うさぎと一緒に
お月見団子を盛ったお皿を抱えてこっそりお隣のお庭に入った。
お庭を見渡せる大きなガラス戸と障子戸は、夏が過ぎると閉め切られている。
けど、毎年十五夜の夜は、この部屋に座卓が置かれて、障子戸を開けっ放しにしていた。
座卓にはぼた餅がつまったお重。葡萄、桃、梨、柿の藤籠。枝豆ととうもろこし。そして深皿いっぱいの栗と南瓜の甘煮。最後にススキが揺れる壺花瓶。
毎年お隣のおじいちゃんとおばあちゃんはそうやってお月見をしていたんだよ。
おばあちゃんはお月見団子じゃなく、おじいちゃんの好きなぼた餅を作る。
それがお隣さんの十五夜さんで、僕と姉さんは毎年お呼ばれされていた。
果物は僕たちに、おばあちゃんがその場で切り分けてくれて。おじいちゃんはぼた餅を小皿にとって、至福の笑顔でかぶりつくんだ。甘煮は僕たちが会った事のない息子さんの好物なんだって教えてもらった。
今年の春、おじいちゃんが亡くなって、お仏壇にぼた餅がお供えされているのを何度か見たよ。お仏壇は庭に面した部屋にあるから、きっと今夜もぼた餅が大皿いっぱいに盛られているはずなんだ。
今年僕たち招待されなかった。
でもね、今日、おかあさんに手伝ってもらって作ってみたんだ。雪うさぎのような形をした真っ白なお団子。赤い目と茶色いおひげもつけてみたよ。手作りだから一個一個ちょっと表情が違うんだよ。おばあちゃん、気がついてくれるかな? 喜んでくれるかな?
こっそりお仏壇の部屋へまわってみたら、やっぱりススキとぼた餅だけが供えられている。けど、小さな灯りだけでおばあちゃんはいず、お線香の匂いもないや。なのに、障子もガラス戸も半分だけ開いていてちょっと不用心かな。
ねえ、おばあちゃん、一人のお月見は淋しかったの? おばあちゃんがお月さまをながめているいるように、おじいちゃんもおばあちゃんを探しているかもしれないよ。あんまり静かだと、おじいちゃんが探せないかも。
だからうさぎ団子のお皿、こっそり置いていくけど、後で戸締りは忘れないでね。
今夜はこの子たちが部屋中をかけまわって、賑やかなお月見になるよ。きっとおじいちゃんがみつけてくれて、お仏壇のぼた餅をにこにこしながらほお張ってくれるよ。
来年は僕とお姉ちゃんが、ススキと果物を持ってくるから、おばあちゃんがぼた餅と甘煮を作ってくれるといいな。おじいちゃんの前でまた一緒にお月見したいんだ。
おやすみなさい。おばあちゃん。良い夢を。
ありまさん、企画主催お疲れ様です。