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第215話 元気なり、新入生伝説

 はぎゅうちゃん……もといイノッチ氏と今後の配信についてを隠語で話し合う。

 彼女は私の直弟子なので、色々教えねばなのだ。


「ってことでですね師匠。なかなか冷静さを保ってトークができなくて……」


「モチーフのイノシシに引っ張られてるのかもねえ。私たちってリスナーさんの願望にも引っ張られるし……」


 配信、とかダンジョン、とかは禁句なのだ!

 ふふふ、完璧な会話だ。

 誰も私たちが配信者だとは気付くまい……。


 私たちの学校は四階建てで、最上階が三年生、三階が二年生、二階が一年生なのだ。

 前は違ったんだけど、ダンジョンハザード以降ちょこちょこいじられている。

 そうして今、一階は職員室や保健室や食堂などなどが揃っているのだった。


 私は一年生の頃の癖で、一階ぶん降りてそのまま食堂に向かうつもりで角を曲がったのだけど……。


「あ、師匠師匠。あたしらもう二年だから、ここって一年の教室……」


「えっ?」


 私が気付くよりも速く、弾丸みたいな勢いで女子グループが突っ込んできた。

 キャーッとか歓声を上げながら走っており、大変元気がいい。


 それが私に激突した。


「あひー」


「ウワーッ」


 私は思わず声を出したけど、ついでで驚きの言葉を発するイノッチ氏、いつもながら発音が面白いなあ。

 そして一年生はと言うと……。


「ウグワーッ」


 あっ、ぼいーんと跳ね飛ばされている!

 二人くらい廊下に転がった。


「う、うわーっ! 二人を一気に跳ね返した!! 凄い人がいる!」


 驚く一年生の子。

 ここで、イノッチ氏が我に返った。


「こらーっ! 廊下は走ったらダメだろ! 今みたいに危ないことになるんだから! この人がししょ……じゃない、はづ……でもない。この人だったからまだ良かったけど」


 私だったら良かったのだろうか……!?


「師匠、解せぬみたいな顔してるけど、師匠の体幹の強靭さ半端じゃないですからね?」


「そうだったのか……」


 確かにここ半年くらい、女の子を受け止めて持ち上げたり振り回したりすることが増えたなあと思っていたが……。

 あれはみんなの体重が軽いだけじゃなかったのか。


「あたしを担いで二階まで上がっていったでしょ。ああいうの普通の女子はできないです。あたしはできるけど」


「だったらまだ普通では……」


「普通ではない」


 そうだったのか……!!

 その後、一年生の女子たちがペコペコ謝ってきたので、いいよいいよ、次は気をつけてね、と返す。


 去り際の女子たちが、「す、凄い弾力だった」「柔らかい壁」「びくともしない」「凄い人がいる」なんか言ってるな……。


「師匠のことが伝説になるでしょうねえ」


「なってほしくないなあ!」


 私は学校では、もっと地味に普通に生きていきたいのだ。

 エネルギーは全部配信に使うので……。


 こうして改めて一階に降り、食堂へ。


 大変な賑わいだ。

 よくよく見ると、リボンの色が一年生カラーな生徒が多い。


 今年の一年生は食堂利用する子が多数なのかあ。


「まあ、私は唐揚げを補充に来ただけだから……」


「師匠、これは多分、中学には食堂って無いんで珍しくて来てるんだと思うよ」


「そうなの!? そう言えばそうだった……」


 私も最初の頃はもそもそお弁当を食べていたけど、学校生活に慣れてきてからちょこちょこ食堂のお惣菜をつまむようになってきていた。

 特に唐揚げは絶品なんだよね。

 揚げて時間が経って、しんなりしても美味しい唐揚げ。


 これは食べまくって味を盗んだもの。

 生姜強めがキモだね。


 一年生たちに並んで唐揚げを買う。


「えっ、先輩唐揚げだけなんですかー?」


 おっ、人懐こい後輩がいるな。

 だけど私は基本的に人見知りなので、すぐに言葉が出てこないぞ。

 うむ、と鷹揚にうなずく。


「師匠の仕草は最近、周りから大物に見られるそれなんだよなあ」


 イノッチ氏がなんか言ってる。


「この人はお弁当持ってきているけど、もう一品欲しい時に唐揚げ買いに来るんだよ。ここの唐揚げは絶品だぞー」


「ええーっ! でも唐揚げってダイエットに良くないんじゃないですか? 私ダイエットしてるからー」


 そう言った一年生の子が私とイノッチ氏を上から下まで見た。

 イノッチ氏が無言で私の腰回りを掴む。

 うわーっ、ゆったり着ているセーターがぎゅっとすぼまる……!


「えっ!? お弁当に唐揚げまで食べてて太ってない感じ……!? というかその上下の張り出し方は……」


「フフフ……」


 得意げに笑うイノッチ氏。

 わ、私をダシにしたなー!


 なんという弟子だろう。


「今食っておかないでどうするの! 女の間でなら細いのは通じるけど、男相手は肉がちょっと付いてたほうがいいぞ!!」


 イノッチ氏の堂々たる発言に、食堂がざわついた。

 サラダだけつついていたような女子たちが目を見開いている。


 今、食堂に波乱の種をまいてしまったな……。


 騒ぎになる前に、私はイノッチ氏を連れて会計を済ませ、素早く食堂を出たのだった。

 これから戦いが起きるぞ……。

 唐揚げを巡る争奪戦が!!


「師匠なんで厳しい顔してるの? それにしても、本当にここの唐揚げ美味しいよねえ。お弁当でちょっと足りない時に最高」


 歩きながら唐揚げを一個食べるイノッチ氏なのだった。


「お行儀が悪いぞー」


「へへへ、すみません」


 お昼休みの賑やかさが増してる気がする。

 うーん、今年の一年生は元気だなあ。


 お前らもあの中にいたりするんだろうか。



お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >柔らかい壁 漫画とかで稀に実力差を表す表現として『キャラの前に断崖絶壁や巨大な山を描く』シーンが有りますが、はづきちゃんを前にした場合は『おっきいマシュマロ』になり…
[一言] 柔らかい壁って… すでにリアルで超人はすごい。
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