27、宣戦布告
学校という退屈極まりない空間で、ケンカほど話題をさらうものはない。その事は学生時代を経験したことのある人なら誰もが納得するはずだ。朝礼が始まる前、教室内のケンカで相手を廊下まで蹴り飛ばし、他のクラスの者も混じったヤジ馬達の前で、正拳突きで止めを刺すと、昼休みには購買部前のあらゆる学年の生徒が行き交う共同スペースで、ケンカを売ってきた不良少年からKO勝ちを収めたこの私は、全学年の生徒達が熱く語り合っている話題の中心人物に躍り出た。
いじめられっ子という最下層から、三年不良グループの幹部クラスと、来年この中学を仕切るであろう二年トップを倒した、下克上のスーパーヒロインである私の顔を拝みたくなるのは、学生として当然の事だろう。という訳で昼休みの後半は、教室の前の廊下は溢れんばかりの生徒が詰めかけていた。教室まで入ってこないのは、私に対する恐怖心からだろう。でもこんなモデル体型の超絶美少女が、不良グループの実力者二人に本当に勝ったんだろうか? そんな疑問もその表情から読み取れた。一般生徒に混じって、何人かの不良生徒らも不機嫌そうに見ていたが、何の動きもなかった。あったのは五校時目の授業終わりの休み時間だ。相変わらず教室前の廊下は、私の御姿を一目見んとするヤジ馬に占拠されていたが、どけえ、コラァという怒声と共に人混みをかき分けて、教室に入ってきたのは、不良グループに属する男子三人組だ。廊下のヤジ馬も、教室のクラスメートも静まり返る中、私の席まで近づくと、
「放課後、中庭まで来い、逃げんじゃねえぞ!」
そう怒鳴って一瞥すると、背を向けて教室から去っていった。この不良グループからの宣戦布告は、この場にいた生徒たちから全校生徒に瞬く間に口コミで伝わり、六校時目の授業を受けている生徒たちの大半は、放課後のバトルの方に心は奪われていただろう。授業が終わり、掃除をし、終礼を済ますと、生徒たちは各教室から解放され、廊下へと出る。心配そうに見ている鈴ちゃんに、
「大丈夫、大丈夫、軽ーくやっつけてくるから、安心してバトルを見学しててよ」
と声をかけ、階段を駆け下りて一階に着くと、校門へと向かう左側に目をやる。すると、不良生徒らが数人待ち構えていた。万が一、私が校門から逃げようとすれば立ち塞がる気なのだろう。もちろんそんな気は無いので右側へと進み、中庭に足を踏み入れた。南北にある校舎の中央部分に連絡通路があり、その東側に芝生の中庭がある。二階から四階まで校舎の廊下から顔を覗かせた見物客がぎっしりと見おろしている。一階部分は、更なる人だかりが中庭の周辺を取り囲んでいた。あくびの出るワンパターン化された学校生活で、こんなエキサイティングなイベントはない。帰宅した生徒なんて一人もいないだろう。
ところでこんな派手なケンカを校内で開催して、教師たちが黙っちゃいないだろう。でもこんなカラクリがあって、乱闘を止めるはずの教師の姿は一人もいなかった。後日、分かったことだが終礼を終え、教師たちが職員室に入ったのを見計らうと、不良グループに命じられた使い走りのいじめられっ子十人ほどが扉を閉めて、外に出られないようにした。保健室にいた養護教諭ただ1人が職員室の外にいたが、外から聞こえてくる歓声も怒号も、下校中の生徒たちの雑談、部活動の掛け声と思いこみ、中庭でのバトルに気づくことは無かった。ただその後、バトルによる負傷者が保健室に押し寄せることで一番忙しく働くはめになるのだが……。
中庭の西の端に一人私が立ち、東の端にいる六十人ほどの不良軍団と対峙した。各学年五クラスある中で、一クラスにつき男女二名ずつのヤンキーが選抜されている。うちのクラスの不良三人娘はもちろんこの中にはいない。私に対して横に三列で並んでいて、一列目の一年ヤンキーは全員素手、二列目の二年ヤンキーは全員竹刀を持っていて、昼休み私にKOされた川名は一人木刀を手にしていた。三列目の三年ヤンキーは全員木刀だったが、大将である藤堂力也だけは金属バットを握っている。早退した蝉村と猿川も、知らぬ間に戻ってきて三年の列の中にいた。戦闘状態なので、全員が背後の鬼オーラと一体化して、頭からオーラの角を生やしている。




