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161、おすすめ本『進路格差』(朝比奈なを)④

【前回の続き】

⑦基礎学力やコミュニケーション能力等が十分に備わっている高校生にとっては、就職試験はさほど難関ではない。事実、「進学校」に通う生徒が、家計の急変により就職志望となる場合が稀にあるが、そのような生徒は公務員試験や大企業の採用試験を難なくクリアできる。しかしながら、学力低位校の生徒は低学力の裏に他の問題も抱えており、未だそれらが解決されていない。困難に直面しても適切に相談できる人に恵まれず、自己主張したり、積極的に何かに取り組んだ経験にも乏しい。そのため、本当に就職する必要がある生徒が就職試験にはばまれることが多々ある。国もこの状況に気づき、就職支援教員を配置する事業を開始した。配置されるのは主に退職した管理職であり、非常勤職員として勤務している。元公立高校校長のユズハラさん(仮名)は、「これまで生徒の就職活動にはほとんど関わってこなかった罪滅ぼしのような気持ちもあった」として、就職支援教員を5年間務めた。勤務のスタート時点で、仕事内容等の説明は一切なかった。辞令を出して「あとはお任せ」という感じで、せっかくの制度をかそうとしない県の姿勢に憤りを感じた。残念ながら、教育委員会は人員や制度を各学校に降ろしたまま、「あとはお任せ」の姿勢を取ることがある。生徒の自立をサポートするという非常に大きな目標をもって設置された就職支援教員制度だが、それを効果的に機能させようというノウハウも意気込みも教育委員会にはないのではと疑いたくなるエピソードである。


⑧P高校で熱心に就職指導を行ってきたユズハラさんが、その中で気づいた問題点を教えてくれた。

1・『欠席の多さ』義務教育段階で不登校を経験した生徒が多く、起立性調節障害や適応障害などの病気を抱えている生徒やヤングケアラーも稀ではない。このような生徒は高校でも欠席が多くなりがちだ。一方、採用する企業のほとんどは『欠席の少ない生徒が欲しい」と考えている。

2・『自己肯定感の低さ』自分の長所や能力を採用側にアピールできなければ、内定を取るのは難しい。自分のセールスポイントを訴えることができるのは、自己肯定感がそれなりに高い人だろう。だが、学力低位校の生徒は、一概に自己肯定感が非常に低い。「元気がない。働く意欲が感じられない」といった理由で内定が取れないことが多々ある。本当は働きたい気持ちが強いのだが、自分に自信がないのでそれを表現できないだけなのにと、本人以上に指導にあたった大人たちが悔しい思いをする。また、会社見学や就職試験当日に連絡なしに参加しない生徒もいる。これも、怠け心やうっかりミスではなく、就職というハードルを前にして、自分に自信がないので怖くなってしまい、悩み苦しんだ上で欠席してしまうケースである。


 『進路格差』(朝比奈なを・朝日新書)より【次回に続きます】

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