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「僕」は愛される資格がない  作者: 大島千春
8/10

第2話「避けてたはずなのに、また会っちゃったよ…。」

※主人公が事故に対するトラウマ持ちです。読んでいて不快な思いをするかもしれません。大丈夫な方のみ読んでください。※


亀の歩みペースの更新にも関わらず、今回も短いです_(:3」z)_


後から思い出した。


あの男装女子、同じクラスの北山明里きたやまあかりだ。

黒髪ショートカットで身長小さめで、小柄な印象なんだけど、動きが元気いっぱいな小動物みたいなやつだった。席は割と離れてたから、あまり話す機会もなかったけど、なんとなく目で追ってた。なんとなく引っかかるものを感じてた。

それがたぶん彼の大きな秘密である「実は女の子だった」という事実だったんだろう。


この前はたまたま、彼の大事な秘密を暴くような真似をしてしまったけど、彼とはもともと接点もなかった。秘密は他にバラさないように気をつけ、彼と今まで通りに接していれば、なんてことはないだろう。


今まで通り、つまり、彼とは必要最低限にしか話さない!

ドッキリばったり会うなんて恐ろしい展開にならないよう、出来るだけ彼との接触は避ける!

これで問題ないはずだ。

今までも何もなかったんだ、これからも何も怒らないはず!



******



…と思っていた時期が、僕にも1時間ほど前までありました。


結論から言うと、なんてことあった!


放課後、病院でドッキリばったり会いました、なんてひどい展開を予想できるはずもない。


制服姿の僕と、私服姿の北山さん。

私服姿もボーイッシュだなー、と現実逃避しても、そこに北山さんがいる現実は変えられない。


正面3メートルの距離。

これでは「見なかったことにしよう」なんてことも通用しない。

完全に油断していた。


「こんにちは、下地君。偶然だね?誰かのお見舞い?」

驚いた顔をしつつも、無難な挨拶をする北山さん。


「ま、まあ、そんなところ…」

…僕は嘘は苦手なんだけど、本当のことを言うのは嫌だ。だから、誤魔化す。

嘘は言ってない。…大まかに見れば。


「そっか〜!下地くんもなんだねー!僕もそうなんだ!僕、半年くらい通っているけど、意外とわからないものだね!」


爽やかな笑顔で返された。

なんか、嘘をついた僕と違いすぎて、とても後ろめたい気分になった…。


(言うなよ、言うなよ…!)

何を祈っているかというと、この話の流れはマズイので、どうにか話を逸らして欲しいんだ。

もしも、見舞い先のやつの話になったら、気まずい。




話は絶対重くなる。


北山さんの見舞い相手の入院期間は半年。入院の平均日数が2週間前後の今の病院事情で、イレギュラーに長すぎる。

病気や治療が長引いているのは間違いない。

それだけじゃなく、嫌な予感がする。




「僕が見舞いに行ってる人はね、今、意識がない状態なんだ。」


…僕の祈りは天に届かなかった。

すでに不穏なワードが飛び出してきてる。




「交通事故でさ、頭を打ち付けたんじゃないかって。それで、検査結果は異常ないのに、意識がない状態がもう半年も続いてるんだ…。

それで僕は…って、下地君!?大丈夫!?」




…ほら、みろ。

話を聞いてしまったこと、後悔してるじゃないか。


僕の目からはボロボロ涙が溢れている。


彼女が死んだ時のことが頭をよぎる。




ーーー

血塗れの視界と、紅く染まった彼女の姿。


最期に彼女が僕に向かって何かを言っていたようだが、僕には聞き取れなかった。


僕に向かって伸ばした手が、重力に従ってパタリと落ちた。


その光景をただ見ていることしかできなかった、無力な僕。

ーーー



「っ!下地君!?」

「…大丈夫、この痛みは精神的なものだから…っ。」


過去の記憶がフラッシュバックするとともに、痛む「無いはずの左眼」。


幻肢痛ファントムペインという症状がある。

止むを得ず足を切断した患者が、「無いはずの脚」に痛みを感じることがあるのだという。


僕の左眼はない。

事故で使い物にならなくなり、切除した。

それでも、こうして痛むことがある。


精神的にショックを受けた時や、ストレスで眠れなかった時。僕の左眼はこうして痛みを発することがある。



「ごめん、私のせいだよね…っ。本当にごめん、私が至らなかったばかりに。安易に話していい内容じゃなかった…。ごめん…。」


ひたすらに謝る北山。

衝撃のせいか、素が出ている。

「君のせいじゃない」とは言えず、でも、気の利いた返事も思いつかず、僕はただただ、気まずい思いをしながら嘆く北山を見ていることしかできなかった。



だから、こういう話は苦手だ。

相手の想いを受け止める余裕は僕にはない。

自分のことで精一杯だ、君のことなんか思いやれない。


聞かなくていいなら、僕は耳を塞ぎたい。


彼女が死んだ時のことを思い出してつらくなる。



せっかく北山が話してくれたのに、僕は空気を気まずくすることしかできない。

自己嫌悪と、北山に迷惑をかけたことに関する罪悪感で胸がいっぱいになった。


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