4、警察のいない学校②
「あのお馬鹿な不良共に、アンタらのしていることは犯罪なんだって罪名まであげて教えてやってんのに。止めもしないで、叩いてくるわ、蹴ってくるわで大変よ」
「そりゃそうだよリカコちゃん、警察がいないから捕まらないんだから、反省なんかする訳ないわよ。<教育に警察は合わない>って信じてる学校関係者が、警察力を排除してるんだから。法律が適用されない学校という場所は、法治国家の常識が通用しないのよ」
「──確かにねえ」
「でもケンカに負けてもリカコちゃんって言い返すし、やり返すから凄いよね。尊敬しちゃう。私なんて罪名をあげて言おうとしても、声が震えて何も言えなくなっちゃう。体も萎縮して、手も足も動けなくなるから何もやり返せない。ほんと情けない」
たくさんのぬいぐるみが置かれた鈴ちゃんの部屋で、お菓子などを食べながらくつろいでいると、何気につけていたテレビのローカルニュースを見ながら、鈴ちゃんが思い出したように喋りだした。
「学校のそばで不審者が出たら、通学路に近所の大人達が立って見守ってくれるのって、ニュースで見たりするじゃない。ありがたい話だなあって思うんだけど、無意味な気もするんだよね。だって現実は、登校中に不審者に襲われる確率なんて一パーセントもないじゃない? 生徒が酷い目あうのは、登校した後の教室で、同じ生徒から暴力を振われるんだから。いじめっ子が教室で待ちうけて、ビクビクしながら教室に入ってきたいじめられっ子に向かって、嬉しそうにこう言うのよ。『さあ、いらっしゃい』って」
「それは言えるわよね」
とポテトチップスをかじりながら、私も同意する。
「尊敬する人に使う言葉が敬語なら、私は全ての大人達に敬語を使いたくないわ。だってこんな警察のいない学校って空間、危険極まりないじゃない。殺人事件でも起こらないかぎり、教師って警察に通報しないんだから。暴力で人を脅すクズみたいな生徒たちの天国みたいな場所になってる。そんな連中と同じ教室にいるのって、会社員が暴力団事務所で仕事するみたいなものよ。そこで毎日威嚇されて殴られ蹴られたらどうなのよ? 頭おかしくなるでしょ? そんな危ない学校に私達子供を閉じ込めた、そのことを容認した全ての大人達を軽蔑するわ、呪うわ、間違っても敬語なんて使ってあげない」
不登校に再びなってしまった自分への歯がゆさと、学校や世間への不信感の中で、毎日自宅で過ごしている鈴ちゃん。鈴ちゃんの語る言葉は、その中で傷ついて苦悩しているものが多かった。
「全ての人間が、七才ぐらいで成長が止まっていてくれたら、私は世界を好きになれたわ。だって大きくなるにつれて、他人を傷つける悪質さや残虐性が高まって、実際私は、中学校の同級生が怖くて仕方ないもの」