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旅立ちの時

「ゼフィちゃん、それでいいの?」

「お母様、それで良いんです。ライクなにしてるの?」

「イヤですよ。お姉様は、何故そうなんですか?」

「ゼフィちゃん、考えて直したら?ライクちゃんが……」

「お母様、それでは王都に着いて騎士団に入っても何にも変わらないですよ」

「お母様、お姉様、騎士団に入ったら気を引き締めますから」

「お母様、ダメです。こんな心1から鍛えて直さないとゲイル兄さんに合わせた時ガッカリしますよ」

「確かに……」

「あなた……」


 腕を組みながら納得している父親アルガとは違い、母親リリィは頑固になっている私にあたふたしている。

 床に座り混んでいる弟ライクは、少し半泣き状態だ。


「お母様、ライクは既に10歳ですよ。もっと冒険や戦いもしなくては」

「ゼフィ、王都は早くても着くのに2週間は掛かるんだぞ。それでも冒険にはならないのか?」

「お父様、()()で行くと護衛の人達にモンスターを取られてしまいます、それじゃ何にも経験になりませんよ。ライクは、絶対幌馬車の中で見ているだけです」


 あれとは幌馬車の事で数名の手練た護衛の冒険者がついている。王都行きなら報酬が良いため奪い合いの依頼(クエスト)なのだ。


「僕だって戦いますよ。これでも【戦士】ですよ」

「剣術レベルがやっと3になったのに?」


 私の返答に弟は、黙って下を向いてしまった。さっきの勢いはどこにいったの?


「ゼフィちゃん。道中、危険なのよ。モンスターもいるし、途中のあの場所も……」

「確かにあの場所は、危険だな」


 聖都から王都に向かう道中に密林とは行かないが、だだっ広い森の【魔獣の森】がある。その森にはランクが高いモンスターが、多く潜んでいる。手練の冒険者や王都の騎士達が、ランクやレベルアップなどをするために入るが、殆どは奥には入らず直ぐに森から出れる所で活動をする。


「もしかして、魔獣の森ですか?」

「そうだ。あの森は迂回するんだろけど、遠回りになるから。やはり馬車で行った方が」

「お父様、大丈夫です。突っ切る事なんてする訳ないですよ」

「お姉さま、そうですよね。そうですよね」

「おねえさま そのかお つっきるね」


 弟が、ウンウンと頷いているが、キッチンで片付けをしている妹のルルが顔だけ出して弟に聴こえるように言う。


「おっ お姉さまぁー!!」

「ゼフィちゃん、考え直して。聖都までは解るけど王都は、絶対に馬車で行って」


 母親が、目をうるうるして私に問い掛けてくるが、もちろんそんな気は無いけど、ちょっと考え直す方が良いかな。


「お母様が、言うなら聖都から王都までは、馬車を検討します」

「ゼフィちゃん」

「お姉さま」


 私の言葉に母親お弟が、落ち着いた声でホッとしている。


「おねえさま は ばしゃ は つかうきない」

「ルルっ!!」


 直ぐにキッチンに隠れる妹に、大声を出したら弟は、目から涙がこぼれ落ちた。


「おっ おがぁざまぁー」

「ゼフィちゃん。ライクちゃんがっ」


 母親が、涙を出してへたり込んでいる弟を抱きしめて私の方を見てる。


「ゼフィ。考え直したらどうだ」

「そうですね。ライクの剣術レベルが、聖都到着までに5になったら馬車で行きます」


 父親は、私の意見に賛成のようで弟を見つめて諭すように言う。


「ライク、やるんだぞ」

「えっ! はいっ」

「良かったねぇー。ライクちゃーん」

「おっぅ おがぁざまっ ギブッ」


 母親は、ものすごく喜んで抱きしめてていた弟を締め上げている。


「お母様!!ライクがっ ライクがっ、苦しんでる」

「ゴメンね、ライクちゃん」

「ばいっ」


 締め上げられてダラーんとしている弟は、立ち上がる事さえ出来なかった。

 私と弟は、出発するために既に準備を終えているが、弟が駄々を捏ねたので出発するのは明日になってしまった。


「ライク。明日は朝から出発するよぉー」

「お姉さま、なんか怖いですよ」

「ライク。聖都まで馬車で行っても良いんだよー」


 私は悪巧みを考えていそうな笑みを浮かべて弟に言うと一瞬顔が明るくなったけど、直ぐに理解したのか睨み返してきた。


「その手には乗りませんよ。お姉さま!!」


 私は、バレたと思ったけどあまり悔しくは無く、正直良かったと思っている。何故ならここで誘いを受けてたら、ヤバいと思ってしまうからね。


「お父様、外回り行きませんか?」

「いや、今日は休みだからな。でも何もすることないからライアンに聞いてみるか」

「ライク、あなたはどうする?」

「僕は、行かないです」

「本当に?剣術レベル上げる絶好のチャンスだと思うけどな」

「ゼフィ、ライク。門の所で待ってろ」


 父親が、そう言い放って家を出ていき、私も準備をする為弟に声を掛ける。


「ライク、早く準備しないと」

「えっ、僕は行かないって……」

「お父様に叱られるよ。早く」

「分かりましたっ!」


 弟も準備をし始めるため自分の部屋から出てくる。

 私と弟はずっと使っている、貧相な鎧を着て鞘にショートソードを挿しておき、今回は盾を持っていく。


「はぁっ おっ、お姉さま準備できました」

「お父様も、門で待っているから行こう」


 息を切らして準備を終えた弟と共に門へと向かう。もちろん家を出る時は「いってきまーす」と言って出たよ。


「2人共、行くぞ」

「お父様、今日はどの方向に行くんですか?」

「東いくぞ」


 弟と父親が、話しているけど、何かいたら楽しみだな。


「お父様、東の方行きましょ。ライク行くよ」

「はい、お姉さま」


 しばらく3人で道無き草原を歩いて食材となるモンスターを探す。かれこれ1時間ぐらい歩いて散策しているが全くと言っていいほどモンスターと遭遇しない。それを良いことに弟は鼻歌を歌い始め、しまいには口ずさんでいる。


「お肉 お肉 おっ、にっくぅー」


 弟が楽しそうに歩いていると目の前に現れる。


「いたっ!」

「いたか?」

「ひいっ」


 私と父親は、剣の柄に手を掛け直ぐに攻撃に転ずる事が出来るように腰を落とし目の前にいる黒いモンスターに近づくが、弟は何故か私と父親の後ろにいて離れてく。


「ライク!!何処にいくの?」

「だって、だってあれ!」

「ライク、剣を持ってこっちに来い」

「ひぃー、はっ、はい」


 私と父親は、黒いモンスターを警戒しつつライクが来るのを待っている。


「まずは、ライクが最初に攻撃してきて」

「えっ、そっ、そっ」

「お父様、それでいい?」

「直ぐに駆け付けるから攻撃してこい」

「ライクならあんなの倒せるわ」

「お姉さま、顔がにやけてますよ」

「そう?」


 確かに私は、にやけてる。だってライクが逃げ腰になっているし目の前にいる黒いモンスターがお目当ての1つだからね。


「アイツは眉間辺りに攻撃すれば良いし、足の健を斬れば攻めて来なくなる」

「お父様、そんは事簡単に……」

「簡単ってなぁ。アイツのランク低いぞ。確か【F】だぞ」


 ガタイはデカいが、ワーウルフやワイルドボアと同じぐらいの強さだが、コイツの怖さわ鋭い角に勢いのある突進を掛け合わせた攻撃だ。油断すると命を奪われる事になる。


「ワイルドブルなんですよ。アイツの突進がぁ」

「単なる牛じゃん。怒らせる前に倒せばいい」

「お姉さま、アイツは、アイツは……」

「ライク、兎に角行け!!剣術レベル上がらないぞ」

「お父様ぁ」


 背中を押され私と父親の前に出る弟。

 左手にはライクに見合った長方形の皮と鉄を使った盾を持ち右手は、ショートソードを持ってジリジリとワイルドブルへと近づいている。


『ブォッ』


ワイルドブルが鼻を鳴らし近づく弟の方を見ると前足で地面をかき鳴らしている。


「てぇあっ」


 弟は、ワイルドブルへと突撃を決め込み盾を構えて向かっていくとワイルドブルも『ブォフォォ』と唸り弟へ頭に生えている角を弟に向けて突進して行く。


「こっ、のぉ」


 盾を突き出しワイルドブルの角を掠めて進行方向を変えさせる弟。そして持っているショートソードでワイルドブルの両左脚首を斬り切断する。

 ワイルドブルは、よろめいて横に倒れ『ブゥボォォ』とうねり声を出している所に弟の剣がワイルドブルの喉へ斬りつけて倒す。


「はぁはぁ、たっ倒したぁ」

「よく、やったぞ。ライク」

「やれば、出来るじゃん」

「当たり前ですよ。お姉さま」

「調子いいなコイツ」


 私は、コツんと軽く弟の頭を叩き笑顔が戻っている。その近くで父親は、ワイルドブルをアイテムバックに入れている。


「今日、どんどん狩って美味しいご飯作って貰おう」

「ライク、調子づいてっ」

「あははっ」


 今日は沢山のモンスターを狩っているが弟は、後1体ワイルドブルを倒して、群れでいたワイルドボアに苦戦していたけど何とか1体倒している。

 私と父親は6体ずつ倒して今日は、家へと戻っていった。


「ライク、明日は聖都まで出発するから寝坊しないように」

「大丈夫ですよ。なんたってワイルドブルを倒したライク様ですよ。お姉さまこそ寝坊しないでくださいよ」


 元気よく笑顔でいる弟は、今日狩って食材となっているモンスターとの戦いをものすごく話を盛って意気揚々と語っている。

 私と父親は、苦笑いをしながら話しを聞いているが、母親は真剣に耳を傾け時には心配そうに弟の顔をみる。

 そんな団欒な我が家であるが、私と弟は当分の間、家族と一緒に食事を取る事も会話する事も出来ない。

 弟もそれをわかってて楽しそう話をしているんだろうなぁと思って見ている。

 ちなみに、妹は、弟の会話を聞き流しながらもぐもぐと食事をしているよ。



「おねえさま おきて」


 妹の声に起こされる私だが、何故か妹が、私のベッドに潜りんでいて私を起こしている。


「ルルなんで、いる?」

「きのう いっしょに ねましたよ」


 思い出した。初めて妹が涙目で私に『いっしょ に ねたい』って言ってきて寝ちゃったんだっけ。


「ルル、起きるわ。ライクを起こして来てくれる」

「おにいさま は おきてますよ」


 あら、私が寝坊しちゃったと思ってたら妹は「おにいさま はやく おきちゃってます から」と耳元で囁いてきてゾクッとした。

 妹は、私よりも早くベッドから出て扉の所で振り返り「はやく おきて くださいね」と笑顔で言ってきて部屋を出ていった。


 準備を整え、荷物も持ちビシッと決めている弟が、部屋を出てきた私の前にいる。


「お姉さま、遅いです」

「何、気合い入っているの?」

「ここから、ライクの伝説が始まるんですよ」


 弟は、わざわざ腰刺していた鞘と剣を抜き床へと突き立て柄頭に手を当ててドーンと構えている。昨日とは、打って変わって強気な弟。


「と言うかライクさぁ。今から朝ごはん食べるんだよ。荷物……」


 私は人差し指で弟が持っている荷物を指す。弟は、肩を落とし背負っていた荷物がズレ落ちる。


「そんな所でボーッとしてないで早くご飯済ませるよ。この家で食べるの次いつか、わからないんだから」

「はいっ」


 兄は王都に行って今は居ないが、家族全員で食事をしている。母親は、少し鼻を啜っていて泣いているのかな? 父親と妹は、無言で勢いよく食べている。



 食事を終え、町の門にいる。


 私達の家族はもちろん、ライアンさんを始め自衛のみんなもきている。


「ゼフィちゃん、本当に歩いて聖都まで行くの?」

「お母様、もちろんです。馬車も良いんですけど、足腰鍛えるにはこれが1番です」

「確かにな、でも無理して進むなよ。馬車を途中で乗っても良いんだぞ」


 父親は頷きながら納得している。

 父親も母親も子供を危険に合わせないようにする親心に感謝するよ。


「ライクちゃん、ゼフィちゃんの言う事守るんですよ」

「おにいさま おねえさま の いいつけ まもる」


 母親と妹は、心配そうな顔をしながら弟に言い付けている。


「お母さまにルル。俺、どんだけ頼られてないんですか!俺だって男ですよ。むしろお姉さまを守ってみせます」


 鼻からフンッていう音を立てて得意満面な顔で言う弟。


「よし、その意気だライク。ゼフィを頼むぞ」

「お父さま、任せてください。ウッ、ゲボッ」


 弟は、力拳を胸に当てるが、力加減を間違えて噎せている。


「お父様、お母様、ルルにみんな。行ってきます!」

「行ってきます」


 私ゼフィと弟ライクは、王都を目指して出発する。


「お姉さま、聖都までですよ。聖都から王都までは、絶対に馬車!!」

「剣術レベルが5になったらでしょ」

「そうですけど今、王都まで徒歩で行こうとしてた顔してましたよ。絶対に僕の剣術レベル5にしますからね」


 私よりも前に歩く弟を見ながら私達はとりあえず聖都を目指す。

読んで頂きありがとうございます。


ここから始まります。

ついにゼフィが旅立ちました。

投稿に時間がかかりすみません。

皆様の応援本当に感謝です。

これからも励みによろしくお願いします。

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