53、ミイラ退治①
あまり乗り気でない私は、この件は保留としていつも通りの生活を送ろうとしたが、白龍は納得していないので、説得工作を開始した。
白龍の説得工作は、夜、眠っている時に実施された。業苦の炎がおこなわれる、三百六十度地平線が広がる大地、そこに男子生徒二人、女子生徒一人の三人が召集されている。三人とも不良グループに属している三年生で、蝉村銀次、藤堂力也、猫藤ユリというよく知った顔ぶれだ。
小六ぐらいのソウ・チャイルドが背後にいる蝉村銀次が、日頃から蓄積している学校に対する不満を喋りだした。でも本人たちは夢から醒めると、その事をキレイに忘れてしまって思い出すことも出来ないのだろう。
「小学生の時は、テストで九十点以上なんてザラだったのに、中学に入って四十点とか五十点とか貰った時は嘘だろ?! って思ってた。理解してないんだから後戻りして勉強しようとしても、授業はどんどん進むからますます分からなくなる。中間や期末の時だけその場限りで慌てて憶えるから知識としてちっとも身につかねえ。だから学校にいる先公って教育者じゃねえよ。だって俺に教育してねえもん。アイツら!」
蝉村の話を聞きながら、『脳内検索』という言葉が浮かんだ。個々の脳内に蓄積されている膨大な情報の中から必要な情報を探し出す。白龍は蝉村らの脳内から、一斉指導に対する不満を検索し、それを取り出した。どんな凄腕のハッカーも、コンピューター内に侵入する事は出来ても、人間の脳内には侵入出来ない。白龍はそれをやってのけているのだ。
今度は、小四ぐらいのソウ・チャイルドのいる猫藤ユリが語りだす。
「学校抜け出して、繁華街出歩いてゲームしてたりした。仲間の二人とげらげら笑ってた。で、三人で川沿いのベンチでマックのハンバーガー食べてて、川眺めてて、三人とも黙ってて、なんかさみしかったなあ。何してるんやろ、こんな所で。そしたら補導員のおばちゃん達に捕まってさあ。で、学校に戻ることになったんだあ。でも授業受けてもさ、とっくに落ちこぼれてるから、何も分からない、頭に入ってこない。またさみしくなってね、何してるんやろ、こんな所で、って思ったよ。うちは貧乏だから、食い物はインスタントばかり。塾に通う金なんてあるはずないから、どんどん授業から引き離された。今度生まれ変わったら、勉強の出来る頭で生まれてくるんだ。そしたら、さみしくないやろ? ホンマ思う、何しに学校に来てるんやろ? 見捨てられたゴミなんやろうなあ、ウチ達は」
教室では見たことのない、弱気な姿の猫藤がそこにはいた。
最後に、小二ぐらいのソウ・チャイルドのいる藤堂力也が口を開いた。
「小学校の、早いうちから授業が分からなくなった。お袋がいなくなって、じいちゃんの介護の世話をしなくちゃならねえし、中学に入る頃には完全に取り残された。分からない授業を聞かされるために学校に通って、学力は上がってないのに進級して、気がつくと中三になって、進路指導で行ける高校は無いって言われた。授業中の時と同じで、その時も先公の態度は突き離した口ぶりだった。小学生のチビの頃から授業につき合わされ、膨大な時間を費やしたあげく、もらった言葉が『行ける高校は無い』だった。頭が悪い俺なりに、分かるところから授業を受け続けていたら、二年遅れの中一ぐらいの学力はついていて、それなら底辺の高校ぐらい入れたかも知れねえ。時間だけ浪費して、取り残されたあせりでささいな事でケンカしてた。仲間と騒いでる時だけは自分たちの強さを誇って最高だった。最悪なのは一人になって現実と向き合う時だ。将来性の無いバカが暴れ狂ってるみじめな現実。学校なんて通うんじゃなかった。先公に見捨てられはじめた小学生の頃から、学校に通わず、大工や料理人の修業をしていたら、ドブに捨てた膨大な授業時間を、そのようなことに費やしていたら、中学三年の今ごろの俺は、一人前の大工か料理人になれたんじゃないかって思う。そうしたら、その力で未来の扉は開いて、眩しい光を浴びてたんじゃなかったのかって思うのさ」




