191、おすすめ本『文部科学省の解剖』(青木栄一、編著)
著者は、7人の大学教授、准教授、講師の方たちです。この本の中で印象に残ったところを紹介します。
◎元文部省職員の寺脇によると、採用面接の各省の対応で、文部省の「三流官庁」度合がわかったそうである。「三日目に文部省に行ったら、私のような者でも優秀な部類だったのでしょう。すぐに採用が決まりました」とのことであるから、本人の自己評価が高かったことがわかる。「一流官庁」から内定を得るには初日に訪問する必要があるといわれている。
◎文科省は、第1に、官邸主導の政治への対応ができていないという姿である。首相の影響力を認識しながらも、そこへのアクセスを築くことができず、協力関係が構築できていない。第2に、財務省に強い制約をかけられているという姿である。首相と同じ程度の強い影響力を持つ主体と捉えつつ、協力を得るのが最も難しい相手という認識を持っている。毎年の予算編成において苦労を感じていることがデータからもうかがえる。第3は、団体と与党議員との関係が良好なことで、教育分野において自民党議員、関係団体、文科省の協調的関係が継続している。
◎文科省では、「特に旧文部省の官僚は、教育に政治が干渉してくることに対して警戒心を持ち、そうならないよう慎重な考えを持つ人が多い」という。ここでいう政治とは、文教族に限ったことではなく、地方自治体も含まれているようである。政治家とともに地方自治体への接触も全体的に低い。
◎ある文科省の事務次官経験者(文部系)は、「文部官僚は政治に弱い。……文部官僚が政治に対抗する砦は法令と審議会しかない」と述べている。ただ、彼が述べているように、教育基本法の改正により法令の砦はかなり弱体化され、審議会も、首相官邸主導体制の政治的な任命によって形骸化していると嘆いている。
◎文科省は、他の府省との関係について、極めて消極的・内向的な認識を示している。特に、文科省の幹部職員は、経産省に対しては苦手意識を持ち、財務省に対しては畏怖の念すら抱いているようにみえる。このような他省に対する内向的な姿勢は、文科省=「三流官庁」論を補強しているとも考えられよう。
◎教育振興基本計画の策定過程では、文科省は、理解者・協力者である「族議員」「審議会」「関連団体」を積極的に動員するというよりも、これらの理解者・協力者にいわば尻をたたかれる形で財務省と対峙するという消極的な姿勢をとっている。本事例からは、財務省に対して萎縮する文科省の姿が浮き彫りになるのである。
◎もんじゅの相次ぐトラブルと機構のガバナンスの欠如によって、文科省は監督官庁としての能力を問われる事態となった。その結果、首相官邸に勢力を扶植した経産省に高速炉開発の主導権を奪われることになったのである。
◎2009年の総選挙の結果、自民党は党史上かつてない落選者を出し、さらにその後3年以上の野党暮らしをしたことで、自民党の族議員は大きく弱体化したと評価されている。
◎文科省は、他府省との政策調整を族議員に依存してきたため、人事面でのプレゼンスを政策の形成・交渉能力の育成に活かすことができず、2000年代以降に首相主導・官邸主導が強まる中で族議員の影響力が低下すると、文科官僚の政策の形成・交渉能力の低さが浮き彫りになったと考えられる。
『文部科学省の解剖』(青木栄一、編著・東信堂)より