195、大ヒットマンガ『東京卍リベンジャーズ』(和久井健)の限界
作者の和久井健さんは、前作『新宿スワン』も大ヒットさせた天才マンガ家です。本作品『東京卍リベンジャーズ』は、2023年1月時点で累計発行部数は7000万部を突破し、アニメ化もされ、キャラクター商品は次々に発売され、映画化されれば、2021年度実写映画の興行収入トップになるなど社会現象になるほどの人気を誇っています。
この人気マンガは、不良少年がケンカに明け暮れ、チーム同士の抗争の末、最終回には全国制覇を成し遂げてハッピーエンドをむかえるヤンキーマンガです。10代だった頃の私は、ヤンキーマンガを夢中になって読んでいました。『ビーバップハイスクール』『湘南爆走族』『クローズ』『ろくでなしBLUES』『BAD BOYS』などなどきりがありません。ケンカの強い主人公たちに感情移入して、勝利を味わう高揚感を与えてくれる「ヤンキーマンガの素晴らしさ」がそこにはありました。それから数十年たちましたが、現実の世界に存在する不良少年のミジメな環境は何も変わっていません。低学力・低学歴の不良少年が働く年頃になれば、低収入の仕事にしかありつけず、高収入を得ようとすれば犯罪に手を染めることを考えなければならないほどです。このような世の中を変える、社会を変革する、という基準でみた時、「ヤンキーマンガの限界」を私は感じるのです。作者の和久井健さんは、社会を変革する気はなく、面白いマンガを描きたい一心でしょうが、娯楽作品は庶民の不満のはけ口に過ぎないため、不幸の連鎖を産み出している社会や教育現場を変える力はありません。
最近、岸田首相が年頭の記者会見で掲げた「異次元の少子化対策」が、大きな議論を巻き起こしています。岸田首相は少子化対策を含むこども関連予算を倍増する考えを従来から示しており、その少子化対策の柱は、1)児童手当など経済的支援の強化、2)学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、3)働き方改革の推進、の三つとなる模様です。岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」とは、異次元なのは追加措置の規模の大きさだけで、現在議論されている施策は、いずれも、既存の措置の給付規模を増やすもの、あるいは対象を拡大させるものであり、内容に新味はありません。決して「異次元」とは言えるものではありません。
そこで私なりの「不良少年を救うための、異次元の少子化対策」を提案したいと思います。
「1)児童手当など経済的支援の強化と、2)学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充」を私ならこうします。不良少年らは、平均的に義務教育が始まる小学校入学以前の段階で、家庭環境の悪さからハンデがあります。虐待や貧困から、体の成長や、心の平安や、知識の吸収を妨げられているのです。そこで私は18歳以下の全ての子どもたちの「衣食住」を国が保障することを提案します。分かりやすく説明すれば、保護者のいない子どもや虐待されている子どもなどを自立まで養護する「児童養護施設」の概念を全ての子どもに当てはめるということです。昼間、夜間にかかわらず、一人親が働きに出かける時は、その児童を国が預かります。保護者が、仕事の出張、肉体的精神的病気、貧困状態などの場合、短期、長期かかわらず国が面倒をみます。保護者と気が合わない、口論が絶えない、家に帰りたくない、程度の理由であっても、家出した児童を親元から離れた施設で、児童本人が納得するまで長期間でも保護します。愛情面でも、経済面でも恵まれた保護者に育てられている児童は「一秒」も国に助けられる必要はないでしょうが、本人は何も悪くないのに、虐待や貧困で苦しんでいる児童を一人残らず助けます。「家出少年・家出少女」まで面倒をみるのは、宿泊に困ったことで、泊めるかわりに性的行為や犯罪行為を強要する人間と繋がる芽をつぶすためです。この日本では、毎日大量の衣料品、食料品が廃棄されています。全ての子どもたちを守るために、そのような廃棄物を活用するような流通システムをつくれば、「衣食」に関しては想像するより安価でやれるのではないかと思っています。
そして義務教育の公立学校は個別指導にし、塾に通えない児童がおちこぼれないようにします。これにより低学力のまま進級を続け、教師や同級生にバカにされ、就職先にも困り、貧困者を作り出してきた一斉指導の負の連鎖を断ち切ります。学校内に警察力を導入し、問題行動をした不良少年を退室、退学のペナルティを与えます。これにより暴言や暴力を行ったのに、教室に居続け、王様のように威張っていられるという「間違った成功体験」をなくします。これで「ヤンキー文化」も「ヤンキーマンガ」も衰退します。退室、退学した不良少年は別の教室、学校で授業を再開しますが、それでも問題行動がなおらない児童は発達障害の可能性が高いので、専門家が対応します。そのおかげで発達障害の児童を早期に発見することが出来ます。そして将来、学者になるわけでもない大半の生徒にとって役に立たない授業の中身を変え、経済力に結びつくものに変えます。このことにより、貧困が原因による男性の犯罪行為、女性の売春行為を防ぎます。
「3)働き方改革の推進」は私ならこうします。不良少年らのように、将来学者になるのとは真反対のタイプは、早くお金を稼ぎたいし、貧しい家庭の事情としても、稼ぎ手は欲しい。そして日本は外国人に頼るほどの労働力不足なのだから、小学生、中学生の労働を許可する。労働者と学生の両方をしている夜間学校の生徒の概念を全ての生徒に当てはめます。もちろん裕福な家庭の児童で労働をしたくないのなら、「一生」しなくてかまいません。これは若者だけでなく、中高年が会社員をやりながら、学生として学び直す、「生涯教育」の実現にもつながっています。不良少年にとっても、職場という新しい居場所、社会のルール、真っ当に稼ぐ喜びを知ることは有意義であり、そこからより安定的に、効率的に稼ぐために何を学ぶべきかを知るキッカケにもなります。以前は中卒でもやれた理容師の仕事が、高卒でないと出来ないようにしている風潮、それは悪質化して大卒でないと就職しにくい流れとなり、手を打たないと大学院卒をすべての児童が目指しかねなくなるため、無駄な時間、学費を巻き上げられるのを防ぐため、全ての職種に必要な学力を科目別で、AIに判定させます。小学5年生レベルの国語、算数さえ出来ればやれる仕事が大量にあることが浮き彫りになり、そのことで小中学生もその仕事に従事できます。『東京卍リベンジャーズ』の最終回は全国制覇を成し遂げていますが、それだけの組織力があるなら、社会に対してこれらのようなことを訴えるべきです。ヤンキーは戦う相手も戦い方も間違っているのです。
これらを実現する財源として増税は致し方ないので、国民の方々に納得してもらいます。この日本において「おちこぼれゼロ」「いじめによる自殺ゼロ」「貧困による犯罪、売春ゼロ」を実現させるために。