第254話 やって来ました!海水浴ダンジョン伝説
お弁当なんかを用意する暇も無かった……!!
大体の到着時間を聞いて、ツブヤキックスで宣伝をする。
『本日のお昼過ぎから、突発ダンジョン配信しちゃいます! 場所は海水浴場で、本当はお披露目配信するつもりだったけれど暇が無いので、ここで新しい水着を見せます!』
『うおおおおおお』『突発新作水着!!』『はづきっちはこの一年でさらに成長したのだろうか』『気になりすぎる……!』
すぐに反応がついた!
ええと、ツリーを続けて説明をしないと……。
『この配信は、イカルガでデビューするお二人の顔見せも兼ねているのと、ビクトリアがお手伝いで参加してくれます。あ、ビクトリアはビクトリアで枠を立ててます!』
『なんだって!?』『つまり四人の女子が水着で登場ってこと!?』『なんちゅう……なんちゅう素晴らしい配信をやってくれるんや』
いきなりで済まんね……。
アーカイブは残るから、仕事とか塾で見られない人は後で見てね。
ということで飛行機は広島までビュンと飛び、そこから全ての信号を止めて尾道まで車がぶっ飛んでいく。
今回同行するのは、ビクトリアともみじちゃんのマネさんだ。
母の友人でもあり、女子としてのベテランでもあるので大変頼りになる。
「海の家は一軒貸し切ってあります。ここで着替えた後、配信の拠点にします。ダンジョン化したのは海水浴場のここから……ここまで。現地の配信者の皆さんが、ダンジョンの侵攻を食い止めてくれています。それから異種族の方々の協力も得られています。だけど、敵の攻撃が激しいらしくて押されていますね」
「な、なるほどー」
「分かりやすいわ」
「マーマンとマーメイドが加わっても押されるということは、魔将がいると見て間違いないだろうな」
「なんだかよく分かりませんが頑張ります。状況把握はとても得意なんです。故郷では必須でしたから」
ビクトリアはもはやベテランの余裕。
カナンさんは冷静にAフォンに転送された地図を見て、敵の動きを考えてる。
ファティマさんはなんかムフーっと鼻息を吹き出してやる気満々だ。
こうして現地に到着した私たちは、貸し切りになった海の家になだれ込んだ。
海の家のマスターだっていう、麦わら帽子にサングラスにアロハシャツのおじさんが「うほー!! はづきっちだ!!」と飛び上がって感激している。
「ど、ど、どうもどうも、フヒヒ」
私はへこへこ頭を下げた。
「あの、あの、ちょっとお借りしますね」
「もちろんだよ!! うわー、光栄だなあ! あのはづきっちに協力できるなんて!! 俺、チャラウェイ推しだったんだけど、あいつの配信にはづきっちがコラボで出てきて、なんだこの陰キャJKって思ってたらあの劇的な活躍だろ!? 一気にファンになってさ……!! 頑張って! もう、超頑張ってください!! 俺たちの夏の稼ぎが掛かってるんで!!」
「あっ、凄く古参のファンの人……! ありがとうございますありがとうございます」
ペコペコしながら握手したら、マスターが「ウグワーッ!! 推しと握手!! 人生最良の日!!」とか叫んで大喜びしている。
陽キャだけど悪い人じゃなさそうだな……。
めっちゃ苦手なタイプだけど!
こうして、私たちは海の家の更衣室で着替えた。
ビクトリアは体だけバーチャライズして、水着はそのまま。
うんうん、体にフィットしながらもあちこちでゴージャスにフリルが広がったり、オープンになってるところから華奢で真っ白くてきれいな体が見えるゴスっぽい水着がめっちゃ似合う。
「リーダーが舐めるように見てくるわ! 私の裸は見慣れてるでしょ?」
「うん、でも水着を着ると全然違った良さがね」
「確かにそうだわ。ラノベやアニメでもそういう展開よくあるものね。現実も追いついてきたのかしら」
続いてカナンさん。
うおーっ!
ビクトリアの肌色がちょっとピンクがかった白なら、カナンさんは木々の緑を思わせる白!
そこにちらほら見えるお肌がセクシー。
イエローのスイムドレスがとてもお似合いです。なんか高貴な感じで、凄くエルフっぽい。
「外で着ると……なかなか開放的でいいな……。癖になりそうだ」
いかん!
カナンさんが変な癖に目覚めそう!
ファティマさんは、真っ赤なビキニを着たら、そりゃあもう凄い。
はちきれんばかりだ……。
あと、彼女の初バーチャライズは……黒い髪がサファイアブルーの光沢を纏って、目の色はアメジスト。
アニメっぽい肌艶をしてる。
アラビアンナイト的なジーニヤーって感じの姿になるのね。
「時にファティマさんはどういうファイトスタイルで?」
「はい。私は斑鳩さんのお弟子に当たるのですが」
兄の弟子!?
なんかスタイルが分かったぞ。
「曲刀二本を携えて、踊るように戦うというですね。踊りの先生もお呼びして、みっちり習っておりました」
「やっぱり!! お兄ちゃんと言えば両手に武器!!」
二刀流大好きっ子だからなあ、あの人。
そして私も着替えた。
チューブトップのビキニ!
バーチャライズで、エメラクさんデザインのメイドテクスチャーが上からかぶさるのだ。
おおーっ、ピンクのでっかいリボンかわいい~。
これ、腰回りの背中側にもついてるのね。
思ったよりもフリフリスカート、短いぞ。ちょっとかがんだらお尻出るじゃないか。
「リーダー!! かわいいわ! かわいいわ!!」
ビクトリアが大興奮して私の写真を撮りまくった。
「あひー」
「リーダーは本当にアニメキャラみたいな見た目してるのよね……。本当に私、リーダーと出会えて良かったわ」
まだ仕事が始まってないのに遠い目をしてる!!
こうして着替えた私たちが海の家から出てくると、マスターが「うおおおおお! うおおおおおお!!」とか叫んだ。
大変喜んでらっしゃる。
そして始まりますよ、配信!
「お前ら、こんきらー! 海水浴場がダンジョンになっちゃった! ということで、急遽ダンジョン配信していきますね! いやあ、いい陽気ですねー。ここは瀬戸内海なんですけど、東京とは違う感じの暑さでちょっと爽やかかも……」
※『こんき……ヌッ!!』『うおおおお!?』『新しい水着!!』『リボンでっか!! リボンでも全く隠しきれないおぱ……っ!!』『腰のリボンでっか!』『スカート短くないです!?』いももち『ちょっとかがんで見せて……!!』
リクエストがあったので、私はくるっと回ったり、後ろ向きになってかがんだりした。
※『うわあああああああ』『うおおおおおおお』『ナマンダブナマンダブ』『Jesus Christ!!』『太危险了我无话可说~!!』『너무 행복해요! 이 순간을 영원히 기억하고 싶어요……』
うわーっ、コメント欄がめちゃくちゃ国際的になった!!
世界のお前らが喜んでいるのが分かる……。
流れが加速しすぎてもう目では追えない。
ビクトリアもまた、彼女の配信で大絶賛されている。
あ、ビクトリアはあれか!
初水着だ!!
お披露目がこんな突発でいいのか。
いいのだろう……。
で、続いてカナンさんが出てくると、
※『エルフの水着だああああああああ』『あまりにも清楚!!』『はあはあ、かわいい、かわいすぎる』『俺はこの配信でキュン死する』『ドールみたいな完璧な美……』『かわいすぎますよう』『無限に推せる』
もう、盤石の人気を誇るカナンさんなのだ。
彼女、デビューしたら一日で登録者10万人行くと思う。
各企業からエルフの配信者がデビューしてるけど、カナンさんは比較的後発、でもメディア露出が多いもんね。
今は溜めを作っている期間なのだ。
で、一番のサプライズはファティマさん。
「あっ、皆さん初めまして。ファティマと言います。このたび、イカルガエンターテイメントからデビューします。よろしくお願いします」
大変礼儀正しく、私とビクトリアの配信枠に向かってペコペコした。
一瞬静まり返るコメント欄。
そしてすぐに、コメントが嵐となって駆け巡った。
※おこのみ『はづきっちに匹敵するわがままボディだと!? うがあああ、鎮まれ俺のリビドー!』『イカルガエンタ、とんでもねえ隠し球を持ってやがった!』『でっ……』『うお、でっか……』『褐色美女、いい……』もんじゃ『彼女のスタイルはジーニヤーか? いや、インド神話の女神を表現しているとも言えよう。そのつややかな肌色はより一層彼女の魅力を引き立て、うっ』『有識者の賢者モードが突き崩された!』
ファティマさんは顔を上げるとニッコリした。
私に、「皆さん喜ばれているようで、何よりです。私も嬉しいです」なんて言うのだ。
※おこのみ『こ、こ、こんなえちちボディなのに心は清楚だなんてよくばりセットがあってええんか!! ええのや!! ええのやーっ!!』『うおおおおおお!!』『イカルガ強すぎる~!!』
みんなの水着に、スパチャが止まらない。
うわーっ、頭上のスパチャアイコンで空がカラフルに染まっていく……。
あまりに私たちの配信の掴みが大盛りあがりだったせいか、海水浴場を侵食しつつあったダンジョンが、目に見えて後退していった。
「はづきっちの配信が始まったら、ダンジョンが押し返されてる!」「こんなことってあるんだ……」
先に来ていた他の配信者の人たちもびっくり。
うん、私もびっくりだ……。
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