後始末。そして……
少し間が開いてしまいましたが、完結編です。
切り詰め前のバージョンはもう少しありますが、そちらはカクヨムさんで公開します。ご興味がおありの方は「同タイトル・同ペンネーム」で検索をお願いします。
「便利なもんだな。これからはこれで来るか……いや、何で今までこうしなかったんだ!」
「問答無用で来させて良いのか?」
「くっ……」
横着は封じられてしまった。確かに自分の都合で来る方がいいのは間違いない。それよりも問題は彼女をどうするかだ。学校の皆には悪いが、もう少し寝ていてもらう。その方が何かと都合がいいし、アストラルライトを抜かれただけなので問題はない。集団ヒステリーと言う事で落ち着くだろう。取りあえず南野はEibonの寝椅子に横たえた。
「肉体的にはどうにもならないんだろう? だったら忘れてもらえばいいんじゃないか?」
「催眠術か何かでか? 単純な発想じゃの」
「うるせぇ! ならどうするってんだよ」
「亡き者にすれば早いじゃろ」
「この世界じゃそうはいかねぇんだよ。古代人の発想はやめろ」
とは言うものの、都合のいい奇跡など期待できない。もちろん命を奪う事など言語道断である。催眠術が上手く行ったとしても一時しのぎなのは間違いない。いい方法はないものか。
「待てよ? ジジイがここに居るのは違う世界線から来たからだよな?」
「うむ、時間も違うがの」
「世界線ってのは小さな分岐が無数に連なって出来てんだよな?」
「そうじゃ。それが複数・多数重なる事で多元世界となる。無論この世界もそうじゃ」
「じゃぁ、彼女が普通の人間な世界もあるってことだよな?」
「普通の人間である彼女と入れ替えるか? そうしたら向こうの世界線でこの彼女が暴れるだけじゃろうが」
入れ替え作戦は不発に終わった。そもそもそんな都合のいい世界線を探すだけでもどれだけかかる事やら。それに家族も当然同じ事なのだろうし、尚更大変である。
「じゃぁどうする……って言わんぞ。答えは分かってるからな」
「一番確実な解決方法なんじゃがの」
「うるせぇ! 現代人の知恵をみせてやる」
「現代人の知恵を代表出来るとも思えんがな」
「てめぇはいちいち……」
言い争っていても埒があかないと深呼吸をして考え込むが上手い考えは浮かんでこなかった。
「現代人の知恵でも解決は出来んようじゃの」
「うるせぇっての! こんな突然の事件で都合良く行くわけねぇだろ」
それはそうだが、事件という物はいつも突然に起きると相場が決まっている。だからこそ事件なのだ。泣き言を言ってもこれは変わらない。
「くそ、いっその事……宇宙人にでも誘拐されたら解決するのにな」
「誘拐……?」
「ああ、UFO事件でよくあるんだよ、宇宙人に攫われてウンタラカンタラってのが」
「出来ん事はないぞ」
「はぁ!?」
突然の展開に驚きを隠せなった。というか本来はやってはいけない事だ。それでもこの事態を何とか出来るならと一縷の望みをかけて聞いてみる事にした。
「どうするってんだ? 犯罪の片棒を担ぐのはごめんだぞ」
「違うわバカタレが。儂が崇拝する神ではないが、旧支配者ハスターの従者であるバイアクヘーと言う奴を使えば他星系へと連れて行ける。交渉がないのでハスターの力を直接借りる事は出来んが従者なら儂の魔術で使役する事は可能じゃ。UFOとやらとえらく変わらんじゃろう」
「おいおい……旧支配者が復活しちゃ拙いんじゃなかったのかよ」
「当面じゃが復活して拙いのはクトゥルーという水の旧支配者じゃ。奴が復活した時点で地球は終わる。そやつと敵対しておるのがハスターじゃ。故に……な」
敵の敵は味方というわけである。非力な人類としてはそうするしか無いのであろう。ちなみにEibonが崇拝するゾタクアもクトゥルーとは仲が悪いのだそうだ。しかしバイアクヘーで誘拐してどうするのか。攫っておいて「ハイお仕舞い」というわけにもいかない。
「バイアクヘーでハスターの本拠地であるヒアデス星団に連れて行くんじゃよ。牡牛座の顔の部分に当たる『V』の字状の星の並びじゃな。その中にある古代都市カルコサに移住――強制的なのは仕方ないが――させればええ。あそこの住人なら心配は無用じゃ。カルコサ近くの『黒きハリ湖』にはハスターが眠っておるし、まぁ無茶は出来まいて。多少の不満はあろうが……死ぬよりはマシじゃと思ってもらうしかなかろう」
「おお! 初めて当てになったな! 見直したぞジジイ」
Eibonの肩をバンバン叩きながら褒める。いや、褒めているのかどうかは微妙だが、この男にしては破格の扱いなのである。
「……まぁええ。しかし問題もあるぞ」
「だよなぁ……」
最低でも南野の家族全員を運ぶ事になるが、大人しく話を聞き入れてくれる筈も無い。つまり、彼女と同じく意識を失ってもらわねばならないのである。一度気絶してもらえば、後はEibonの術で眠り続けさせるのは簡単という事だった。現に南野には既に術をかけて眠ってもらっている。後は彼女の家族が何人いようと、眠ってもらえばなんとかなるのだ。社会的には「一家失踪」という形になってしまうが、現状では他に手段が無いのも事実だし、カルコサに移住すれば地球での評判など気にもなるまい――一方的極まりないが、そこは勘弁してもらおう。
「なら、事は早いほうがいいな。今夜の寝込みを襲うとするか」
「物騒な事を言いよる」
「てめぇが言うか!」
彼女の住所等はEibonの占術ですぐに分かった。家族構成は三人。あと二人何とかすればいいと判明した。彼女と同等かそれ以上のレベルであろう二人を相手にするのかと思うと気が重いが、乗りかかった船だ、何とかするしか無い。
その日の深夜二時。正確には日付が変わっているが、気分的には「その日の深夜」だ。南野家とその周囲の住民にはEibonの術で朝まで少々のことでは目を覚まさないようにしてもらっている。魔道士とは便利なものだ。変身して右手には天狗のトレードマークである羽団扇を握った。作戦は物騒だが「もう仕方が無い」と割り切って事に臨むと決めた。退路を断ったのだ。
目の前にはごく普通の家が静かに建っている。門の柵を跳び越えると、魔王尊の力で玄関の鍵を開けた。そっとドアを開けると僅かな血の臭いが鼻をついた。南野が言ったとおりのようだ。血生臭い儀式が――いや、儀式の後の饗宴が行われていた証拠だ。そのまま低空飛行で南野家父母の寝室へと向かう。大体の場所はすでに気配で察知出来るようになっていた。
二人ともEibonの術で通常よりも深い眠りについている筈だが、彼の館まで運ぶ為には更に深い眠り――気絶状態になってもらう必要がある。そのために魔法の薬「フルオロライトの妙薬」も用意しているが、効かない場合は「荒っぽい仕事」になる。
そっと寝室のドアを開けると、二人とも気持ちよく寝ている。申し訳ないがやるしか無い。羽団扇にフルオロライトの妙薬を振りかけて意識を集中。力が羽団扇へと流れ込む状態を映像でイメージする。羽団扇はだんだん重くなってきた。流れ込んだ力を撒き散らすように羽団扇を振った。部屋の中にそよ風と淡い光が舞い、夫婦を包み込んだ。一目で分かるほどに脱力した二人と共にEibonの館へと転移した。問題はここからだ。大柄で筋骨逞しい父親を寝椅子に横たえるのは二人がかりでも汗をかく大仕事だったのだ。魔王尊は法力に全振りで筋力はほとんど上がらないのだ。Eibonは呼吸を整えるとグラスを出すと黄色い酒を縁ギリギリまで注いで一気に飲み干した。
「おいジジイ! いきなり酒飲んでんじゃねぇ! 一仕事終わったから一杯ってやつか!?」
「違うわバカタレが。これはバイアクヘーを呼ぶ為に必要な『黄金の蜂蜜種』じゃ」
「胡散臭いなぁ……」
憎まれ口を他所に今度は石笛を吹き鳴らす。
「やっぱり宴会じゃねぇか!」
「やかましいわバカタレが! これも儀式なんじゃ!」
気を静めて呪文を唱える。
「 いあ! いあ! はすたあ! はすたあ くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ あい! あい! はすたあ! 」
程なく奇怪な生物が飛来し、Eibonの指示で眠り続ける三人を乗せて飛び立った。上杉は想像を超える怪生物を目にしたせいか大人しい。
「どうした景虎。さすがに肝を潰したか?」
「う……うるせぇ。ちょっとビックリしただけだ」
「その反応だけで充分じゃ」
Eibonに笑われて憮然としている。気を取り直させるつもりか、Eibonは話題を変えた。
「あの最後の技、破壊では無く浄化と言える物のように見えたが」
「おお、分かるかジジイ! ま、あれも現代人の知恵ってやつよ」
途端に表情が変わる。切り替えは早いようだ。調子に乗ってネーミングは魔王尊が金星から来たという伝承をヒントに決めるのだとふんぞり返る。
「それはよく考えたな。じゃが……金星は明けの明星だったり宵の明星だったりと位置がバンバン変わるんじゃがの」
「……マジか。じゃぁ名前を考え直さないと……それと変身のポーズとかけ声も……」
「前途多難じゃな。占術ではあと三人の仲間が出来る筈じゃ。それまでに考えておくがええ」
「おお、なんか戦隊ものみたいだな! 急いで考えんと。あ、リーダーは俺な!」
「……好きにせぇ」
Eibonは寝椅子で水タバコを吸い始めた。アレコレとポーズを試行錯誤する上杉を眺めながら。
(お主はあの連中と戦い続ける使命がある。前世も来世もな。しっかりやるがええ)
不敵で気楽な少年は大声を張り上げて変身ポーズを試している。
「やかましいわバカタレ!」
「うるせぇ! こっちは取り込み中だ!」
賑やかなやり取りは今後も続きそうだ。
拙作にお付き合いいただき、誠にありがとうございます。心から感謝致します。
ご縁がありましたら次の作品で……。