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もう一度だけ、あなたと…。

作者: 如月りょう

「恋愛フラグのヒエラルキーは運次第」という小説を連載しているのですが、そちらとは雰囲気が180度違うので、ご注意下さい。


それではどうぞ!!



 彼女が死んだ。


 これまで“死”というものはどこか漠然としていて、自分とは遠くかけ離れたものだと勝手に思い込んでいた。


 授業で習った過去の偉人たちの“死”。

 テレビに出ている有名な人の“死”。

 事件や事故、病気で亡くなる様々な“死”。


 どれも同じ“死”というジャンルで、可哀想や、あの人が?と思うことはあっても、どこか他人の気でいた。


 それはそう。その人たちは自分の身近なコミュニティにいないのだから。


 幸いにも、俺は身内の不幸を経験したことがない。祖父母共に元気だ。もちろん両親も。妹や飼ってる犬だって元気そのもの。俺は“死”とは無縁の場所にいた。…はずだった。


 突然のことだった。


 その日俺は大学が2限からで、彼女は1限から。2限は同じ講義だったので、俺は楽しみにしていた。しかし、朝のおはようラインから返事が返ってこない。ただ、こんなことはよくあることでそこまで気にしていなかった。しかし、妙な胸騒ぎを感じた。


 大学に着き、携帯を確認するもまだ連絡は来ていない。先に教室に行くことにした。席を確保し、そのことをラインで伝えた。


 …既読がつかない。


 少し不安になる。

 もしかして携帯を家に忘れたのか?

 可能性は十分にある。彼女と出会い、付き合ったのは大学1年生の夏。そしてあと1週間で付き合って2年になるが、彼女が携帯を忘れてきたのは過去に何度かある。


 また彼女をからかういいネタが出来たと思うことにした。そうしないと、不安で心が一杯になりそうだったから。


 2限の開始チャイムが鳴る。

 まだ彼女は来ない。

 あまり催促ラインをするのは重い彼氏に感じて嫌なのだが、今日は不安が勝ってしまい、催促ラインをした。10分、20分経っても既読はつかない。


 結局、彼女は来なかった。既読もつかない。

 俺は続いて講義があったが、飛んだ。

 先生には申し訳ないと思いつつも、今の俺には講義よりも大事なことがある。


 彼女は大学から一駅離れた所で一人暮らしをしている。両親はいない。幼い頃に父親が亡くなったそうだ。母親も彼女が高校2年生の時に他界。その後は祖母と暮らしていたが、大学生になると共に一人暮らしをスタートしたらしい。


 俺とは違い、“死”が身近にあった彼女は強いなと思った。それらを乗り越え、元気に明るく振る舞う彼女の笑顔を守りたいと思ったし、彼女にも直接言った。

 その時、滅多に泣かない彼女が泣きながら「ありがとう」と言った姿は今でも脳裏に焼き付いている。それほど儚く、可憐だった。


 彼女の家が近づく。途中警察がいた。なにやら事故があったらしく、一部立ち入り禁止になっている。胸の不安がより一層大きくなり、それを振り払うように俺は走って彼女が住むマンションへと向かう。


 彼女は3階の角部屋に住んでいる。「いいでしょ!」と誇らしげに言った彼女は可愛かった。

 インターホンを押すが、返答はない。

 2度3度押すも相変わらず。


 そこで俺の不安はピークになる。

 ネガティブな発想しか浮かばない。

 どうか、どうか杞憂であってくれ!と心の中で叫んでいると、肩をポンと叩かれた。


 俺はもしかして!と期待を込めてそちらを向くと、警察官が立っていた。


 「あなた、この部屋の楠本有紗(くすもとありさ)さんとお知り合いですか?」


 なんで警察が彼女の名前を?そう思ったが「はい」とだけ返事をした。


 「そうですか…」と警察官は歯切れ悪く答え、斜め下を向いた。


 なんだよ、その感じ、やめてくれ。


 「実はですね」


 その続きは言うな、頼む、言わないでくれ!!

 心ではそう思っているが、体は何の反応もできない。


 「楠本有紗さんは今朝、このマンション近くの交差点で交通事故に遭い、亡くなってしまいました」


 俺は頭が真っ白になった。

 言われた言葉の意味を何度も確かめた。


 なくなる?無くなる?…あぁ亡くなる。ってことは有紗は死んだ…?もう、この世にいない…?


 じわじわと押し寄せてくる感情に耐えきれなくなり、俺はその場にうずくまり、大声で泣いた。


 “死”というものは、自分には関係ないと思っていても、突然やってくる。平等に、誰にでもやってくる。自分だけが特別とか、そんなことは一切無い。こうして、自分の大切な人を簡単に奪ってしまうのだから。


 ひとしきり泣いた後、俺は警察官に有紗のことを聞かれ、祖母がいることを伝えた。


 すぐに連絡が取れ、有紗が眠る病院を伝えていた。


 警察官が俺にも気を使ってくれ、

「一緒に来るかい?…見ない方がいいかもしれないが」と言ってくれた。


 優しさなのだろうが、俺に行かないという選択肢はなかったので二つ返事で行くと答えた。


 病院に着き、俺は有紗の祖母と合流した。

 会ったのはこれが初めてで、こんな形で会いたくなかった。


 「初めまして。有紗さんとお付き合いさせて頂いてます。秤翔太(はかりしょうた)と申します」


 俺が自己紹介をすると、有紗の祖母はなにか気づいたようにして、


 「あら、あなたが翔太くん?」


 えっと俺は声が漏れた。


 「ご存知でしたか?」


 そう言うと寂しそうにふふっと笑って


 「ええ、もちろん。有紗ったら私と話す時絶対に貴方のことを口にしてたわ。よっぽど好きだったみたいね」


 その言葉に俺は目頭が熱くなった。


 「すみません!大事な家族を守ることができなくて…ほんとうに…!」


 言いながら涙が溢れた。本当に、俺は何をやっているんだ。守ると決めた彼女を守れず、何が彼氏だ…!


 「そんなに自分を責めないで」


 はっとその顔を見ると、目に少し涙を浮かべながら、それでも笑顔な有紗の祖母の顔があった。


 「今回のことは本当に残念だけど、貴方が謝る必要は全く無いわ。それどころか感謝してる。両親を亡くしたあの子は周りを心配させまいと無理して笑っていたけど、大学生になって、貴方の話をするようになってからの有紗は本当に心の底から笑っていたわ。…幸せそうにしていたわ。だから、有紗に代わって私からお礼を言わせて。ありがとう」


 最後のありがとうを聞いて俺はまた大声で泣いてしまった。


 「おれも…有紗にはかぞえ、きれないぐらい、、たくさんの思い出をもらって、、ぐす…。本当に幸せでした!!」


 なんとか最後まで言い切れ、また大粒の涙を流す。

 うんうんと頷きながら、有紗の祖母も泣いていた。



 こちらです。と案内された場所に布をかけられている膨らみがベッドに横になっていた。

 顔の部分を捲ると、血が付いてはいるが紛れもない有紗の顔が出てきた。


 また涙が溢れる。

 痛かっただろう。苦しかっただろう。しかし、有紗の顔は安らかに見える。


 …有紗、君は最後何を思っていたんだ?


 もう今となっては確かめようの無いことだ。

 せめて、最後は安らかに眠ってくれ…。



 家族の方と話したいとのことで、俺は一旦病院の待合室で座っていた。

 携帯の写真フォルダを見る。

 そこには有紗との思い出の写真がずらりと並んでいた。


 ああ、最初のデートは映画だったな。少し見栄を張って、普段見ないサスペンスを選んだけど、内容が難しすぎて全然わからなかったな。そんな俺を見て有紗は笑っていた。


 半年記念には遊園地に行ったな。2人とも絶叫が好きだから何回もジェットコースターに乗って、フラフラになってたな。最後に乗った観覧車の夜景は綺麗だったな。この時初めてキスもしたっけ。


 1年記念は初めて旅行に行ったな。1日目の食べ歩きは最高だったし、旅館の温泉は文句無しだったな。2日目はどこに行くかで初めて喧嘩したっけ。有紗が怒ると怖いってこと、ここで知れていい経験になったよ。


 先月は水族館に行ったな。綺麗な魚と綺麗な有紗を見れて俺は幸せだったけど、有紗はどうだったろ?あまり自分の感情を言わないからな。だから自分の祖母に俺のことを言ってるって知ってめっちゃ嬉しかったよ。もっと直接言って欲しかったけどね。


 来週の2年記念は1年ぶりに旅行に行くんだ!1ヶ月前から2人で計画練ってるから、絶対楽しい旅行になるな!…なぁ、有紗…!


 「なんで、死んじまったんだよ…」


 俺は、今日何度目かわからない大粒の涙を流しながら、静かに泣いた。



 「翔太くん」


 有紗の祖母が戻ってきた。手には何か持っているようだ。


 「どうかしましたか?」


 「実は、どうしても貴方に受け取って欲しいものがあるのよ。これを」


 そう言って差し出してきたのは、血が付着している携帯だった。そう、有紗の携帯だ。


 「え、も、貰えませんよ!そんな大切なものを!」


 「翔太くんだから、受け取ってほしいの。きっと有紗もそう望んでいるわ」


 真っ直ぐこちらを見つめる瞳から、絶対に折れない信念のようなものを感じて、俺は恐る恐る携帯を手にした。


 「…本当にいいんですね?」


 ええとだけ頷き、


 「解約はするけど、中のデータをどうするかは翔太くん、貴方次第よ」


 そう言うと有紗の祖母は警察の人と一緒に去っていった。


 しばらく呆然としていると、警察官がやってきて、


 「今日は本当に大変な1日だったね。家まで送るよ」


 そう言って俺を家まで送り届けてくれた。



 家に帰り、俺は家族に今日あったことを全て話した。

 「そうか…」と言い、その後妙に優しく接してきたので、逆に辛くなり、俺は自分の部屋へ引き篭もった。


 正直いま、自分は何のために頑張ればいいのかわからなくなっていた。


 「くそ!!」


 俺はベッドに思い切りダイブした。

 するとゴトンという音がした。


 見ると床に有紗の携帯が落ちていた。

 さっきの勢いでポケットから飛び出したのか…。


 俺は有紗の携帯を開く。

 パスワードは一緒なので難なく開けることができた。

 当然、有紗の携帯を見るのはこれが初めてだ。


 少し罪悪感を感じながら、SNSや写真フォルダを見る。俺関係の呟きや、大学関係の呟き。写真には俺専用のフォルダがあった。見るとこんな写真あったなというものや、いつの間に撮ってたんだ?といった写真まであった。俺も有紗との写真は多いと自負していたが、有紗の携帯には俺の倍以上の写真が保存されていた。…本当に幸せそうな顔してるな。


 また涙が出てきそうになったので、閉じようとホーム画面に戻すと、「日記」というアプリがあった。

興味本位でタップしてみると、パスワードがかけられていた。なんだろ、と思いながら一緒のパスワードを入力してみる。

 するとパスワードは開き、カレンダーが出てきた。

 カレンダーには所々色が塗られている。

 とりあえず1番最新の色がついてる日をタップすると、ズラっと文字が出てきた。

 読んでみると、それは…


 「俺と行った水族館の感想じゃないか…」


 そこにはデートの内容、感想が書かれていた。


 『○時に集合。翔太くんは少し遅れてきた。笑』

 『水族館に到着!近くのレストランでミートパスタ食べた!美味しい!!翔太くんはカルボナーラの大盛りを食べてた!一口貰ったけど美味しかった〜』

 『水族館を満喫!正直あまり興味なかったけど、楽しそうにしている翔太くんを見れて私も幸せ!また来たい!!』

 『夕食はハンバーグ!翔太くん大好きだもんね。笑

美味しかった!』

 『今日もいっぱいの楽しいと幸せをありがとう。大好きだよ!次の旅行楽しみー♪』


 俺は携帯の電源を切り、今日1番の大声で泣いた。


 「俺も大好きだった!!君と一緒だった日々は幸せだった!!毎日が輝いてた!!本当の本当に…」



 “ありがとう”



 “死”というものは自分とは遠い存在で、どこか他人事のように思っていた。

 しかし実際は、簡単に人の大切な人を奪っていくとんでもないもので、誰にでも平等に訪れるもの。


 でも神様、どうか一度だけ願いを聞いてくれるなら


 もう一度だけ、あなたと…。



読んで頂きありがとうございます。

結構重たい話になってしまいました…。


また、面白いと感じて下さった方は、連載作品の

「恋愛フラグのヒエラルキーは運次第」

を是非読んで頂ければと思います!

雰囲気は全然違います。笑

まだ7話目なので十分追いつきます!!


よければ評価よろしくお願い致します!

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