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5、真面目ないい子が傷つく①

数日たった学校での出来事。五校時の授業が終わり、休憩中にトイレから教室に戻ってきた私は、机の中の教科書とノートを勝手に取り出した不良三人娘の猫藤、犬塚、牛島が、私に見せつけるように、ニヤニヤ笑いながら、それをゴミ箱に捨てるのを目撃した。背後の鬼オーラも笑っているように見える。

「なんしてんのよアンタ達、他人の物を盗むのは『窃盗罪』、他人の物を傷つけるのは、『器物損壊罪』っていう犯罪なんだよ。この犯罪者ども! 警察に捕まるような事をしてなに勝ち誇ったように笑ってんだよ。逮捕されるような事したんだから、ビクビク震えてるのがフツーなんだよ、おたんこなす!」

笑顔の消えた三人娘はすぐに距離を縮めてきて、その中で猫藤が私の太股に回し蹴りを加えた。

「よくも蹴ったわね、エイッ、蹴り返してんだからよけるんじゃないわよ、バカね」

軽くよけた猫藤は、

「お前の遅いキックが当たるわけねーだろ」と見下してくる。

「ほらほら、今度はオレが相手してやるよ」

クラスの男子をしきっている蝉村が、ファイティングポーズを取りながら私に近づく。背後の鬼オーラと同化して、頭から角が生えている。三人娘は私から離れると、面白そうに見物する側にまわった。私がパンチをしたり、キックをしてもまったく当たらない。蝉村は、近所のキックボクシングのジムに一年ほどだけ通ってやめた根性なしだが、それでも基本は身についていて、殴ったり蹴ってる姿は様になっている。三年の不良グループの中でもナンバー2の地位にいて、他校の不良グループとモメた時も率先して突っ込んでいくケンカ好きである。素人丸出しの私の攻撃なんか次々とよけながら、蝉村は軽く左ジャブを繰り返しながら、その中の一発を私の頬に命中させる。

「痛っ! よくも女の顔を殴ったわね! 男と女じゃ顔の値打ちが全然違うんだよ、男の顔なんてジャガイモみたいなもんよ、へこもうが膨れようが大して変わりゃあしない。でもね、女の顔には未来がかかってんだから、傷ひとつ付けんじゃねーよ、あほんだら!」

そうしているうちに、六校時目の授業をおこなう数学の教師が廊下にあらわれた。不良たちは私を嘲笑あざわらいながら、席に着いてバトルは終了した。ケンカに強くなるため、あらゆる格闘技関連の知識を、本やネットで精通したが、それで強くなる訳はない。今日もやられっぱなしの学校生活を過ごし、放課後はいつものように横山家を訪問して、鈴ちゃんに会った。部屋に入った時、違和感を覚えたが、原因はすぐに分かった。たくさんあったぬいぐるみが一つもないのだ。背後にいる女の子のオーラの顔に、ひびが入っている。鈴ちゃんの心の不安定さを表している。

「鈴ちゃん、ぬいぐるみ片づけたんだね」

「うん」

 そう答えた鈴ちゃんが押し入れを開けると、大きめな透明ポリ袋二袋の中に、ぬいぐるみが入れてあった。ただ入れてあるのではなかった。ぬいぐるみは、全てズタズタに裂かれていた。中身の、綿やビーズが露わになっている。


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