第一話 出会い
「お疲れ様でしたー」
橋本啓介20歳。ちょうど今年成人した大学生だ。そんな僕はゲーム仲間に別れを告げると、そうそうに装備ボックスとにらめっこを始めた。最適解だと思ってせっかく作った装備構成だった。だけど今日のレイドバトルで痛感した。また新しいものを作らなければならなそうだ。防御面は問題なかったと思うけど、素早さと火力がないから倒すのに時間がかかって体力回復の時間が増えてしまっている。いっそのこと多少防御に割く分を他に割り当てる価値すらあるかもしれない。
しかし喉が渇いたな。ずっと喋りっぱなしだったし冷蔵庫から何かとってこよう。
ガタッ…ドン!!
痛い…。何かを踏んで思いっきり後ろに倒れ込んでしまった…。多分ジュースの缶でも踏んだのか…。そんなことより…まずい…意識が…遠のいて……
…
…
…
冷たい…。ざらざらで…これは地面か…?なんでこんなところで僕は寝ているんだ…。どうやら森っぽいな。なんでこんなところに来てしまったんだ。もしかして、流行りの異世界ってやつ?ってことはもしかして、僕の死因って缶ジュース!?最悪だ、ダーウィン賞じゃないんだから…。
しかしどうしたものかな。よくある展開だと、この後モンスターみたいなのが現れて…
「ぐおぉぉぉぉ!!!!」
そうそうこんな感じの…。って本当に来ちゃったよ!でかい植物みたいだな。もし倒すなら炎魔法とかだ。みたところ武器はもらえなかったみたいだしやってみるか!
「フレイム!!」
…
おや?魔法が出ない…。もしかして呪文の名前が違う?
「ファイヤー!!」
…
なんで!?もしかして異世界来た感じなのに僕魔法使えないの!?
「ぐおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!」
まずい対抗策がない!とりあえず逃げっ
「フレイム!」
「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!!!」
なんだ…。突然でかい植物の後ろから炎が…?
「スラッシュ」
シャキン!
今度は一瞬でバラバラに…。いったい何が起こっているんだ。
「よぉ兄ちゃん怪我はないかい。」
そう話しかけてきたのは、ずいぶんと体格のいい男だった。異世界でいえばまさに冒険者って感じだ。来ている装備もだいぶ強そうなものだ。その後ろには、魔法使いなのか?だいぶ艶やかな格好をして杖を持った女性ががいた。
「こんな所で武器もなしに危ないじゃないの。」
「そうだぞ。俺たちが来なきゃ丸のみだったな!ガハハハハ!!」
「えっと、助かりました。ありがとうございます。怪我はなさそうです。お二人は冒険者ですか?」
「おう。もしかして、兄ちゃんも冒険者になりてぇのか?」
「僕もなれるんですか?」
「ギルドに登録さえすれば誰でもなれるぞ。なんなら近くの街まで送ってやろうか?」
これはラッキーだぞ。危うく初手で死んでしまうところだったけど、街まで行けるのならきっと何とかなりそうだ。
「是非おねがいします!」
こうして僕は、異世界転生をして最初の街に赴くことになった。向かっている最中に色々な事を聴いた。どうやらこの世界では魔法を使える人は限られており、勉強しようが訓練しようが使えない人は使えないらしい。どおりで同じ呪文を言ったのに魔法が使えないわけだ。僕はいわゆる使えない側らしい。しかし、どうやら「スキル」は訓練すれば使えるようになるそうだ。体格のいい男がなにやら技名のようなものを叫んでいたから、多分それの事なんだろう。
こんな話を聞いていると街へと到着した。ギルドは街を入ってすぐの大きな建物のようだ。
「じゃあ俺らはここまでだ。達者でな!」
「次会う時は同業者としてよろしくね!」
「はい!お世話になりました!」
そうして彼らは受付の方に行ってしまった。どうやら僕も受付で手続きをしたいと言えばあとは全てギルド側がやってくれるそうだ。
ギルド内はよくある異世界転生ものって感じだった。荒くれものから勇者みたいな恰好の人まで本当に幅広くいる。驚いたのは、踊り子みたいな恰好の人までいたことだ。あれも一種の魔法使いなんだろうか。
さっそく僕は受付嬢のいるカウンターへ向かった。
「あのー冒険者登録したいんですが…。」
「登録ですね!かしこまりました!それでは奥の別室で適職診断をいたしますのでご案内しますね。」
思っていたよりあっさり受け付けられて驚いた。というのも一つだけ懸念があったからだ。それは、「身分証明ができない」ことだ。僕がここに来た時持っていたのは自分が死ぬ前に来ていた洋服くらいだ。それ以外はポケットにも何も入っていなかったし手に何か握っていたわけでもなかった。どうやら冒険者というものは誰でもなれるものらしい。死んでいる時点でそんなことないかもしれないが、意外とラッキーなのかもしれない。
案内された部屋はドーム状の暗い部屋だった。小さいプラネタリムのような場所だったけど、決定的な違いは星の配置がまるで違うことだ。これを見ると本当に異世界に来てしまったと知らしめられた。中央には水晶のようなものが飾られており、その下に鉄製のプレートのようなものが置かれていた。
「それでは、この水晶に手を置いてください。そうすると下のプレートに貴方の情報と適正職業が印字されますで。」
「わかりました。」
ついに僕の異世界生活幕開けって感じだなぁ…。どんな職業かな?大堂の剣士でもカッコいいだろうし弓使いなんてのもおしゃれだよなぁ…。盗賊なんていうのもあるのかな?
これからの職業に胸を躍らせながら、僕は水晶に手を置いた。すると、水晶から眩い光が放出され、その下ではレーザーカッターのような光線がプレートの上で踊っていた。恐らくこの水晶も魔道具のような類なのだろう。しばらくすると、踊っていたレーザーは突然途切れた。
「お疲れさまでした!こちらが貴方様の職業…」
見慣れぬ文字の書かれたプレートをみた受付嬢は突然言いよどんだ。もしかして、チートスキルとかもってたりするのか!?ようやくなのか!?
「失礼ですが橋本啓介様…。」
「どうかしました?」
「誠に申し訳憎いのですが…あなた様には…」
「適正職業がございません。」
…ん?
「え、それってどういう…。」
「すみません…私もこのようなことは初めてで…」
「でも、適正職業じゃなくても武器は持てますよね!?」
「そのぉ…これも申し訳憎いんですが、こちらのプレートは免許のような役割にもなっていまして、適正職業ではない方は武器を手に入れることができないようになっております…。」
気が遠くなりそうだった…。これでは僕は本当に何のために来たのかよくわからない…。
「一応適正職業がないとギルドに登録してはいけないという規則もないので、登録はできると思いますが…どうします?」
「あ、じゃあお願いします…。」
正直なところもうどっちでもよかった。こんな世界で身を守る術がないのなら、詰みにも等しい。一応ギルドにはモンスターの討伐以外にもお遣いのような依頼も含まれている。しかし、生計を立てるにはとてもじゃないが足りる量とは思えない。何故わかるかって?登録した後ダメ元で武器屋で料理用の包丁くらいは見てみて大体の金銭感覚は理解したからだ。
しかし、とりあえず文句を言っても仕方がない…。冒険者という身分証明書ができたわけだし、どれだけ報酬が少なくても、死に物狂いで働いて生活の足しにしなければならない…。このままじゃ餓死一直線だ。
僕はとりあえず街を出てすぐのところにある草原での薬草取りをする依頼を受けてみた。街の中だけで成立するお遣いのような依頼もあったけど、まだ土地勘がない以上ミスして報酬なしなんて言われたらたまったものじゃないからな。
草原はとても広く快適そうな場所であった。魔物っぽいやつもいるにはいたが、襲ってこないしもといた世界でいうウサギみたいなやつらだ。一見すると、楽な仕事だから報酬金が安いのかと思われるかもしれない。だが、意外とそう言う訳じゃ無いらしい。目的の薬草は、人間だけでなく魔物も好んで食べるそうで、周りのウサギみたいなやつらがこぞって食べていてなかなか見つからない。一応森に近づけば小型の魔物が少なめになっているみたいだが、またあんな目に遭った時に生き残れる自信はまったくない。
なんか、想っていたのと全然違ったな、異世界生活。よくよく考えたら当たりまえだったけど、ゲームの主人公たちは事前にある程度努力してて世界を救うポテンシャルがあった。だから武器を使う才能だって、仮になかったとしても努力でカバーしていた。それに比べたら、僕はただ家でゲームをしていただけ。バイトも少ししかしていないし、家に帰ってもやることはほとんど課題かゲームだけ。こうやって努力していなかったことをまじまじと感じさせられると、ある意味僕の自己肯定感を保っていたのもまたゲームだったんだな。ギルドの皆は僕の装備案をとても褒めてくれた。でも、今思えば戦闘においては参加しているというより周りを見ているという方が近かった。誰かしらそういう人がいてくれるのはありがたいなんて言う人もいるが、それは戦闘そのものにしっかり参加している場合の事を言う。僕はゲームは好きだけど下手だから、周りに寄生してやってるつもりになっていただけだったんだ。多分、僕がログインしなくなっても、心配とかはされないんだろうな。親くらいは悲しんでくれるんだろうか。なんか…。
「悔しいな。」
「ギャアアアアアア!!!!」
なんだ!?もしかして、この辺にまで魔物がきたのか!?そう思い叫び声の方向に急いで振り返る。するとそこには…。
大量のウサギに襲われている少女がいた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。よくある異世界転生ものではありますが、これから徐々に面白くしていければ幸いです。不束者ですがよろしくお願いいたします。