5 北の山脈
やっと書けました! 更新遅くてすみません・・・
私は縄でぐるぐる巻きになったシュウタを担いで標高3000mもある雪山、北の山脈こと『プルアス山脈』に転移魔術で来ていた。
というのも近年、プルアス山脈の中腹あたりで推定ランクAクラスの魔物が住み着いたらしく、そこを通る商人や近くの住民が困っているという報告が来ていた。
なので冒険者ギルドに討伐依頼を発注してこの件は終了するはずだった。
ことが起きたのは討伐依頼を発注してから半年が経った頃、つまり1ヶ月前の出来事である。
なかなか依頼完了の報告が上がって来ないのでギルドにどうなったか聞いてみると
「それが討伐に出たAランクパーティーがボロボロになって帰ってきまして。 でもまあ帰ってきたということは討伐したんだろうと話を聞いてみれば「あれは無理だ」と言って受注を破棄したんです」
Aランクパーティー、つまり村を壊滅させるほどの魔物を討伐することのできるパーティーか。
そんな一流パーティーが依頼破棄だと?
「魔物の種類は特定できたのか?」
「いえ、わからなかったみたいです。 なんでも洞窟の中にいるらしいんですが中に入ろうとすると氷の塊が止めど無く飛んでくるそうです」
「・・・それで?」
「その後も数パーティーが装備と対策を練って討伐しようとしてるんですが未だ未達成です。 今は・・・Bランクパーティーが3つ、あぁ3パーティー合同受注してますね。」
Bランクパーティーでも3つ集まればAランク指定の魔物を討伐することができる。
が、氷の塊が飛んでくるということは氷魔術を使っている可能性が高い。
Aランクの魔物が魔術を使えるとなると魔術の種類や規模にもよるがSランクに達することもある。
これは思っていたよりも厄介だぞ。
「今受注しているパーティーを依頼達成にして全て呼び戻してくれ。 国軍から討伐隊を編成して北の山脈に向かわせる」
これ以上冒険者ギルドに任せても犠牲者が増えるだけだと判断した私は軍を動かすことにした。
問題は魔王軍最高戦力の二人、リンとクリスが不在だということだ。
まあ私が出ればいいんだけどね。
「ということで私がここに来たわけだ。 いや~まさか二人に会えたのは幸運だったね」
「うん僕が来る意味が全くないね」
「お昼ご飯食べたでしょ?」
「それはあの店で食べようかって言ったかr「食べたんなら働かないとね~」」
「・・・騙された」
騙したわけじゃないよ?
タダ飯喰らいはいけないなと思っただけで。
「まあでも軍の最高戦力が揃ってるからシュウタの出番はなさそうだけどね」
「Aクラス程度の魔物ならウチひとりでも楽勝だよ!」
「とか言いながらどうせ私に泣きついてくるんでしょ、リン?」
「ウチがいつクリスに泣きついたんだよ!」
「しょっちゅうじゃない、この前の海竜種討伐の時だって」
「それ150年も前の話しじゃん!!」
また始まった。
リンとクリスはすぐに言い合いを始めてしまう、昔からそうだ。
「二人とも仲いいんですね」
「お、わかってるじゃない」
二人とついさっき会ったばかりのシュウタにもそう見えるのか、やっぱり仲いいよねこの二人。
ま、いつも否定するんだけどね。
「「仲良くない!!!」」
ほらね、息ピッタリ。
まあそれはさておき、そろそろ洞窟が見えてきた。
シュウタはさすがに逃げられない、というか逃げても帰れないと思ったのかおとなしくしているので縄を解いてやり、自分で歩かせている。
担ぐの疲れたし。
ひとまず離れた所から洞窟の周りを観察してみたが、特に変わったところはない。
足跡があればどんな魔物なのかがわかるかもしれないと思ったが、真新しい雪が積もっているので確認できなかった。
「シュウタ、ちょっと中見てきてよ」
「嫌だよ! 入口に立っただけで氷の塊が飛んでくるんだろ!?」
「大丈夫、当たらなければどうってことないから」
「なんでそのネタ知ってるんだ! てか無理だわ!!」
ネタ?
またシュウタがよくわからないこと言ってるよ。
私は事実を言っただけなのに。
はぁ、しょうがない。
「リン、とりあえず中見てきて」
「了解、魔物見つけたらどうする?」
「一応捕獲しよう」
「は~い」
そう言いながらリンは討伐隊員から両刃の片手剣を2本借り、装備した。
リンは刃物の扱いに関して右に出る者はいない程の達人だ。
その為、近接戦闘を得意として速度の速い攻撃にも対応できるので適任だった。
ちなみにクリスは魔術のスペシャリストでこういった戦闘は苦手だろう。
どんな魔術でも発動に時間が少なからずかかってしまうのでとっさの攻撃に弱い。
そういった弱点をカバーするための新しい魔術を日々開発しているようだ。
リンが洞窟の前に立った。
今のところ魔物からの攻撃はない。
そのまま慎重にリンは前に進んでいく。
リンが見えなくなったとき、洞窟の中から金属音が聞こえてきた。
恐らくリンが飛んできた氷塊を片手剣で切り裂く音だろう。
程なくして金属音が聞こえなくなった。
そろそろ魔物の正体がわかったかなと思った瞬間、
「ギャァァァォォォオオオオ!!」
と、ものすごい声が聞こえてきた。
すると、洞窟の中からリンが走って出てきた。
「ルフィナ様、地竜種がいた! 寒冷地仕様に進化してる!」
そう言いながらリンは洞窟に向かって剣を構えた。
その瞬間、洞窟の中から地竜が出てきた。
「なんで地竜種が!? リン! 捕獲はしなくていい。 倒しちゃって!」
「なんだあれ・・・トカゲとカメを足して2で割ったみたいなやつ。 全体的に白いけど」
シュウタが地竜を見てそんなことを言った。
「あれは地竜。 世界各地に生息してて、その土地の環境に合わせて体の能力を変化させるんだ。 でも普通こんな厳しい環境のとこなんかにいないはず・・・。 基本的にこっちが攻撃しなければ大人しい性格なんだけどな・・・」
通りで冒険者では討伐できない訳だ。
普通の剣では地竜の体に弾かれて攻撃らしい攻撃が出来ないのだ。
いくらリンが達人だとしても、軍用量産品の片手剣では傷つける程度がせいぜいだろう。
リンは飛んでくる氷塊の切れ目を縫うようにして地竜に接近し、前足の部分を2本同時に横薙ぎに振り抜いた。
バキンッ!と音が響き、2本の剣先が宙を舞う。
「うーん、やっぱ量産品の剣じゃ強度が足らないな」
リンは対して気にした様子もなく、地竜から距離を取る。
そしてリンが身に着けているブレスレットのようなものが光り始めた。
「ようやく自分の剣を出す気になったのか。 最初から出していればこんな苦労しなかっただろうに」
「クリスは黙ってて! そもそもウチは苦戦なんかしてないし!」
「はいはい」
「ぐぬぬぬ」
なんか戦闘中にも言い合いしてる。
案外余裕そうだった。
リンは空間に波紋が広がるのを確認した後、そこに向かって手を突き出した。
その波紋に手が当たるが構わず押し当てる様に突き出すと手首から先がなくなった。
「ルー! リンさんの手が無くなってる!! あれ大丈夫なの!?」
「あぁ、あれは空間魔術が付与された魔導具で別のところに繋げてるんだ。 手首の向こうはリン専用の剣が置いてある倉庫だよ」
「あの手首に着けてたブレスレットがそうなんだ・・・異空間に収納してるのか?」
「異空間なんてないよ? 私の城にリンの倉庫があるんだ。 そこに繋げてるのだけ」
「それじゃあ手首だけ転移してるって感じなのか」
「そうなるね」
何やらシュウタが興味深そうにじっとリンの魔導具を見ている。
ああでもないこうでもないとつぶやきながら考え事に没頭していた。
シュウタを観察していたらリンの方が取り出した剣で応戦しており、そろそろ決着がつきそうになっていた。
リンが取り出した剣は炎熱効果が付与された魔剣だ。
地竜の攻撃は氷魔術を使うので相性のいいものを選んだようだ。
強度も量産品とは比べ物にならないほど高いので地竜程度なら易々と切り裂けるだろう。
「せいっ!」
リンの掛け声とともに地竜の前右足が切断され、積もった雪を紅に染めた。
「ギャアアアア!!!!」
地竜はバランスが取れずそのまま転倒し、もがいている。
リンはとどめをさすために地竜の真上に跳びあがった。
「はい、これで終わり!」
魔剣が炎を纏い、落下する力をそのまま使って地竜の胴体に一気に振り下ろした。
地竜は何の抵抗もできずに胴体が真っ二つになり、そのまま動かなくなった。
「ほい、一丁上がり~」
リンが魔剣を空間魔術で仕舞いながら余裕の表情でこちらに戻ってくる。
「お疲れ様」
私が声をかけた瞬間、後ろで地竜がピクリと動いた!
最後の力を振りしぼって氷塊を創りだし、リン目掛けて飛ばしてきた!
「リン! 後ろ!」
私が叫んだ瞬間リンは振り返り、仕舞った剣を瞬時に取り出して氷塊を切り裂こうとした。
そのとき、リンの横を何かが通り過ぎて氷塊に衝突、爆散した。
次の攻撃に備えて構えたが、攻撃を放った地竜は今度こそ完全に死んでいた。
飛んできた方向に振り返ってみれば、クリスが手を突き出した体勢で立っていた。
飛んでいったものの正体はクリスが放った攻撃魔術だったらしい。
「ほらねリン、やっぱり私が助けることになったじゃない」
「別に助けてなんて言ってないし! なにもしなくても迎撃は間に合ってたもん!」
「まあまあ二人とも、ケガがなかったんだからいいじゃない」
「マジか。 なんだこれ・・・。 リンさんの剣術も大概おかしかったけどクリスティーナさんの魔術発動スピードも大概だわ。 これがこの世界のトップレベルか・・・」
一人なんか言ってるけどこれでひとまず一件落着かな?
その後、私は討伐隊の隊長に事後処理を任せ、リン、クリス、シュウタを連れてお昼ご飯を食べたお店に戻ってきていた。
「体冷えちゃったし、あったかい飲み物でも飲んで休もっか」
「僕は遠慮しとくよ。 なにやらされるかわからないし」
「今回はほんとになにもないから。 普通に奢ってあげるよ」
「それならまぁ頂こうかな」
「にしてもなんで地竜種があんなとこにいたんでしょう?」
クリスが疑問を投げかけた。
「確かに変だったね。 地竜がわざわざあんなとこを住処にする理由がないし」
「誰かがあそこに地竜を持ってきたとか?」
「リンはバカなんだからなにも言わなくてもいい」
「なんだとこら」
「なんというテンプレ展開なんだ」
そんな話をしているとほどなくして店員が来た。
各自が思い思いの注文をしていく。
「ウチはラッテがいいな。 甘くしてね」
「では私はジーダリンの紅茶をストレートで」
「私はホットミルクにするよ」
「ぶっは!!!」
私が注文した瞬間シュウタが盛大に笑いやがった。
「・・・なにがそんなにおかしい」
「だってホットミルクって!! 子どもか!!! いくつなんだよ」
「400は超えてるが? 文句ありますかそうですか。 ・・・・・沈め」
シュウタは私に鳩尾を殴られて机に突っ伏して気を失った。
完全に引いている店員を華麗にスルーして、何事もなかったかの様にティータイムと洒落込む私たちであった。
ようやく魔王様の一日の予定が終了しました!
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