7 眠らない都市 『アリア』
「読み書きを覚えた!!!」
「早ぇよ」
おっと心の声が素で出てしまった。
「あれからまだ一週間しか経ってないはずなんだけど?」
「人間、目標があればできるもんだよ」
私は思った。
(バカなのか頭がいいのかわからない、多分バカなんだろうな)
と。
だがこれでシュウタが文字の読み書をできるようになった。
今まで私やリン達が文字の通訳をしていたが、もう面倒を見なくて良くなるので時間的拘束がなくなるのはありがたいことだ。
それにちょっとしたお使いや簡単な仕事なら任せられるという利点もある。
「まあ約束は約束だがらね、獣人族に会わせてあげるよ」
「待ってました! それで、どんな種類の獣人さんなの? 狐?もしくは狐? それとも狐かな?」
「シュウタがどれだけ狐族が好きかはよくわかった。 とりあえず狐じゃない」
私がそう言った瞬間、シュウタは目に見えてテンションが下がった。
もう大暴落と言っていいレベルで。
床に手と膝をついて項垂れてる。
「実はシュウタにやってほしいことがあるんだ」
「やって・・・ほし・い、こ・・・と?」
やばい、目が虚ろだ。
「そう、『鳥人族』っていう人族の背中に翼がある種族なんだけど、最近妙なことが起こっていてね。 それの対応をしてほs「是非やらせてください!」・・・よ、よろしく頼む」
テンションが戻ったらしい。
え? 鳥人族でもいいの?
鳥人族とは見た目は人族で背中から1対の翼を有している獣人族だ。
その姿から『翼人』とも言われている。
その鳥人族が住まう都市、眠らない都『アリア』
この都市はいつでも、どんな時間でも人々に活気があり、賑やかで、華やかな、そんな場所。
鳥の特性を強く受け継いでいる鳥人族はとても夜目が効く。
真夜中に、たとえ街に明かりがなくとも普段と変わりなく生活することができるのだ。
さらに、鳥人族は歌うことが大好きで、そこかしこから綺麗な声音が聞こえてくる。
その為、冒険者たちもこの街に来ると日中はカフェテラスやレストランで、夜中はバーやダンスホールで、飲み、歌い、騒ぎ、力尽きるまで静まらない。
そんな都市アリアに私、魔王ルフィナとシュウタは来ていた。
私が拠点としているアストレア城がある魔王都カトレアから歩くと約2ヶ月はかかる距離を、私は転移魔術を使い、一瞬できたのだ。
「・・・あの、ルフィナさん?」
「なんだねシュウタくん」
「ここ、ホントに眠らない都なの?」
「そうだよ」
そう、間違いなく私たちは『アリア』に来ている。
しかし、目の前にある風景は眠らない都市というより、眠った都市と言ったほうが似合っているかもしれないが。
街に人影はなく、民家の窓は固く閉められ、カフェやレストランも全てClauseの看板が掛かっていた。
「まるでゴーストタウンみたいだ。 いったいどうなってるの?」
「城でも話した通り、最近妙なことがあってね。 そのせいでこんな有様なんだよ」
「妙なことって?」
私はこの街でなにがあったのかをシュウタに説明する。
二週間前、私の執務室に一枚の報告書が届いた。
鳥人族の都市アリアにて原因不明の流行病が発生したという内容のものだった。
症状の初めは鼻水や頭痛、咳など風邪と似た症状が出る。
悪化してくると下痢や嘔吐、悪寒を伴った高熱、全身に倦怠感が現れる。
中には関節痛や筋肉痛が起こり、布団やベットから起き上がれなくなるどいう事例まであったらしい。
しかも老若男女問わず発症している。
まだこの病で死者は出ていないが、時間の問題だろう。
赤ん坊や寿命が近い老人がかかってしまうと体力がないため、高熱には耐えられないだろう。
そして厄介なのが回復魔術をかけても2、3日するとまた発症するということだ。
報告を受け、Aランク相当の回復魔術専門の魔術師10人で都市全体に超広範囲回復魔術をかけてもらい、事態収拾を行ったのだがその後、病の再発者が続出した。
普通の流行病とは全く違う病で、事態収拾が全くできなかったため、私が直に調査、対策、解決をしようと思っていたのだ。
そして丁度シュウタが読み書きを覚えたと言って来たので、ちゃんと覚えてるかのテストの意味と、もしかしたら異世界から来たシュウタならこの病に関してなにか知っているかも知れないという僅かな期待をして、今回連れてきたのだ。
「つまり、完全にルーに報告するタイミングを間違えた訳だ」
「いやいや、そんなことははいよ。 異世界の知識があるシュウタに心当たりがないか聞くつもりではいたから現地に行くか行かないかの違いしかないよ」
私がそう言うとシュウタは渋々ながらも、
「まあ、鳥人族を間近で見れるチャンスだと思えば・・・」
と一応納得はしてくれたみたいだった。
「それで、なにか心当たりはある?」
「うーん、なんかそんな症状の病気があった気がするんだけどな。 なんだっけな~?」
シュウタは腕を組みながら考え込んでいた。
この病がなにか、知っている可能性が高いということだ。
「とりあえずその病にかかってしまった鳥人族の人に会いに行こう」
「え!? 大丈夫なの? 伝染ったりしない?」
「恐らく大丈夫だ。 調査の結果、鳥人族しかこの病にかからないみたい」
「鳥人族しか・・・」
そんな会話をしていると、この街に複数ある病院の一つに着いた。
ドアをノックするとしばらくして「はい」と、返事が帰ってきた。
そして中から鳥人族の中年くらいの男性が出てきた。
「これはこれは魔王ルフィナ様。 よくおいでくださいました。 ご案内致します」
「ああ、よろしく頼む」
どうもこの病院の医師らしい。
私とシュウタは彼に着いて行き、しばらく病院内の患者を見て回った。
「どうだシュウタ。 なにか分かったことはないか? どんな些細なことでも構わない、なにかあれば言ってほしい」
「うん、患者さんを見てて思ったんだけど・・・ひどい頭痛とか嘔吐とかしたり、高熱と関節痛で動けないほどになったりするんだよね?」
「ああ、そうだ」
「んでもって1回治ったのに2、3日で再発する人もいたと」
「その通りだ」
「・・・これ、『インフルエンザ』じゃね? しかも鳥人族だけってことは『鳥インフルエンザ』かも」
「・・・イ、インフルエンザ?」
シュウタはこの原因不明の流行病のことをそう言ったのだった。
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