第4話 実は「僕」と「彼」はすれ違っていたりして
亀の歩み更新だったのに、
3日連続投稿なんて…((((;゜Д゜)))))))
GWって素晴らしいですね。
過去編ここで区切りになります。
嘘みたいな現実が起きた日の夜が明けた。
ふと目を覚ますと彼女がいない現実があることを思い知る。
目が覚めなきゃよかったのに、そうしたら、彼女が亡くなったことを忘れていられたのに、と思う。
早朝も通り過ぎた午前中、亡くなった「彼女」はストレッチャーに乗せられて病室を出て行った。
怪我のために葬式に参列できない僕にとっては最後のお別れだった。
花を手向け、彼女の頭を撫でて、「今までありがとう」と言って送り出した。
彼女の母親に「短い間だったけど、ありがとう。あの子も夏樹くんといられて幸せだったと思う。」と言われた。
僕は気の利いた言葉一つ思いつかず、頷くことしかできなかった。
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命に別状はないとはいえ、僕の入院期間は長引いた。
骨折した骨の手術も受けなきゃいけないし、左眼の傷の治療に加え、片目がない状態で生活していくためのリハビリもしなくてはならない。
それでも1ヶ月経たないうちに退院できるだろうと、医師は言った。
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骨の手術が終わり、左眼の痛みも減ってきた頃、僕は病室が変わることになった。
今までいたのが、手術や怪我の直後で容体が変わりやすい「急性期」の患者がいる病棟。
それが、容体も落ち着いてきて、症状の経過観察やリハビリ目的で入院する患者の多い「慢性期」を担当している病棟に変わったらしい。
だんだんと体調が回復してきたことを実感する。
怪我が治ることは喜ばしいことだけれど、事故の影響が薄れ、彼女がいなくなってからの期間を実感させられるようで悲しかった。
怪我がすっかり治り、痛かったことも忘れてしまったら、僕は彼女の死を実感することができるのだろうか。
その意味では、この左眼を失ったことは、彼女が亡くなった事故があった証明のようで、悪くないことのように思えた。
病室は4人部屋だったが、なぜかとても静かだった。
何か機械が動いている音、呼吸の「スーハースーハー」という音や、「ピッピッピッ」と周期的に機械音が鳴り響く以外は音がしなかった。
せいぜい、身動ぐ音がするくらい。
たまに面会の人が来て少し話をしているのが聞こえてくる。
1週間に1回の人もいれば、毎日来る人もいる。
うちの家族は、仕事があるので平日の昼間は来られなかったが、夕方早くに仕事が終わった時や、休日には来てくれていた。
2人とも忙しいのに悪いなぁ、と思いながらも、何もすることのない入院生活に飽きていたので、ありがたかった。
骨折の痛みも薄れ、片目の生活にも慣れてきたため、医師に歩行も許可された僕は、トイレやシャワーくらいなら看護師の手を借りなくても行けるようになった。
その時に同室の面会の人とすれ違うこともあった。
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それは入院中のある日のこと。
いつだったかはよく覚えていない。
リハビリ帰りに、廊下でセーラー服の女の子とすれ違った。
亡くなった彼女とよく似た色の茶色い髪。
懐かしさから、彼女よりは長いそれに僕は見惚れた。
視線に気づいたのか、彼女が少し振り返った。
見ていたことがバレたと思い、気まずさから僕は顔を逸らした。
逸らしたものの、彼女の様子が気になり、ちらっと彼女の方を窺い見た。
視線に気づいたかと思ったが、彼女は僕ではなく、これから僕が戻ろうとしていた病室の方をじっと見ていた。
まるで、何かを堪えているかのように。
まるで、何かを祈っているかのように。
しばらくして彼女は歩き出した。
僕は彼女の姿が見えなくなるまで、彼女の後ろ姿をじっと見ていた。
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僕と同じ病室の、僕のベッドの向かい側に、僕と同じくらいの年齢の患者がいた。
あの静まり返った病室の中でも、その少年はまだ元気な部類の患者だった。呼吸器の装置もつけていないし、チューブ類も最小限のものだけ。
それでも、僕は少年が話しているのを見たことがない。
目を開けていることもないようだった。
ずっと意識がない状態のようだった。
セーラー服の女の子は、度々その意識の戻らない少年の元にお見舞いに来た。
何かを話しかけることもなく、長い間そばにいた後、帰っていく。
見ては悪いと思いながら、することもなく暇な僕は、カーテンの隙間からチラッと彼の寝ているベッドの様子を見ていたが(自然にできた隙間から、だ。決して故意に開けて盗み見ているわけじゃない!)、その女の子は何も言わず、ぎゅっと少年の手を握っていた。
そして手の甲にキスをしているのも見てしまった。
少年は、その女の子にとって、大事な人なのだろう。
いつか、少年が目を覚ます日が来るといいと願いながら、僕は退院する日を迎えた。
僕の退院までに、少年が目を覚ました姿は見られなかった。
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そういえば、気がついたことなのだが。
あのセーラー服の女の子、
今思い返せば、北山明里だったんじゃないだろうか。
茶色いロングの髪は切り、黒く染めてしまっていたけれど。
はっきりした顔立ち、大きな目。
「彼」の面影があった。
まだ、あの少年は目を覚ましていないのか。
と、僕は思った。