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「僕」は愛される資格がない  作者: 大島千春
6/10

プロローグ「『僕』は、『私』は?」④

プロローグ、これで完結です。

これを投稿するにあたり、透の一人称が盛大にミスってたことに気づき、①〜③を修正しました。

直ってなかったらご指摘ください。


()()()()は2日学校を休んだあと、いつも通りの様子で登校してきた。


たった、2日。


普通のクラスメートだったら、「大変だったな」って労って終了の、当たり前の長さの休み。

だけど、私のモヤモヤが堪え切れないほど溜まるには十分な期間だった。


あの人のことが憎い。

透くんを見るたびに、透くんがあの人と一緒にいたときの仲睦まじい様子を思い出す。

つらい。

透くんを見るのもつらい私は、教室で透くんを視界に入れないように、できるだけ遠ざけた。

三田くんは、私の様子から察したのか、教室で話しかけてくることはなかった。


そんなこんなで、図書室に行く約束をしている水曜日の放課後。

相変わらずいじけっぱなしの私は、「図書室に行きたくない」とぼそりと呟き、廊下を歩いてた。


すると、「北山」と声がかかる。

後ろを向いて確認しなくともわかる。

三田くんだ。

「なぁ、最近大変そうだけど、図書室行かないか?気分転換にもな…」

「行かない」

三田くんの話の途中できっぱりと言い切る。

返事を聞き、三田くんが明らかに動揺した様子になったが、私にはそれをフォローする気力もない。


ああ、憎い。

どうせ私なんか。

透くんはお姉さんの方がお似合いなんじゃない?

どす黒い感情が渦巻く。


「…北山。何かあったのか?最近らしくないよ。…なぁ、僕に話してくれないかな?僕にできることがあれば、やりたい。北山の助けになりたいんだ。」


あぁ、もう!うるさいなぁ!!

見当違いの方向からの答えに、私はブチ切れた。


もし私のためを思うなら、お姉さんと別れて!!!

もう、そんなんだったら私のことは放っておいて、


「三田くんなんか、お姉さんとずっと一緒にいればいいじゃない!!」



ーあ。


やっちゃった。



後悔した時には遅く。

私はその場から逃げ出すしかなかった。


三田くんを置いて。


自分勝手などす黒い感情を、よりにもよって1番大切にしたい人に、八つ当たりでぶつけてしまったことを後悔しながら。



******



「私ッ、サイッテーーー!!」


私の大好きな甘い甘いクレープをガツガツと食べながら叫ぶ。

いつもの帰り道の途中の、お気に入りのクレープ屋さんの前で、私は特大いちごスペシャルクレープを今月残り少ないお小遣いで買い、一気食いしてた。


いつもの私だったらこんなに美味しいものをじっくり味合わないで食べるなんて、って思ってるだろう。

でも、これくらいのお金で、この後悔の気持ちが晴れるなら安いものだと思う。

遠慮なくがっつく。


ふとした瞬間に、さっきの三田くんの悲しげな顔がちらつく。


ーあんなこと言っても、三田くん関係ないのに!


「うあーーーーーーーッッ!!」


周りの視線なんて関係ない!

知らない!

モヤモヤする気持ちを大きな声で吐き出す。



…ピーポーピーポーピーポー。



モヤモヤイライラしていた私の耳にけたたましいサイレンの音が入ってくる。


「…っ、うるっさいなぁ。救急車?この近く?」


「ええ…っ、私の帰り道の方向だ。運悪いなぁ…。」


でも、クレープも食べ終わってしまったし、もう暗くなってきたから帰らなきゃ。


歩き出した私の耳に、聞き覚えのある名前を呼ぶ声が響いた。


「透!!…っ、透!!!」



その方向に目を向けたわたしがみたものは。



血まみれのスクールバッグ。

その人の名前を泣き叫ぶ女の人。

その近くに横たわっていたのは赤い、紅い、緋い…


「え?」


あまりの衝撃に、私の視界は暗転した。



******


衝撃のあまりよろめきながらも、私は救急車の後を追って病院に向かい。

大怪我をした透くんは、救急外来で応急処置を受け、一命を取り留め、

なんとかICUに入ることなく、脳神経外科の一般病棟に入院した。


…ただ、一命を取り留めたと言っても、意識不明の重体。

脳の機能は無事だと思われるが、原因不明の昏睡状態。

もしかしたら事故の衝撃で脳にダメージがあったのかもしれないとのことだった。


脳のMRI所見から言えば、いつ目が覚めてもおかしくないはずなのに、脳波はずっと昏睡時と同じ波形。

これが続くようなら、植物状態と同じような状態なのかもしれないと、医者は言ったらしい。


以上が透くんのお姉さんから聞いたあらまし。

家族ではない私は、ドクターからの病状説明には参加できなかったけど、お姉さんが透くんと私の関係を察してくれて、病状について教えてくれた。




月明かりの中、懇々と眠り続ける透くんを前に、私は掛ける言葉が思いつかず、立ち尽くしているだけだった。


悲しいはずなのに、涙が出ない。


…何も考えられない。


「ねぇ、明里ちゃん」

ぼーっと突っ立ってるだけの私に、透くんのお姉さんが白い箱を持って声をかけてきた。

そして、私に白い箱を差し出す。


取っ手のついた、白い化粧箱。

フランス語でお店名がプリントされたシールが付いている。

「…ケーキ?」

「うん」

私が、声にもならないようなボソボソとした声で呟くと、透くんのお姉さんが優しい声で答えを返してくれる。


「これね…。透から。」

「えっ」

「事故の前、透はこれを買いに行ってたの。事故の時は私が持ってて、無事だから安心して。透が渡そうとしてた明里ちゃんにあげるね」


それを聞いて、私は言葉を失くす。

これを、私に、…透くんが?


「好きな女の子と喧嘩しちゃったから、その子の大好きな甘いものを買って行って、仲直りしてもらいに行くんだって。」


…好きな子?

透くんの好意に気づかなかった私なんかのために?


「気に病まないでね、明里ちゃん。

この事故は…」


ダメだ。

イヤだ。


どう考えても私のせいじゃないか。


私が理不尽に透くんに八つ当たりなんかしなければ、透くんはこんな事故に遭わなかった。


イヤだイヤだ嫌だ嫌だ。


聞こえない。

透くんのお姉さんが何か言ってるけど、頭に入ってこない。

言葉が入ってこない。




透くん、透くんっ…

透くん!!!






頭の中を、透くんが私のために言ってくれた言葉が駆け巡る。


「僕はそれでもいっしょに本を読んでくれる北山が好きだよ」

「よっ北山」

「なんで!?僕が悪いのに!」


透くん、透くん、透くん、透くん…っ!!!


「僕は…」

「僕が…」

「僕、…」


ぐるぐるぐるぐるぐる。









…あぁ、そうだ。







ぜんぶ、「私」のせいだ。







******





それから少しの時が流れ。

春。


お母さんが自室の部屋のドアをノックする。

「明里ー?体調は大丈夫なの?」

「うん大丈夫」


ドアを開ける。

新しい制服を着た自分の姿を見て、お母さんが固まる。

「!?明里、あんた、その格好はお兄ちゃんの…!?」



そう、これは兄の制服。

お母さんの眼には、髪をさっぱりと切り、男子制服のブレザーに身を包んだ自分の姿が映っているはずだ。


「心配かけてごめん。

『僕』はもう大丈夫。

今日からは学校行けるよ。」


「待ちなさい!明里!!」



「『じゃあ、母さん、』」


図らずも、今から言おうとしてる言葉は『あの時』の兄と同じで。




「『行ってきます』」









自分は医師ではないし、脳外傷に関する知識も曖昧なので、あくまでフィクションという設定でふわっと読んでください…。

とりあえず脳死じゃないよ、MRI異常なかったから脳手術もしてないし、一般病棟にいてもいいよね!

っていうか、ICUたぶん面会入れないし、今後の展開的にも一般病棟にいてもらわないと困る(メメタァ)。


次からようやく一話です。

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