやあ、プライベートなことだったので」
「そういう重要なことは報告してくれ。どうやらお前の作ったマスコットキャラでデビューする予定らしいじゃないか。イカルガにもあからさまに人外系の配信者が欲しかったんだ。だが、人間はマスコットキャラのアバターを被ると、著しく認知と身体機能の差異が発生し、動けなくなる……」
うんうん。
冒険配信者で、デフォルメされたキャラがほとんどいなかったり、本人と体格差が大きいアバターが少ないのはそういう理由なんだよね。
スレイヤーVさんとかスパイスちゃんが特殊なの。
特にスパイスちゃんは、本人は大京さんと同じくらい背が高い人なのに、私よりちっちゃなバ美肉ボディに収まってああも活躍してるのは本当にすごい。
で、私の弟子のスファトリーさんは、マスコットになっても問題なく動き回れるという才能を持つ人だった!
異世界人すごい。
「じゃあスファトリーさんを連れてくればいい? イカルガだともうしばらく人を増やさないみたいに言ってたから、自前でお世話してたんだけど」
「連れてきてくれ。なに、一人くらいならどうとでもなるだろう。何より、誰とも属性が被らないからな」
「はーい」
ということで!
その足でホテルに行き、部屋でアワチューブを見ていたスファトリーさんを連れてきましたよ。
「一体どういうことなのじゃ」
「私が所属してる会社でお世話してくれるそうなんで」
「ほう、師匠のか。それは興味がある」
スファトリーさんはわらわっ娘だけど素直なので、きちんと説明すると納得してくれるのだ。
いい子!
兄とも顔合わせをする。
新しいメンバーが異世界人女子だというので、物珍しそうにスタッフやイノシカチョウの三人が覗いているのだ!
「ちょこちょこと強大な力を持った者がいるな。なるほど、魔王の侵略に抗うための城というわけか」
なんか不思議な納得の仕方をしておられる。
でも、まあ似たような感じではないでしょうか。
兄はスファトリーさんの前で、薄く微笑んでいる。
これ、内心はめちゃくちゃ喜んでる。
白髪、褐色の肌、エルフとは違う感じで突き出した獣耳、青くて全身にフィットしたスーツ。
凄く異世界人っぽいもんね。
なお、スファトリーさんは兄の外見だけで判断してて、「こやつ、できる……」とか言ってるんだけど。
「スファトリーくんと言ったな。君にはぜひ、我がイカルガエンターテイメントに所属して欲しい。我々はマスコットキャラ枠での配信者を欲しているのだ」
「ふむ、なるほど。ゴボウアースの強き者達が集う場所か……。良かろう。わらわも興味がある」
はやっ!
契約が成立してしまった。
兄がOKって言ったらもうそれで会社的にもOKだからなあ。
こうしてスファトリーさんは、イカルガエンターテイメント11人目の配信者になったのだった。
うち、兄がゼロナンバーらしいから、12人だね。
円卓の騎士か。
「ところでこのトナカイみたいなマスコット、空を飛ばせた方がいい」
「そうなの?」
「小さいと画面に映らないか、彼女にカメラを向けると他の者の顔が映らなくなる」
「なるほどー。じゃあ翼を生やしますね。トンボみたいな四枚羽で……」
私はさらさらとその場でアバターに羽を書き加える。
なんか、鳥とかコウモリの翼って感じじゃなかったんだよね。
うんうん、このトンボの羽がいい感じ。
「うーむ、わらわのアバターの異形感が増した……。さすがは師匠だ」
「おお、このセンスを分かってもらえるとは」
持つべきものはいい弟子だなあ。
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