第235話 エルフさんと世の中の動き伝説
岩手県で見つかったエルフさんたちは、一旦教育機関のある東京にまとめて運ばれることになった。
つくばの方で、色々調べたいという申し出があったんだけど……。
「彼らは難民であり、実験される対象ではない。後日、身体検査などを行うから人間に行うやり方で対処するように」
迷宮省の長官がそういうお達しを出したのだった。
ということで。
カナンさんは一時的に、我が家にホームステイすることになった。
部屋数は足りないけど……私の部屋に泊まってもらえばよし!
八畳くらいあるしね。
「ではよろしく頼む……。この世界が私たち森の民を受け入れてくれたことを嬉しく思う。私たちの世界は、各種族ごとにいがみ合い、共闘がならぬ間に魔王によって侵略されたのだ」
「あー、うちも国同士でやいやいやってるうちにダンジョンでぶつ切りにされたみたいです」
「あっ、やはり。どこも一緒なのだなあ……」
私の部屋のちっちゃいテーブルに、お茶とお茶菓子などを載せてカナンさんと向かい合う。
ビクトリアもやってきて、お茶菓子をサクサク食べていた。
今日のは米粉のクッキー。
「うーむ……。この世界の菓子は甘い……。そして美味しい……。なんと食が豊かな世界だろうか。だが昼に食べたラーメンはあれだ。濃すぎた」
あの後、父の胃薬をもらって飲んでいたカナンさんなのだ。
「ミス・カナン。スウィートなお菓子ならもっと凄いのがあるわよ。私の友達のファティマが世界一甘いお菓子を作れるのだけど」
「あー、グラブジャムン!! 私も衝撃を受けた……」
「あまりすぐに物を覚えないリーダーが、一瞬で名前を覚えた驚異のお菓子よ」
「え、遠慮しておく……」
ちょっと引き気味なカナンさんなのだった。
その後、エルフはどういう生活をしてるかとか、こっちの世界はどういう感じで運営されてるのか、みたいな話をした。
カナンさん曰く、エルフは割りと文化的に暮らしてるみたい。
森の中に樹上都市を作って、それぞれの建物は礎とする樹木が寿命を迎えると、まるごと切り倒して森の養分にするとか……。
「気の長い話ね。多少寿命が長い私たちエルフでも、樹木の家の終わりを見るには何世代も重ねることになる」
「エルフって千年くらい生きたり?」
「まさか! それは太古のハイエルフ。今の私たちは他の種族の血が混じり、せいぜい150年くらいしか生きないわ。見た目はあまり老いないのだけれど」
「それでも長いよねえ」
なお、カナンさんは割りとベテランな感じで、もう百年くらい生きてるらしい。
年齢で言うとおばちゃんくらいになるのではないか。
確かにラーメンは重かったかもなあ……。
「夫と子供がいるが、子が独り立ちしたから私は夫婦を解消し、種族のために残りの寿命を使うつもりだった」
「なるほどー。そこに魔王が」
「そういうことだ……。堕ちたるエルフ、ペルパラスに率いられたオウルベア軍団が我々の町を襲った。私たちは必死に戦ったが……一人、また一人と倒れ、ついにエルフの町は終わりを迎えるかと思われた。そこで突然、この世界と繋がったわけ」
「ははあー。なんでだろう……。VRでカナンさんの世界と繋げたから、すごくあちこちで繋がりやすくなってるとかかな?」
スマホでアワチューブを見てみると、今もライブで、国のあちこちでのダンジョン配信が流れている。
その中に、異種族発見! みたいなのをやってるチャンネルも結構ある。
「あっ、チャラウェイさんがドワーフと会ったって」
「彼らもこちらに来ているのか。ということは、鉱山都市がこのニッポンという世界と繋がったわけだな」
ふむふむ頷くカナンさん。
配信の中では、チャラウェイさんと、コラボしていた八咫烏さんがなんか大きい魔神みたいなのと戦ってる。
おっ、なんかこの配信にも有識者いるじゃん。
「えーと、バルログ……?」
「バルログ!? 火山の魔将だ! やつまでこちらに来ているのか! さては魔王め、この島国を征服するつもりだな……」
何やら大変な様子です。
一旦戻って、別の動画。
あっ、バングラッド氏がスーパーオクノパーティというパーティゲームで配信者さんと対戦してる!
魔将と対戦してみた! というライブ配信ですね。
個人勢の人だけど、ゲームが上手い。
おおー、バングラッド氏がボコボコにされて『ウグワーッ』とか悲鳴を上げてる。
この人、魔将だけどなんかだんだん人気が出てきてるんだよな。
※『バングラッドがまたやられとるw』『色んなゲームに挑戦しては配信者にボコられてるからなw』『だんだん上手くなるんだけどね』『妙に憎めない魔将だ……』
この動画間の温度差よ!
チャラウェイさんの配信を見ると、絶対理解し合えない敵!! みたいなのに。
別の配信だと、バングラッド氏が配信者さんとスタンプ使って煽りあっている。
スタンプ文化を覚えたかあ。
これを見たカナンさんが、物凄い顔をした。
「えっ、何この魔将。なんで現地人と遊んでるの……。というか、なんだこれは!? 遠見の水晶盤に良く似ているが、それより小さいし、複数の場所の様子を次々に見られるとかどれだけ高性能なのだ……!」
カナンさんがスマホを覗き込んでいる。
「通信系は私たちの世界はめちゃくちゃ強いですねー。あと、これは配信って言って、ここでみんなが応援してくれるから私たちはすっごく強くなるわけです」
「なるほど……。通信が極めて発達した世界だからこそ、通信を通じて信仰を集め、配信者が力を得られるのだな……。魔力を帯びぬ者が多いこの世界が、どうして魔王の侵略と二十年もの間戦って来られたのか不思議だったが、そういうことだったのか」
実際、Aフォンが普及するまではじりじりと押されて行ってたみたいだけど。
配信者が公式、非公式関係なくAフォンを必ず使うようになり、配信が臨場感たっぷりでライブ視聴できるようになったら、一気にダンジョンを押し返せるようになったらしい。
だから最近では、ダンジョンにやられて人口が急減! みたいなのはほとんどない。
そんな話をわいわいしながら、お菓子をもりもり食べた。
なくなってしまった。
「うう、胃が重い」
なんかカナンさんが難しい顔をするので、食べるのはここまでにしておいた。
「ミス・カナンがいると、リーダーがあまり食べなくなってちょうどいいわね」
「いいのか悪いのか……」
ライブ配信のチャラウェイさんと八咫烏さんは、どうにか魔将を撃退したようだ。
バルログが高笑いを上げながら炎の中に消えていく。
「これは勝ったんです?」
「いいえ、退去したようね。恐らくこちらと繋がった鉱山都市の地下に、炎が少なかったんだろう。炎が多い場所であればあるほど、バルログは強くなる」
「ほえー。じゃあ火力が売りの中華料理店とか危なそう」
「リーダーが考えると話のスケールが小さくなるなあ」
お腹が中途半端に減ってるせいかもしれない。
こうして、エルフのカナンさんは私の部屋で寝起きすることになった。
今の彼女はAフォンの翻訳で会話できてるけど、今後は本格的に日本語を習ったり、日本のルールを勉強したりするらしい。
それと同時に、異世界の文化とかルールも私たちが知る必要が出てくるんだけど。
ライブ配信の中では、チャラウェイさんが『ウェーイ!』とか勝どきをあげて、ドワーフたちが斧や槌を突き上げて『ウェーイ!』とか言ってるのだった。
向こうのドワーフはパンクだなあ!
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