14 緩やかな時間、 温かい場所、心躍る空間
ほんわかして頂けたら幸いです。
「それにしても、シュウタには勿体無いほどすごい能力だよね」
クリスを驚かせるため私、リン、シュウタが歩いているとき、リンがそんなことを言った。
「確かに。 魔力がないからそのへんの子どもにも負ける戦闘力ってのがまた残念感がプラスされるな」
「二人ともひどくない? ていうか僕、魔力ないのか・・・。 魔法、一度でいいから使いたかった・・」
「魔法じゃなくて『魔術』ね。 世界を創造した神々か、神の系譜である『神族』にしか継承されてない世界の理に作用する力、それが魔法なんだ」
私はいい機会なのでシュウタに魔術について説明する。
私たちが使っている魔術、例えば炎の魔術を使ったとき、傍から見ると何もないところから炎が発生したように見えるが、実際は自分がコントロールできる力、「魔力」を空気中に散布し、酸素と混合、空気との摩擦で静電気を発生させて発火させるというプロセスを辿って始めて炎が出せるのだ。
そして、そういった発動プロセスをマニュアル化したものが『魔術式』(通称魔術)である。
魔術式には2種類あり、『詠唱式』と『魔術陣式』に分かれる。
『詠唱式』とは『パワーワード』と呼ばれる、その単語だけで力を持つ言葉を組み合わせることにより魔術式を構築し、発動する事を可能にする方法。
『魔術陣式』は簡単に表現するならば『数式』である。
発動プロセスを図式(魔術陣)化し、組み合わせておき、魔力を流すだけで発動することのできる方法である。
そうしておくことで、正しい方法(公式)で扱えば誰でも同じ結果(解)が出せるという訳である。
もちろん、高等魔術、高威力、高範囲にしようとすると陣も大きくなる。
「でも、ルーが魔術を使うときは詠唱も魔術陣も使ってないよね? なんで発動できるの?」
「おお~そこに気付くとは、意外とちゃんと見てるじゃないか。 私が使ってるのは分類的には詠唱式だよ。 詠唱してないだけで」
「無詠唱で発動できるものなの? さっきの説明だと『パワーワード』を唱えないと発動プロセスを辿れないんじゃ・・・」
「そこまで理解できているんなら正解まであとちょっとだな」
「う~ん・・・ワード、陣、プロセス・・・あ! もしかしてプロセスを完璧に理解してれば詠唱や魔術陣を使わなくても発動できるとか?」
「正解~。 もちろん物理法則や魔力コントロール、細かな計算等々やること一杯だから詠唱とか魔術陣使ったほうが断然ラクなんだけどね」
じゃあなんで無詠唱で発動させているかって?
それはもちろん・・・
カッコイイからさ!!!!
とまあ冗談はさておき、本当のところは正確に発動イメージができていれば、魔力コントロールと魔力量で強引に発動まで持っていけてしまうのだ。
魔力量が規格外に多いからこそできる、力技というのが現実であった。
「さて、そろそろクリスのところに着くから作戦会議と行こう」
「作戦会議?」
一通り魔術に関する説明を終え、私たちはクリスを驚かせるために作戦を練ることにする。
「クリスを驚かせるんだから生半可なことじゃ無理だよ。 ウチにいい考えがある!」
どうやらリンにはなにか作戦があるみたいだった。
まずリンが歩いているクリスに廊下の角で出くわし、普通に声をかける。
そして話している間に私が背後に回り込み(このとき、気配を達人なら気付く程度に抑えておく)、クリスを驚かせようとする。
そしてクリスが私に気付いてリンに背を向けたところで、廊下の角に潜んでいたシュウタが近づき、クリスにワッと言いながら肩を叩く、というものだった。
要するに二段構えの陽動作戦のようだ。
「なかなかいいじゃないか。 よし、その作戦で行こう」
「ふっふっふ。 クリスにはいつもバカにされてるけど今度はウチがクリスをバカにする番だ!!」
「僕は驚いたクリスティーナさんに殺されないかが心配だ・・・」
そんな感じで、私たちはクリスの元へと向かっていく。
廊下の角で三人の影がコソコソと何やら動いている。
「よし、クリスが来た! みんな準備はいいか?」
「「おお~」」
私、リン、シュウタは取り決めた作戦通り、配置に着く。
そして廊下の向こうから、なにも知らないクリスがこちらへと歩いてくる。
私はワクワクしていた。
魔王になってからというもの、なかなかリンやクリスと遊ぶ機会がなく、忙しい毎日を過ごしていたのだ。
世界の管理に余裕が出ても、ほかの仕事を片付けたり、休息の時間に当ててしまっていたので、こういった、立場が関係なく遊ぶということが久しぶりでとても楽しかった。
シュウタが現れてから楽しい時間が増えた気がする。
それはとてもいいことで、私自身、前よりも生き生きとした生活を送っていると思う。
まあシュウタの教育という仕事も増えたんだけどね。
「それじゃあ作戦開始!!」
私の掛け声と共にGOサインを確認して、リンが動きだす。
まずはリンがクリスにたまたま遭遇したという体で注意を逸らす。
「やあクリス、こんなとことでキグウだね!」
「? 珍しいわね、リンがこんなところにいるなんて」
若干ぎこちなくカタコトになってしまい、クリスが顔をしかめるが、特に気に留めずに会話が始まった。
その間に私は空いていた窓から廊下に音もなく侵入し、クリスの背後に忍び寄る。
もちろん気配をほんの少しだけ漂わせるのも忘れない。
「クリスは最近調子はどうかな?」
「なによ藪から棒に。 まあ悪くは・・・(!?この気配は・・・ふむ)ちょっと悪いかな。 最近肩が凝ってね、まあ私『胸が大きい』から仕方ないんだけどね」
(!?)
私はついクリスの発言に動揺してしまい、抑えていた気配が大きく揺らめいてしまった。
動揺すると同時に、クリスに引っ掛けられたのだと気付き、軽くヘコむ。
「ダメですよルフィナ様、この程度のことで心を乱しては。 胸なんて大きくてもいいことなんてないんですから」
「それはウチに喧嘩を売ってると思っていいよね?」
「私にもだ」
私は作戦通り(?)クリスの注意を引きつけながらリンと一緒にワイワイと騒ぐ。
とそのとき、シュウタがそろりと廊下の角から出てきた。
私はシュウタに目配せしながらクリスとの会話を続ける。
「わっ!」
「ひゃあぁぁ!!?」
シュウタが声をかけると同時にクリスの肩を軽くポンと叩いた。
その瞬間、クリスが今まで聞いたことのないほどとても可愛い声で悲鳴をあげ、その場にヘタリ込んでしまった。
いつもクールに、凛としているあのクリスが、だ。
クリスのこんな姿、始めて見ると思う。
「は?」
「え? 今のクリスの声・・・だよね? めちゃくちゃ可愛い声だったけど」
リンも同じことを思ったらしくとても珍しい、というか始めてのことに、私にわざわざ確認するほどだった。
シュウタはクリスを叩いたときの状態で固まっていた。
「あのクールビューティーなクリスティーナさんが『ひゃあぁぁ!!』って・・・『ひゃあぁぁ!!』って・・・そのギャップがかわいい」
と、何やら言っていた。
そんなシュウタを、クリスは目の端に涙を溜め、顔を真っ赤にしながらキッと睨みつける。
シュウタはビクッと反応し、顔を一気に青褪めさせた。
「クリスティーナさん驚かせてすみませんでした! どうか命だけはお許しください!!」
そして勢いよく腰を曲げ、とても綺麗に謝罪をした。
だが、
「シュウタ、よくも、私にこんな・・・こんな! 屈辱だ。 この恨みはいつか必ず晴らす! 覚えておけ」
「そっそんな!?」
どうやら相当屈辱だったらしい。
あとで一応フォローしておこう。
「どうよクリス。 ウチの完璧な作戦は! まさか腰を抜かすほど驚くなんて、しかも『ひゃあぁぁ!!』なんて可愛いらしい声まであげちゃって!」
「私はそんな声なんて出してない。 それに腰も抜けてない。 ちゃんと立てるし」
「ふふん、私の気配もワザとクリスがギリギリ感知できるくらいにしていたんだ。 モッモチロン気配が揺らめいたのも作戦さ!」
「いいえ、たとえ最初はそうだったかもしれませんが、動揺して揺らめいたのは作戦ではなく私の発言によるものでした」
「僕、やっぱり死ぬのか・・・ でも最後にクリスティーナさんの可愛い一面が見れたし・・・」
「私にあまり背中を見せないほうがいいぞシュウタ」
「ひぃぃっ!!」
「あ! ようやく見つけましたよシュウタさん! ってあれ? みなさんお揃いでどうしたんですか?」
「ユリア助けて!! クリスティーナさんをなんとか鎮めて!!」
「え? えぇ??」
と、ユリアも混ざってみんなの温かい輪ができる。
こんなにも心が弾んだのは久しぶりだ。
クリスを驚かす作戦は大成功した。
また時間を見つけてみんなで遊ぼう、そう心に決めて私も温かい輪っかの中でのひとときを楽しむのであった。
仲のいい友人同士で他愛のない時間を過ごすというのはとても幸せだと思う今日この頃。
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