表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
202/289

201、おすすめ本『コロナ期の学校と教育政策』(前川喜平)②

引き続き本の内容を紹介し、それに対する私の反論を記したいと思います。


◎公立学校教員の「働き方改革」については、2019年1月の中教審答申をもとに、2019年12月に公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)が改正された。筆者は、今回の「改革」には教員の多忙解消の実効性が期待できないと思っている。文科省が行うべきことは、①教員の多忙化の原因となっている国の教育政策を見直すこと、②教職員の定数を改善すること、③給特法及び同法に基づく教職調整額制度を廃止し、労基法のもとで教員にも時間外勤務手当を支給することだと考えている。公立の学校の教員に対しては、時間外勤務手当と休日勤務手当が支給されない。その代わりに、給与月額の4%を基準とする額の教職調整額が支給される(給特法第3条)。教職調整額は「教員の職務と勤務態様の特殊性に着目して、正規の勤務時間の内外を問わず、教員の勤務を包括的に評価して支給される給与である」と説明される。これを給料表上の本給としないのは、本給が勤務時間の勤務の対価であるのに対し、教職調整額は勤務時間の内外を通じた勤務を評価するものだからだとされる。この「勤務時間の内外を通じた勤務を評価」という理屈がくせ者だ。その背後には、教師は1日24時間、1年365日、常に生徒を教導すべき存在だという「教師聖職者論」がある。1966年度間の教員の勤務状況の実態調査が行われた。文部省は、この勤務実態調査の結果を踏まえ、教員給与制度の見直しを行うこととした。だが、教員に超過勤務手当を支給することについては、自民党内に「教師聖職者論」の立場から強い反対があった。このため文部省は、超過勤務手当に代えて、教員の時間外勤務を評価する「教職特別手当」を設けるべく、1968年に「教員公務員特例法の一部を改正する法律案」を国会に提出したが、廃案となった。1971年2月、人事院は「教員の勤務を勤務時間の内外を問わず包括的に評価し、俸給相当の性格を有する給与」として教職調整額を支給すべきとの考え方を示した。1972年1月から国公立学校の教員に教職調整額が支給された。俸給月額の4%という率は、1966年度の勤務実態調査における平均的な残業時間(月間8時間程度)に見合う率として設定されたものである。小泉内閣末期の2006年6月に財務省主導で制定された行政改革推進法は、公立学校教員の給与について、人材確保法の「廃止を含めた見直し」などの検討を求めた。また同年7月に閣議決定された「骨太の方針2006」では、「人材確保法に基づく優遇措置を縮小するとともに、メリハリを付けた教員給与体系を検討する」などと記述された。文科省は、これを教員給与の大幅削減につながる危機と受け止め、財務省に対する対抗策として、2006年7月の中教審に、公立学校の教職員の給与の在り方について審議要請を行った。2007年3月に出された中教審答申は、教職調整額について「制度と実態の乖離が進んできていることから、見直しを行う必要がある」とし、「教員現場及び時間外勤務の実態に即した制度になるように留意することが重要」と述べた。教職調整額の見直しは、財務省が目論む教員給与削減への文科省の対抗策だった。同年8月の2008年度概算要求においては、教職調整額の一律支給を見直し、教員の職務負荷に応じて支給率に差を設けるとともに、支給率を4%から10%に増額する(4年間で約12%に増額)という方針を打ち出した。ところが、内閣法制局との協議の結果、「教職調整額おおよそ教員が有する職務と勤務態様の特殊性を全般的に評価して支給するものであり、個々の教員の特定の職務による勤務負荷を評価して支給される性格のものではないため、各教員の職務負荷に応じて支給率に差を設けることは困難である」との結論に達し、この方針は放棄せざるを得なくなった。これは明らかに文科省の挫折であり失態ともいうべき事態だった。筆者は、2007年7月から教員給与制度を担当することになったが、筆者自身は教職調整額の支給率に差を設ける案には無理があると思っていた。筆者自身の考えは、最終的に給特法を廃止することだったが、それは局内で統一された方針ではなかった。2008年度予算編成の失敗のあと、2008年4月に検討会議を設けた。同年9月に同会議が行った「審議のまとめ」では、注目すべきことに「教職調整額制度に代えて時間外勤務手当制度を導入することは一つの有効な方策である」と認め、提言を行った。当初の予定では、2009年夏ごろには答申をまとめる予定だった。ところが2009年5月まで10回の会議を行ったところで中断してしまった。主な原因は当時の局長の消極姿勢である。筆者は担当審議官としてこの局長の下にいたが、この局長が「何かを変えて怒られるより、変えないで怒られるほうがいい」という迷言を吐いたのを覚えている。こうして、教職調整額制度の見直しについては、2006年の7月から2009年の5月まで約3年にわたり、中教審において検討が行われたが、結局のところ結論は先送りにされた。2019年1月の中教審答申は、「給特法を見直した上で、働き方改革の議論を始めるべき」との意見があったことを紹介しているが、これを「一部の委員」の認識としてあっさりと退け、「教職調整額を支給し、時間外勤務手当及び休日勤務手当は支給しないとする仕組みも含めた給特法の基本的な枠組み」を前提とする旧態依然たる姿勢を墨守した。10年前に行った検討が、まるでなかったことにされていると言ってよい。このような消極性の裏側には、「そんな大改革はできっこない。失敗したら責任を問われる」「時間外勤務手当や休日勤務手当の支給には多額の財源が必要だ。財務省や総務省が認めるはずがない」「逆に財務省から義務教育等教員特別手当の廃止や本給の引き下げを要求され、墓穴を掘ることになる」といった文部官僚の事なかれ主義的な心理が働いているように思う。


【私の反論:まず以前紹介した《191、おすすめ本『文部科学省の解剖』(青木栄一、編著)》の中からの文章を載せます。《◎文科省は、他の府省との関係について、極めて消極的・内向的な認識を示している。特に、文科省の幹部職員は、経産省に対しては苦手意識を持ち、財務省に対しては畏怖の念すら抱いているようにみえる。このような他省に対する内向的な姿勢は、文科省=「三流官庁」論を補強しているとも考えられよう。◎2009年の総選挙の結果、自民党は党史上かつてない落選者を出し、さらにその後3年以上の野党暮らしをしたことで、自民党の族議員は大きく弱体化したと評価されている。◎文科省は、他府省との政策調整を族議員に依存してきたため、人事面でのプレゼンスを政策の形成・交渉能力の育成に活かすことができず、2000年代以降に首相主導・官邸主導が強まる中で族議員の影響力が低下すると、文科官僚の政策の形成・交渉能力の低さが浮き彫りになったと考えられる。》と書かれています、その内部にいた前川喜平さんの記述でそれが事実であることがより明白になりました。その他にも以前紹介した《172、おすすめ本『文部科学省』(青木栄一)④》の中からの文章も載せさせていただきます。《文科省は公立小中学校の教員給与を負担する義務教育費国庫負担制度を抱えているから、給与制度と同時に勤務期間管理にも責任をもつ。ところが、文科省は勤務時間の管理責任を長らく放棄し、教員の勤務時間データすら集めてこなかった。2006年に実施された「教員勤務実態調査」は実に40年ぶりのものだった。その後、2016年にTALIS調査と「チームとしての学校」答申を受けて、10年ぶりに調査が行われた。それぞれの期間を「失われた40年」「失われた10年」といっていい。2017年4月には速報値が公表され、教員の長時間勤務があらためて確認された。新聞には小学校教員の3割、中学校教員の6割がいわゆる「過労死ライン(月に80時間の時間外勤務)を超えたと衝撃的な見出しが躍った。4月28日の松野文科大臣の記者会見では「看過できないたいへん深刻な事態」と述べ、1年後の『文部科学白書』でもこれを「看過できない深刻な状況」として振り返るほど、文科省の危機感は強かった。全国に約3万校(小学校2万校、中学校1万校)の公立小中学校があり、そこに約67万人の教員が働いている。教員の雇用主は法令上、市町村教育委員会であるから、勤務時間の管理責任も市町村教育委員会にある。ただし、教員の給与は例外で、都道府県が負担する。もちろん、都道府県にも財政力格差はあるから、義務教育費国庫負担制度が用意されている。その意味で、都道府県教育委員会も公立小中学校教員の勤務時間管理の責任を有しているはずであり、この考えを拡張すれば、負担制度を所轄する文科省もまた責任を分有していることがわかるだろう。ところが、これまでは複雑な構造を理由に、市町村も都道府県も文科省も、教員の長時間勤務に真剣に取り組んでこなかった。40年間もデータを集めてこなかったのはそうした「他人事ひとごと」の姿勢の象徴である。》と書かれています。前川喜平さんは1979年に文部省に入省し、2017年1月に文部科学事務次官を退官されています。つまり前川さん自身も、《文科省は勤務時間の管理責任を長らく放棄し、教員の勤務時間データすら集めてこなかった。》《市町村も都道府県も文科省も、教員の長時間勤務に真剣に取り組んでこなかった。40年間もデータを集めてこなかったのはそうした「他人事ひとごと」の姿勢の象徴である。》という批判を受ける当事者だということです。財務省に対して弱腰の上司批判をして、正義の味方のような立ち位置で過去の出来事を振り返っていますが、《小学校教員の3割、中学校教員の6割がいわゆる「過労死ライン(月に80時間の時間外勤務)を超えた》原因を作り、管理責任を長らく放棄した人の一人である事実は変わりません】


『コロナ期の学校と教育政策』(前川喜平・論創社)より【次回に続きます】




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ