11、バカ女②
大声で罵られ、ツバまで飛んできて、悔しいから言い返そうにも痛みに耐えるのに精一杯だった。藤堂は私から両手を離したかと思うと、すぐに私の片肘をつかんで背後に立った。もう片方の腕も掴まれ、両腕を背後から捩じ上げられ身動きがとれない。
蝉村が嬉しそうに私の前まできてしゃがみこむと、
「いい様だなあ。牧野」と笑う。「ひとつ俺から提案があるけど、牧野お前、俺の女になんない? お前クソ生意気だけど、外見だけはいいから、お前みたいな女連れて歩くとアクセサリーとして最高なんだよ。俺の株も上がるし。俺の女になったら、いじめられても守ってやるしよ、 どうだ、悪い話じゃねえだろ」
両腕を捩じ上げられてはいたが、手首が折れそうな時とは違い、喋ることは出来たので思いっきり言い返してやった。
「私みたいな超絶美少女が、てめえみたいな半端者のヤンキーと付き合うわけねえだろ。この唐変木! お前教室で威張って自分のこと、強いつもりだろうけど、 学校卒業したお前に待ってる将来なんて、学歴社会の負け犬なんだよ。冴えないサラリーマンになっても、不良やってたお前は根性曲がってるから、相変わらず弱い者いじめしていい気になってるだろうけど、大人の世界はパワハラ、セクハラに厳しいからそれを理由に出世コースから外れるか、クビになるのがオチなんだよ。ケンカ自慢のつもりらしいけど、格闘技の世界でチャンピオンになれるほど強くねえし、そもそも自分より弱い奴見つけていじめている糞野郎のお前が、格闘家のトレーニングについていける訳がねえだろ。要するに、しがない未来しかないてめえと、 超絶美少女の私とじゃ全然釣り合いが取れてねえんだよ。 私はね、アンタみたいなスカタンに尻尾振るような安い女じゃないんだ、それをよーく憶えておきやがれ、このあほんだら!」
「て、て、て、てめえ!」
扱き下ろされた蝉村は、怒りの余り手の甲で私の頬を一発張った。それでも気が済まないので瞬きを忘れて私を睨みつける。私も負けじと睨み返していたが、そのうち何を思いついたのか蝉村がニタリと笑うと、自分の机まで歩いていき、机の中から黒のマジックペンを取り出し、そのキャップを外して近づいてくる。そして、左手で私の前髪をかき上げそのまま掴むと、あらわになった私のおでこに右手に握りしめたマジックペン(しかも油性!)で何かを書き始めた。書き終えて立ち上がると、不良グループ共が私の顔を見てゲラゲラ笑ってる。蝉村がズボンのポケットから携帯用の鏡を取り出し、鏡に映る私を見せた。
「『バカ女』、てめえのことだよ牧野」
おでこにバカ女と書かれた私は言い返そうとしていたが、背後の藤堂にさらに両腕を捩じ上げられ、その痛みで何も言い返せず、そのまま両手を私から離した藤堂に背中を思いっきり蹴とばされたので前のめりに倒れた。両腕がしびれてすぐに立ち上がれない私に、猫藤ユリが取り上げていた私の鞄を叩きつけ、犬塚、牛島が、
「ざまあみろ!」
「調子にのってんじゃねえぞ」
と勝ち誇り、鬼オーラの不良グループは意気揚々と教室から去っていった。




