9、弱い生徒に人権はない③
「私をいじめた連中を思い出して射ってると気分が良くなるんだ。精神安定剤みたいなものね」
確かに鈴ちゃんのオーラも安定している。背後の女の子は変形もしていないし、血を流してもいない。もしアパートの一室でボーガンを射っていたら、ジョイントマットに刺さる時の衝撃音で、隣接する部屋の住人から苦情がくるかもしれないが、広めの庭のある一軒家の一室なら、その心配はない。鈴ちゃんは気がねなく、なれた手つきで矢を装填し、射ち続ける。
「これのお陰で気が晴れるから、昼間、外に出かけたんだよ。その時、運動公園に立ちよって、ベンチでハンバーガーを食べていたら、ハトの群れがそばにいたから、ちぎったハンバーガーをあげてたんだ。そしたら一回り小さい鳥が一羽だけビクビクしてて、まるでいじめられっ子みたいだったの。かわいそうだから、目の前にエサを置いてあげたけど、食べたらいじめられるから怖くて食べようとしないの。そしたらハトがエサに気づいて横取りしちゃった。その時のハトの顔がね、お前なんかエサ食ってんじゃねえよ。殺すぞてめえって顔してたの。完璧ヤンキーじゃん、笑える。それで一回り小さい鳥が震え上がって縮こまってさ。平和の象徴のハトですら弱肉強食なんだねえ。私はさ、その時の何も出来ない小さい鳥とは違う。これからはちゃんと反撃する。 あのエサを横取りしたヤンキーバトを、体中火だらけに燃やして、 焼き鳥にして食ってやる。キッチリ落とし前つけてやるよ」
もう五本の矢がジョイトマットに突き刺さっている。 六本目の矢を装填しながら鈴ちゃんが私に警告した。
「リカコちゃん気をつけてね。蝉村にまぐれでも勝ったリカコちゃん。アイツら絶対仕返しするから。自分たちが負けた事が帳消しになるまで報復するから。腹立たしいけど主導権はあのクズ共が握っているから」
そして狙いを定め、発射した六本目の矢がジョイントマットに刺さっているのを見ながらこう付け足した。
「警察のいない教室という空間に、『正義』は存在しないよ」




