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振り向けば、空  作者: 桐原るい
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のんびり更新頑張ります





 聞き覚えのないくぐもった声が鼓膜を震わせ、一気に意識が覚醒した。体を起こして声のした方を向いた。

「…??」

 そこには頭部には兜、体には西洋甲冑を身につけた、いかにも兵士らしい人々がこちらの様子をうかがっていた。室内のようで陽の光はなく、あちこちに置かれたかがり火が周囲の輪郭を浮かび上がらせている。上を見ると、暗闇の向こうにうっすらと天井らしきものが見えた。それからしばらくしてやっと、自分から少し離れた場所に遠い親戚である女の子が倒れていることに気がついた。

 ざわめく周囲の人々はなにを言っているのかわからない。聞き取る限り日本語ではない。

「んん…」

「真奈っ」

 真奈美ちゃんの声がしたので膝立ちになりそばへ行こうとすると、目の前に映画でしか見たことのない両刃の剣が現れゆく手を遮った。反射的に息を呑み、両手を上げて固まった。

 おそるおそる剣の持ち主を見上げると、そこにはハリウッド映画さながらの長身の美形の男性が立っていた。兵士らしき人々と違って兜をかぶっておらず、装飾が豪華な甲冑を身につけているため特別な地位の人物なのかもしれない。無表情でクールな雰囲気を持ち合わせており、日常にはない威圧感をこれでもかと放っている。しばらく目を合わせていると、ふと頭の上に耳が見えた。猫や犬とよく似た耳。

「アシェントダラメス。ナータスパラベスカイス」

発せられた言葉がなにを言っているのか理解はできないが、剣を目の前に出しているのだ。おそらく脅し文句を言われたのだろう。しかしそれよりも耳が気になってしょうがない。顔は人間なのに動物の耳が付いている。ハロウィンまではあと半年近くあるはずなのだが。

「え…なにここ?誰?え?ええ〜…?」

 膝立ちのまま剣で制止させられている僕に対し真奈美ちゃんはというと、なにやらうやうやしくバチカン市国の写真などで見たことのある法衣によく似た洋服を身につけた人々の手によって立ち上がるところだった。この扱いの差は一体…?

 遠い親戚の子は実はお姫様かなにかだったのか?そんな疑問が頭をよぎるが、西洋と繋がりがあるなら親戚付き合いをしている自分がわからないわけがない。

 どういうことなのだろう。

 目の前の光景が現実離れしているせいか、ぼんやりと気を失う前の記憶が自然と頭に浮かんできた。





 平日の昼過ぎ。待ちに待った郵便配達員のバイクの音が遠ざかっていく。僕は無地のTシャツとストレッチタイプのズボンポストへ向かい自分宛の手紙の封をおそるおそる手で切り、中に入った用紙を広げてその場で読んだ。

「………」

 内容はなんてことはない。ただの不採用通知だ。そりゃあそうか。三十二歳にして今の一度も正社員の経験がないのだから。

 なんの資格もなくだらだらと生きてきたフリーターは必要とされないんだ。そういう世の中だから仕方ない…。そう何度目かの言い訳まがいの慰めを自身にかけながら、不採用通知を手に持って部屋の中に戻った。

 現在の部屋は二年前から住んでいる。木造アパートのワンルームのユニットバス付きの物件で、一人で暮らすには充分な広さであるが、クローゼットが小さく荷物が入り切らずに部屋のあちこちに入りらなかったダンボールや収納ケースが積んである。家賃が安いからと選んだが、横にすれば入ると思っていた収納ケースがクローゼットに入らず部屋の中が窮屈で仕方がなく、住んでまだ二年しかたってないもののすでに引っ越したい欲に駆られている。

 それに合わせて就職もしたい。都会で夢を追っていたが三十路になると同時に踏ん切りをつけ、実家の近くである現在の街に移り住んだ。高校時代から少しずつ貯めていたバイト代をはたいて短大を卒業してすぐに都会へ飛び出した。結果は残せなかったが、それも仕方のないことだと理解している。

 夢に破れた今、自身のこれからを見つめ直すため、実家の世話にはならずに、かといって何かあった場合はすぐに顔を合わせることができる場所で、安定した生活しつつのんびり一人暮らしをしたい。安定だ。全ては安定の上に成り立つのだ。安定するにはお金だ。お金は働かないと貰えない。働きたい。ボーナスありの正社員で。

 気を取り直してコンビニのアルバイトの就業時間前まで運動不足解消の散歩をしようと、ただの紙くずである不採用通知を適当な場所に置き、携帯と小銭入れをポケットに入れ外に出た。

 向かう先は神社。遠い親戚が神主として運営している。こじんまりとしているが街の中にあるのでしっかりと手入れされているため寂れてはおらず、街の人々が参拝しているのを見かけることも多々ある。

 ゆっくり呼吸することを意識しながら、いつもよりゆっくりと歩く。鳥のさえずりが耳に優しい。対して太陽光は、夜勤に慣れた目に突き刺さるように眩しい。

 やがて神社に到着し、浮き出た額の汗を軽く手で拭いた。息を整えたところで、ネットで知った神社での礼儀作法の真似をして鳥居の前でお辞儀をしてから足を踏み入れた。

 昼下がりの境内では、遠い親戚のおっとりとした性格の女子大生、辻真奈美が箒を持って落ち葉の掃除をしていた。親戚同士、育った環境が似通っているせいか、考え方や性格が僕に近い。決定的に違っている点といえば、僕の方がめんどくさがりであるという点ぐらいだ。

 真奈美ちゃんはいつもはそのままにしている髪の毛を、作業のために結んでいた。普段見ることのない白い首筋が見えるせいか、横顔がいつもと違って大人びて見える。

「真奈美ちゃんやっほー」

「聡お兄ちゃん久しぶり〜」

「今日は授業もう終わったんだ?手伝い偉いねえ」

「家でゴロゴロしてたら頼まれちゃった」

 実家あるあるである。僕が市内にある実家に住もうとしないのは、そういう自由時間を邪魔されるのが嫌だというのも理由のひとつだ。

「今日は日差しが強いから大変だね」

「そうそう。それに風が強いから落ち葉も集めにくくて。涼しくていいけどね」

 真奈美はそう言うとちりとりを持って落ち葉をゴミ袋へ入れ始めた。

「聡お兄ちゃんは今日も夜勤?」

「うんそう。ちょっと運動しよう思って散歩してる」

 僕が職を探してることを真奈美ちゃんは知っている。信心深くなく、若干めんどくさがりである僕が片道十分ほどかかる神社まで散歩しに来る理由について、大方予想がついているのではないだろうか。そう考えるとわずかに気まずい。

 そこへ、一際強い風が吹いた。あまりにも強かったため、僕も真奈美ちゃんも多少体を丸めてバランスを取った。

 すごい風だったね。そう声をかけようと思った次の瞬間、先ほどとは比べ物にならない風が吹いた。まるで台風かと思うほどの風に煽られ、体はバランスを崩した上に地面から離れた。吊るされているわけでもなく、徐々に逆さまの体勢に近づいていく信じられない感覚に恐怖しつつ暴風の中真奈美ちゃんの方へ右手を伸ばしたが、風以外なにも触れることはなかった。




      ・・・・・・


「え?それ剣?!」

 真奈美ちゃんの驚いた声で我に帰った。眼前の剣の脅威により声を発することを躊躇っていると、若干低めの女性の声が聞こえた。声のする方を見ると、豪華な椅子に腰掛けた、純白の甲冑を身につけた女性がいた。室内で唯一椅子に腰掛けている。明らかに権力者だろう。

 女性は再度口を開いた。

「サラヤニスターハモヤヌ。アクテムリハバヤタサムラ」

「はい…?」

「カッサラノミモレボダーコアラバーラナスマハエイ、ナユキササアクテムヒスナルホーブヨーク」

「あの…なんていうか、意味がよくわからないです…あ、あのっ、とりあえずそこにいる人の剣をしまってもらえないでしょうか?」

 日本語バーサス異国語。いやいや通じるわけがないでしょ、と思っていると、女性が僕の傍らに立って剣で制している人物に視線を向けて退くように、といった風にサッと手を動かした。あれ?通じてる?なんでだ。

「ハテスタ?ナム、ウィテスタローク」

「わ、わかりました。とりあえず聞かせてください」

 ええ…?真奈美ちゃんはやはり異国のお姫様か何かだったのか?いやいや、親戚なんだしわからないわけないよなあ。

 まるっきり会話についていけていない僕は、話の腰を折るのも悪いと思い、女性が話し終わるまで待つことにした。何を言っているのかさっぱりわからないため、ちらちらと周囲の人々を確認した。

先ほど動物の耳が生えていた人と同様に、人間とは違った耳が生えている人、ひそひそとこちらを見て話し合う兵士たち、腕を組んでこちらを真っ直ぐに見つめる、これまた威圧感たっぷりな偉そうな人。顔立ちと服装、言語からして明らかに日本人ではない人々だ。

 目が覚める前まで神社にいたはずなので、異国だとしてもおかしい。なぜ一瞬で別の場所に移動したのか、しかも真奈美ちゃんと一緒なのか全く理解できない。目を開けながら夢でも見ているのだろうか。ああ、なにもわからない。

 することもなく、かと言って油断もできないので周囲をうかがっていると、真奈美ちゃんから急に話を振られた。

「そんなこと言われても…。聡お兄ちゃん、普通信じられないよね?」

「え?なにが?」

「ちょっとー。なんでちゃんと聞いてないの?」

「ご、ごめん。っていうか、僕には向こうがなんで言ってるのかわからなくて」

「えぇ、嘘。あの人日本語話してるよ?」

「タバネカスマーマキブリアテスタバー」

「えっ」

「ビズパルタヤーラスコヌチャック、サハラタマスニーオデズリー。アウテバココエリーシャカカーン」

「うっそ〜…」

「ナナテスセッタガラマンウェス。アーカウテバランケストバッタラン、カゲンヌカイニールソール」

 真奈美ちゃんは少しの間なにか考え込んでから、相手がなんと言っていたのか訳してくれた。

「なんかさ、この国を守るために私を召喚したんだって」

「ええ…」

「魔法で波長が合う人探してたらたまたま私で、私だけを召喚したはずが聡お兄ちゃんも巻き込まれてここに来ちゃって、聡お兄ちゃんは波長が合わない人だからなんの加護もないから言葉がわかってないみたいって」

 普通信じられないだろうが、真奈美ちゃんは僕が全く聞いたことのない言語をこうして理解しているし、真奈美ちゃんがこんな外国人を引き連れてドッキリを仕掛けることも考えられない。そもそも気を失ってた理由もはっきりしてない。きっと本当に魔法でここへ来たのだろうと信じざるを得ない。

「それで、聡お兄ちゃんに明日言葉がわかるように魔法をかけるから、今日のところはとりあえず用意してある部屋に食事運ぶからそのまま寝てくれだって。…大丈夫かなぁ?」

「大丈夫だと思いたいね…」

「セブナルカーマイン、アウネスバモンクシェル?」

「あ、はい。聡お兄ちゃん、心配なら一緒の部屋にしようか?って言ってる」

「じゃあ、とりあえずそうしてもらおうか?」

「うん」

「じゃあ、それでお願いします」

 女性は先ほど僕を剣で制していた人物に顔を向けた。

「ナハル、ホーミエルワス」

「ロー」

 先ほどの人物は僕達の前に進み出て言った。

「アーゼナハル。アクテムクシェルオルバコム」

「このナハルさんって人が案内してくれるって」

「どうも、よろしくお願いします」

 頭を下げるとナハルさんは目を見開き、周囲にどよめきが起こった。なんだなんだと焦っていると、ナハルさんが元の無表情に戻って口を開いた。

「アーセナルカラエスト、イシェニムルヤーフォコツ。ヘージケモトヤヤニンレーニヨ」

「そうなんですねっ!!すみません、そうとは知らず…!」

 真奈美ちゃんは頭を下げようとしたところで慌てて姿勢を戻した。どうやらお辞儀は、日本と違ってここでは良くない動作のようだ。おそるおそるわけを聞いてみた。

「お辞儀、ダメだった?」

「うん。この国では、お辞儀は相手から目を離すから、お前のことは眼中にないという挑発行為なんだって」

「めっちゃヤバいやつじゃん…。えー、じゃあさ、お辞儀がダメなら謝るときはどうすればいいのかな?」

「あの、すみませんナハルさん、そういうつもりはなくて」

「キヌベ。ユークレナ」

「ありがとうございます。あの、なんていうか…相手になにかしてもらったときとかに感謝を伝えるときにする動作が、私たちの国ではさっきの頭を下げることなんです。気分を害してしまってすみませんでした。ところでそのー…、この国ではそういった、感謝を伝えるときの動作ってあるんですか?」

「ビルス」

 ナハルさんは右腕を胸の前で横にした。もう少し顎に近づけるとアイーンになりそうな腕の位置だ。

「こうですね。ありがとうございます」

 真奈美ちゃんはさっそくその動きを真似したので、僕もそれに続いて右腕を胸の前で横にした。アイーン。

 ナハルさんが部屋の出入り口へ向かったので二人でついて行った。部屋から出る前にナハルさんが女性に向かって右腕を胸に当てて数秒静止した。退室の際の礼儀作法かと思い、真奈美ちゃんと真似をしてから部屋を出た。するとナハルさんは歩きながらまたなにか話し始めた。

「ラースカラエスト、モナイッテスールズ。アクテムラーキリモユエ。テナリヴィエラミケスプーバナス」

「そうなんですね。…聡お兄ちゃん、さっきの動きは王族の人に忠誠を誓ってる人がするもので、心はいつもあなたと共にありますって意味があるから一般の人はさっきの右腕上げる方でいいんだって」

「そうなんだ。教えてくださってありがとうございますナハルさん」

「ありがとうございます」

 会話が途切れ、絨毯が敷かれた廊下をひたすらに進む。なんとなく壁を見ると、燭台ではなく蛍のような光が中に入ったランプが掛かっていることに気がついた。これも魔法の一瞬なのだろうか?

 やがてナハルさんがドアの前で立ち止まって開け、中へ入るよう促された。室内はテレビで見たような、海外の高級ホテルのように整っている。高そうな机や椅子などの調度品に暖炉、壁に掛かった絵画に大きなダブルベッドが二つ、茶色い大きな一枚の絨毯。どれを取っても一級品であろうことは素人目にもわかる。

「わあすごーい」

「すごいね。こんな部屋、人生の中で泊まることないと思ってた」

「ねー」

「アクテムマーイハリクシェル。アーゼカバルトハイン、マイカムヨテルアー」

「わかりました」

「ナイ」

 ナハルさんは部屋には入らず、そのままドアを閉めた。

「なんて?」

「ここがあなた達の部屋です、自分はドアの前に待機してますので何かあったら呼んでください、だって」

「なるほど…」

 つまりドアの前で見張ってるぞ、ということか。

 とりあえずすることもないので部屋の中を見回し、窓があったので外を見てみた。外は真っ暗で、月が雲の切れ間から顔をのぞかせていた。

「夜だ」

「私たち、昼に会ったのにね」

 そう言いながら真奈美ちゃんも僕の横から外を見た。

「見て見て。下に街があるよ!」

「これまたすごいね。ここは結構高い場所にあるみたいだ」

 窓を開けて下を見てみると、数十メートル下に月明かりに照らされた城の基礎であろう石垣と地面が見えた。ここから降りるのは至難の業だろう。

「召喚されたのは本当なのかな」

「本当っぽいよね。だって私たち、お昼の神社にいたのにこんな見たことない場所に来てるし…。それにナハルさんって人、耳生えてるし」

「アレ気になるよね!」

「尻尾も生えてるよね」

「えっそうなの?!僕からは見えなかったなあ」

「生えてたよふさふさの尻尾。ナハルさんのことも気になるけど、聖女って話が一番気になる。明日いろいろ話聞いてみないと」

「そうだね。僕は不要だったみたいだから、僕の扱いがこれからどうなんのかちょっと心配」

「奴隷とかにされないよう、私から言っておくね」

「お願いね」

 真奈美ちゃんはこれはこれで乗り気なのだろうか。僕としては僕自身の安全よりも、マヤ文明かアステカ帝国の儀式のようなものが行われていて、聖女であるという真奈美ちゃんが生贄にされるのではないかと心配なのだが。だがそんな不安を、本人の前で口には出せない。

「私が聖女で召喚かー…。魔法を使ってみたいって思ってたけど、まさかそんな世界に来るなんて思ってなかった」

「昔はそんな妄想してたな」

「私も。うちが神社の管理してるから、いろんな心霊現象の話とか聞いてたし。私自身はそういう力なかったけど、なんとなくそういうのってあるんだろうなって思ってた」

「でも真奈美ちゃん自身が気付いてないだけで、そんな力あったみたいだね」

 真奈美ちゃんはふと、窓の外へ目を向けた。

「どうなんだろうね。もしかしたらここに召喚されたのはなにかの間違いかもしれない。…もし、私が聖女じゃなかったら、私も聡お兄ちゃんもどうなるんだろう…」

「………」

 最悪なことになるかもしれない。

 楽観視できない状況であるということは、真奈美ちゃんもよくわかっているようだ。だが、ただひとつはっきりしていることがある。

「でもさ、真奈美ちゃんはあの人達の言葉がわかったんだろう?それならここの世界と波長ってものが合ってるってことだから悪いようにはしないんじゃないかな?」

「あ、そういえばそうだね。聡お兄ちゃんは本当にわからなかった?」

「うん全然。だからきっと大丈夫大丈夫」

 僕よりは…。僕は言語でのコミュニケーションさえ取れていない。明日言葉がわかるように魔法をかけてくれるみたいだが、それが上手くかからなかったら完全なお荷物だ。

 コミュニケーションが取れないことの重要性は、いくつものアルバイトの経験をしてきた分よくわかっている。お客様だろうが従業員同士だろうが、言葉ひとつでマイナスな関係になってしまうことがある。

「そう、そうだよね。きっと大丈夫だよね。…聡お兄ちゃんさ」

「うん?」

 こちらに顔を向けた真奈美ちゃんは楽しそうに笑って言った。

「もしもここから戻れたら、この世界の話を題材にした脚本書いて劇やってみたら?」

「あー…うーん…僕は脚本は書いたことないんだよね」

 実は役者になるという夢を追っていた。しかし生活が苦しくなかなか芽も出なかったため、諦めて地元へ帰ってきたのだ。

「やってみたらいいじゃん。私もモブで出るよ」

「あはは。ありがとう。それじゃあ僕と真奈美ちゃんの初舞台のためにも帰らないとね」

 コンコン、とドアがノックされたので二人で振り向いた。食事を乗せた台車と、数人の給仕の女性とナハルさんが入ってきた。

「ヨノマリチェス。ムケベイットサーモス」

「ご飯だって聡お兄ちゃん」

「やった〜」

 正直お腹が空いていた。夜勤のアルバイトをしているせいか体のリズムが乱れており、起床する昼頃はご飯は食べずに夕方頃に食べることが多い。今日もそんな日だった。

 いろいろと不安があるが、体力的にも食べておかないと。これが最後の晩餐になりませんように…。


「いただきます」




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