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167、おすすめ本『進路格差』(朝比奈なを)⑩

【前回の続き】

⑯筆者も長年、「教育困難大学」で教壇に立っている。この自身の体験と同様の大学で教える知人たちの体験等を踏まえて、「教育困難大学」の実情を読者に感じてもらいたいと考える。「教育困難大学」の学生は、何事にも主体的に取り組む経験と意識に乏しく、自分の進路でさえも、主体的に決めたものではなく、熱い思いなどない。彼らは、一応、「まじめな大学生」にはなれる。しかし、長い学校生活の中で培われた従順さから脱し、自分で考え、決め、動ける主体的な人間になるのは相当難しいことだと思う。大学進学までの学校生活で、そのような態度に仕込まれてしまったという面も多分にある。このような学生たちが大学を卒業する時点で、成長しているのだろうか。この問いに対する一つの答えを筆者は実際に聞いたことがある。あるとき、首都圏の中小企業経営者から、真顔で、「就職試験をやると、高卒生と大卒生の得点がほとんど変わらない。場合によると、高卒生のほうが高得点のことがある。大学生は4年間かけて何を勉強しているのですか?」と聞かれたことがあった。この企業はこれまで高卒生を中心に採用していたが、近年、地元の中小規模の大学生にも求人をかけるようになった。その採用活動の中で発せられた質問だが、同様の思いを抱いている企業人は少なくないだろう。大学4年間で学力の不足部分をカバーできていない状況が多いことが確認できる。「教育困難大学」で学ぶ学生のほぼ全員が、心の底では半信半疑ながらも、一般的に言われている大卒になれば就職に有利になるという言説を信じて大学進学してきたと言っても間違いないだろう。彼らの選択は、本当に正しいのだろうか。


⑰大学生の就職活動の際に、学力の高い有名大学が有利であることは、日本社会では古くからの事実である。この事実を信じるからこそ、より学力の高い有名大学を目指して頑張るのだろう。日本では、大学は就職への架け橋の役割が非常に強い。「教育困難大学」への進学が将来の生活の安定に結びつくのかを考える手がかりとして、このような大学で勤務している60代男性の大学教員、古川さん(仮名)を取材した。長い勤務期間中の学生の変質に関して聞いた。1990年代、もともと学力が低い層が進学する大学では、学費が調達できて保護者が子に大学進学させたい高卒生が新しい入試方法を使って入学するようになった。2000年代前半は、志願者を少しでも増やしたい大学が高校訪問を盛んに行った時期である。その際に、高校側の大学を見る視線の冷酷さに気づいたという。「進学校に訪問し、大学の特色等を説明するのですが、『うちからはおたくの大学を志願する生徒はいないので』と言われました」高校訪問にはさほど効果がないと判断し、高校生や保護者等が直接大学に来校するオープンキャンパスに力を入れる。「その時に会った親御さんの服装や持ち物、教職員に対する態度、言葉遣い等々、とにかくラフな印象です。来校する高校生もとても大人しいのですが、何を勉強したいのか、何に興味があるのかなどを尋ねても何も答えてくれないのです」さらに「この頃から入学式や卒業式に来る保護者の様子も変わりました。普段着のような軽装でやってくるようになり、乳飲み子や幼児を連れてきました。とにかく、保護者の変化に驚かされました」と言葉を続ける。


 『進路格差』(朝比奈なを・朝日新書)【次回に続きます】

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