17 勇者の剣
今回は少し長めです。
若干タイトルが変わりました。
今後ともよろしくお願いいたします!
昨日『解放の勇者』アぺルドに告げた通り、私は『ライラ平原』に来ている。
アぺルドもしっかりと時刻通りに現れた。
そしてシュウタが審判をする人物を連れてきたのだが・・・。
「なんでよりにもよっておやじなんだ・・・」
「だぁぁっはっはっは!!! なんでだろうなっ!!」
そう、私とアぺルドが鉢合わせした場所で一部始終を見ていたあのおやじだった。
店はいいのだろうか。
「そもそもシュウタはおやじと面識があったのか?」
「僕がおっちゃんのお店の前を通ると、いつも何かくれるんだ。 なんでかわかんないけど仲良くしてもらってる。 僕この街、っていうかこの世界に知り合いなんてほとんどいないし」
「それで声かけてくれたってか! おっちゃんはうれしいぜぇシュウ坊!! 」
「でも公正な審判なんてできるのか? カトレアの住民なんだし、アぺルドにとっては納得いかないんじゃないか?」
まあ昨日いきなり決闘することを決めたのだからこの街の住民になってしまうのはしょうがない気もするが。
アぺルドにも一応聞いたほうがいいだろう。
「オレは一向に構わない。 あの店の店主であろう? むしろオレも懇意にしていた店だからと私に有利な審判はしないでくれよ?」
「おう! ちゃんと公正に判断してやるよっ!」
「問題はなさそうだな。 それじゃ始めるか」
「絶対に倒す!」
アぺルドは気合十分なようだ。
対して私は全くやる気はない。
すでに頭の中は決闘後にやらないといけない事務仕事などを考えている。
そんなに余裕ぶってていいのかと思うだろうが、実際アぺルドの実力はある程度測れる。
なにせ、アぺルドの保有魔力量がリンの半分程度しかないからだ。
すべてが魔力量だけで決まる分けではないが、それでもある程度は保有していないと私やリン、クリスに勝つことはできないだろう。
そういった意味で、アぺルドの実力はそんなに高くはないだろうと判断している。
まあ問題はアぺルドが『解放』の勇者だということだろう。
自分の魔力保有量を『解放』とかしたら総魔力量が私以上クリス未満とかにはなりそうだし。
人族だからそんなことしたら10分もかからずに身体が崩壊し始めると思うけどね。
でも一時的にでも私を上回るんだから危険といえば危険だ。
私がいろいろ考えていると、アぺルドが腰に差してあった剣を抜き、構えた。
私も部分転移魔導具『リンクレット』を使い、剣を取り出し構える。
「行くぞ!!」
アぺルドはそう叫び、私に真っすぐ突っ込んで、切りかかってくる。
私はそれを軽くいなしながら剣で受け流す。
うん、この前のオーク討伐戦でだいぶ剣の扱いがうまくなった気がする。
それにしてもやっぱりどこかで見たことあるんだよなあの剣。
するとおやじも気になったのか、念話の魔術で私に問いかけてきた。
『おい魔王っ子、勇者が持ってる剣なんだがどっかで見覚えあんだけどよ。 有名な魔剣かなんかか?』
私、今決闘中なんだが・・・。
『私も気になってるんだかイマイチ思い出せないんだ』
『剣のことならレオンハート大将が詳しいんじゃねえのか? なんで聞いとかなかったんだよ』
『今リンは北の山脈に大量発生した魔物討伐に行ってていないんだよ。 ちなみにクリスもな』
『ハルトマン大将もか。 ん? 北の山脈・・・魔物・・・・・・思い出したぜ!』
私はアぺルドとの激しい接近戦を繰り広げながら、おやじと念話で会話を続ける。
結構面倒くさい。
『子供の絵本に登場するヤツだ! 大昔、北の山脈に強力な魔力溜まりがあってそれを封印してるってのがあの魔剣、『魔力喰い』だっ!!』
『っ! そうそれだ!! 確か頂上付近に妙な溜まり場があったから私があの魔剣を刺しといたんだった!!』
『はぁ!!?? 魔王っ子が刺しただって!? 俺が子供の時からある絵本だぞ』
『そりゃそうだ。 なんていったって250年前くらいだからな。 だが絵本になってるとは知らなかった・・・』
自分が主人公になっている本があったなんて!
どんな風に描かれているか、ものすごく気になる。
もしかしたら他の出来事も絵本とかになっているかもしれないな。
今度、本屋に行って買ってみよう。
「ふん! オレの攻撃を受けるのに精一杯のようだな!! 魔王といってもこの程度か!!」
おやじと念話で盛り上がっていたのでアぺルドの相手が雑になっていたらしい。
連撃の切れ目にタイミングを合わせて後方に跳び、アぺルドから距離を取ったらそんなことを言ってきた。
攻撃を食らわないように受け身になっていたのをアぺルドは勘違いして、私が防戦一方になっていると思ったらしい。
「アぺルド殿の力量がどの程度なのか見ていただけさ」
「はっ! 負け惜しみだな! 今降参するなら大ケガせずに済むぞ」
「ご心配なく。 それよりアぺルド殿の持っているその魔剣、『魔力喰い』をどこで手に入れた? それは北の山脈にあったはずだが」
そんなことよりも、今重要なのはアぺルドが持っている魔剣のことである。
アぺルド自身が北の山脈から持ってきたのか、それとも『誰か』がアぺルドに渡したのか。
黒幕がいるのかどうか確認するために、私はアぺルドに質問をした。
「ほう、この剣は魔力喰いというのか。 オレが北の山脈で武者修行をしているときに見つけて以来、ずっと使っている相棒だ。 あんな辺鄙なところに刺さっていたということはお前にとって何か不都合があるのだな? やはり持ってきて正解だったらしいな!!」
「正解なわけあるか!! あそこは魔力溜まりがあるからその剣で封印してたんだ!! 通りで最近北の山脈に魔物が多いわけだ。 あんたがその剣引っこ抜いたおかげで魔物がわんさか発生してんだよ!!!」
北の山脈の事件はこいつが黒幕、というか犯人か!!
まぁ原因の可能性として、山脈に魔力溜まりがあること自体を忘れていた私にも責任はあるとは思うがしかし、なぜわざわざ北の山脈の、しかも頂上付近で武者修行なんてしてるんだよ!!
くそぅ文句を言っててもどうしようもない。
なんとかしよう。
「なに? 魔物が大量発生だと!? ならお前を倒した後で討伐しに行かなければな。 さっさと決着をつけるために奥の手を使わせてもらうぞ!!」
奥の手?
この勇者、まだ何か力を隠しているのか?
そんなようには見えないのだが・・・
それか勇者自身の力ではなく、武器とかアイテムとかそういうものを使うのか?
・・・あっ。
「まさか魔力喰いを『解放』するつもりか!!?!?」
「その通りだ!! この魔剣を見たときから相当な魔力を帯びていたからな。 それを『解放』し、 我が力とする!!」
「ちょっ!! やめろバカ!!」
『魔力喰い』は魔力を喰らい、刀身に溜め込む性質を持つ魔剣だ。
その溜め込んだ力を使うことによって一時的に強力な力を扱えるようになる。
だが250年もの間、魔力を喰い続けていた前例がないため、どうなるか予測できない。
下手に扱うとこの辺一帯が吹き飛ぶ可能性だってあるのだ。
「すまないがその剣は回収させてもらう」
私は剣を取り上げるため、アペルドでは認識できないほどのスピードで急接近する。
その勢いのまま、アペルドの意識を刈り取るつもりで懐から顎に向かって拳を突き上げる。
が、一応は勇者であるアぺルドは私を視認できていないのに危険を察知して上体を反らし、ぎりぎりで私の攻撃を躱す。
だが無理に避けたため体制を崩した。
私はそのスキを逃さず、続け様に攻撃を放つ。
「ぐうぅっ!!」
私の攻撃は当たったが意外に防御力があったのか意識を刈り取るまでには至らなかった。
何とか持ちこたえたアペルドは再度、魔剣の解放を試みる。
「魔剣魔力喰いよ! 我に力を解ほっ!!!?!?」
「でりゃっ!!!」
アペルドが魔剣に意識を集中したところで、私は単発の速射魔力弾をアペルドの手元に向かって放った。
そして魔剣を吹き飛ばして解放を阻止することになんとか成功した。
だが中途半端に解放が進んでいたために飛んでいきながら内包した魔力が膨れ上がる。
「くっ!!! マズい!!」
魔剣が地面に刺さると同時に、空に向かって一条の光が解き放たれる。
その光の正体は高濃度に圧縮された魔力である。
上空で魔力が広がり、巨大な魔術陣が形成されていく。
「あれはまさか召喚術陣か!?」
あれほどのサイズ、魔物がどれだけ出てくるかわからないぞ!?
力を解放してしまった張本人、アペルドはというと、その様子を唖然と見つめていた。
魔王を倒し、世界のみんなを救うはずが、逆に魔物を呼び寄せ、このままだと街が滅ぶかもしれない。
自分一人ではどうにもならない事態になってしまい、絶望しているのである。
今のアペルドは自分の無力さを実感しているだろう。
召喚術陣から魔物が出現し始めている。
現状だけで1000体は出現しているだろう。
それでもいまだに増えているのだから数を数えるのも難しい。
「くそ! あんなのが街に行ったら一瞬で滅ぶぞ! おいアペルド! 呆けてないであれをなんとかするから手伝え!!」
「はっ! あれをなんとかできるのか!? よっよし、魔王を手伝うというのは気が引けるが今はそんなことを言っている場合じゃないからな。 手を貸そう!」
「おう! オレも手伝うぜぇ魔王っ子!!」
「助かる!」
アペルドとおやじが協力してくれるなら何とかなりそうだ!
「私が対戦場魔術で上空のあの辺一帯を吹き飛ばす!! 魔術陣の構築に少し時間がかかるからその間にこっちに来る魔物の迎撃を頼む!! アペルドには私の使ってた剣を貸す! おやじにはウチの軍に持たせてる剣をありったけ出してやる!! シュウタはとりあえずその辺にいろ!!!」
私は指示を出すと同時に、アペルドには私が持っていた剣を、おやじには部分転移魔導具『リンクレット』から一般兵に持たせる用の剣を約5000本、転移ゲートを最大にして落とすように取り出す。
「腕は鈍ってないか? 『投擲の勇者』ヴェルフェン君?」
「任せときな!! 伊達にいつも魔王っ子に食材投げつけてねぇよ!! っていうか『君』はよしてくれよ、もうそんな歳じゃねぇし!」
そう、おやじは40年前に私に喧嘩を売ってきた『投擲の勇者』なのだ。
練習のためにいつも何か投げつけてきたのかよ。
「ええぇぇ!!?!? おっちゃんが『勇者』だって!?」
「おうシュウ坊、驚いただろ? まぁそういうこった!! これからもよろしくなっ!!」
さて、なにやら後ろが騒がしいが魔物狩りを始めるとするか。
八百屋のおっちゃんの名前が出てきましたね。
ルフィナが「珍事件を嫁にバラすぞ」と脅してたのは、おっちゃんが勇者時代にやらかした事件の数々のことです。
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