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109、終業式②

「ゴメンね」

鈴ちゃんに謝って、三組のヤンキーカップルを見ると、挨拶に来た北川が、後ろ姿で親指を立てながら私の方を指している。残りの五人が不審(ふしん)そうにこちらを見ていて、特に北川の彼女らしき金髪女は、不満そうに、自分の彼氏を睨んでいる。地元じゃ無敵のケンカ自慢の彼氏が、制服姿の女子中学生に頭を下げたのだ。内心面白くないのだろう。が、五人とも一斉に顔が青ざめ、こちらからあわてて視線を外した。私が何者なのか分かったらしい。そして北川を先頭に六人がこちらにやってくる。北川以外の男二人は両腕をさすりながらやってきて、名前を名乗り頭を下げる。

「み、みっともないモン、さらしててス、スイマセン」

 和柄シャツの二人は、丸太ん棒のような腕に、びっしりとタトゥーを入れていて、それを隠そうとさすっていた。私がタトゥー嫌いなのを知っているのだ。

「いや、別にいいよ。そこまで気にしないでよ」

 北川も、長袖シャツを着てるから分からないが、手首のタトゥーが見て取れるので両腕に入れているのだろう。肌の露出が多い、派手めの女三人組にも挨拶されたが、あきらかに怯えていた。挨拶が終わり北川が、

「そ、それでは失礼します」

 と頭を下げると、ヤンキーらはスマホのコーナーには戻らず、エスカレーターに乗って一階へと下りていった。私からすぐに離れたいのだろう。三大暴走族の関係者からすると、二年間、不良界における王座を自分たちから奪い取った半グレに、たった一人で勝ってのけた私の存在は特別らしかった。半グレを壊滅させた時、廃墟ホテルにかけつけた三大暴走族のメンバーは、硝煙しょうえんがたちこめる中、乾いた血まれの顔に、白目が真赤に染まり赤眼せきがんとなった私が、一人だけ立っているのを目撃する。そして床には私に倒された半グレ五十人ほどが呻き声をあげ、使用された何十もの銃器と、撃ち尽くされた無数の銃弾が散乱している。それは異様な光景だったろう。そしてそれを仲間に語っていくうちに、私は人間ではない、悪魔のような存在として彼らの中に定着したのだ。一階におりたヤンキーカップル達が、早足で出口へと向かっているのを眺めていると、複雑な気分になる。そこまで怖がらなくてもいいじゃない。私に対して、

「姫、姫」

 と気安く平気で近寄るのは、相談役の三人ぐらいだ。気を取り直して店内を見渡すと、私を見ていた多くの人があわてて視線をそらしはじめる。いかにも喧嘩の強そうな、柄の悪い六人組が、華奢な女子中学生一人にペコペコ頭を下げているのだ。そんな奇異きいなものを見せられたら、しばらく眺めるのが普通だろう。私の存在自体が、刺青のような存在となり、色々な人たちを震え上がらせている。エラいこっちゃ。こんなにあらゆる人に怖がられていては、この美少女に、いつまでたっても彼氏が出来なくなってしまう。信じがたい事だ。神がくれたこの美貌を無駄にするのは犯罪行為に等しい。私の隣には、世界一素敵な彼氏がいてしかるべきなのだ。そんな事を考えながらドライヤー売り場に着いたが、鈴ちゃんの姿はなかった。しばらく店内を探し歩いていると、大型テレビが二十台ほど並んでいる所に鈴ちゃんがいた。右手には店名の入った紙袋がぶち下がっている。この中に購入したドライヤーが入っているのだろう。

「鈴ちゃん、ゴメンね、遅くなって」

 笑いながら近づいていった私は、ギョッとして立ち止まる。

「嘘でしょ?!」

 思わず口にし、こおりついた私は、鈴ちゃんのオーラに驚く。それは血まみれの女の子だった。かつて憎悪の余り、凶悪オーラを産みだした鈴ちゃん。白龍に喰いちぎられて、山羊頭の凶悪オーラは霧散し、それ以来オーラの姿は消えていた。それに加えて私のそばによくいる鈴ちゃんは、結果白龍から発現される、パワースポットの何万倍もの癒しの力を浴びながら暮らしているので、ズタズタに切り裂かれた心は、すっかり健全なものに回復していた。それなのに、なぜ?


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