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伝説のジジイ

作者: 鐚靉騎鸕鰖

「じい様、今日もたくさん依頼が来てますよ」


 若い男が暖炉の前で動かない年老いた爺に話しかける。爺はじっと座ったまんまで眠たそうにしていた。


「よっこらせと。今日はどんな仕事をするかのぉ、どれどれ見せてみなさい。サムよ」


 爺は重い腰を上げるとサムと呼ばれた男から手紙を貰い、となりにあるテーブルに腰掛けた。今年で150歳になる爺は老眼でサムから眼鏡を受け取り目を細くしながら依頼書の束に目を通した。


「ふむふむ、最近の流行りは村人モノかのぉ。村人の能力を上げてたらいつの間にか最強になったとかが定番じゃな。それに転生したら神になって《都市しみれーしおん》とやらをしたり、クラス丸ごと異世界転移して俺だけ世界の設定知ってて最強も多いのぉ。転生者もこれだけやりたいことがあると大変じゃのぉ」


「じい様、村人の件は転生者ではなく、あくまで地元住民であって異世界転生ではないんじゃないですか? あと都市シミュレーションです」


「ぐぬ、若者の言葉はさっぱりじゃ。確かにその村人は地元住民じゃが、異世界の方からサクシャなるものが操っているのじゃよ。そのサクシャはその村人に自己を投影して己の欲望をこの世界で発散したりするのじゃ。我々の目的はサクシャなる者たちによるこの世界の無辜の民への危害を止める事だから、村人が原住民でも止めねばならないのじゃ。悲しいことじゃな」


 サムは爺が悲しんでいる反面、使命に燃えていることに気がつき提言した。


「じい様はもう年だからあまり無理せずとも……」


「おや、お主は神(転生者)を舎弟にしたことのあるじいの腕が鈍ったとでも言うのかの?」


「いえ、そんなことは……」


 サムが言葉に詰まっていると、爺は上に一枚着て小屋の外に出た。


「行くぞい。引き受ける依頼は決まったわい」


 サムは爺に置いて行かれないように後を追った。爺は山の頂上にある小屋の前の庭でまだ霧ががったどこか神秘的な景色を眺めていた。


「で、どこなんです? 今回の場所は?」


 爺は左手でついて来なさいと合図をして、庭から走る山を下る3つの道の中から真ん中の道を選んだ。


「ムノー王国じゃ」


 その後彼らは音速に等しい速さで霧の深い山道を疾走し、その姿は一瞬で頂上の小屋からは見えなくなった。


説明しよう。ムノー王国とはムノー1世が女王として建国した国だが、女王が国中のイケメン(ちょいイケメンから癖のあるイケメンまで)を集めるハーレム計画を実行しようとして農村の労働力が不足し、大飢饉が発生し、退位させられた。続く2代目ムノー2世も隣国のアホー帝国との戦争に明け暮れ、国庫を空にし、国民を疲弊させた状態で魔王軍進軍に全く対処しきれずクーデターが起こり退位させられた。現在の3代目ムノー3世は大臣達の傀儡と成っており、この危機的状況を打破すべく安易な勇者召喚に頼ってしまった。(別によばなくていいよ)


「ここが、ムノー王国の国境付近じゃな」


 爺がそう言って立ち止まると目の前には深い緑色の葉をつけた木が生い茂る森林地帯が広がっていた。


「今回の依頼内容は何なんですか? じい様」


「ふむ、依頼主はゴブリンでひっそりと森の奥の洞窟で暮らしていたら転生者一行が襲って来たようじゃな。依頼主とその娘は洞窟の奥にある秘密の道を使って、周りのゴブリン達が時間稼ぎをしている間にコッソリと脱出したようじゃが、残ったゴブリン達は一族もろとも皆殺しにされたそうじゃ。南無阿弥陀仏」


「うわー、エゲツないですねー」


 サムは今度は別の質問を投げかけた。


「仲介者からの転生者の情報はどうなっているんですか?」


 爺は懐にしまっておいた依頼書を取り出し、老眼鏡を掛けてふむふむと読み始めた。


「今回の転生者は学園モノ転生者じゃな。王国に召喚されてから再度魔王軍が侵攻してくるまで、敵に戦力分析されないように力を隠しながら学園に潜伏し、能力をコントロールする訓練をしているらしいのぉ。一方、恋愛面では一部の仲良くなった女子達を侍らせて、力があるのにないフリをしてる転生者様カッコいい! って思わせているらしいのぉ。金髪美少女に、ハーフエルフに、学園のマドンナに……まったく! 裏山けしからん!」


 最後、転生者の詳細じゃなくてじい様の感想だよ……とサムはツッコミたくなったが、心の内に留めておいた。


「ところでじい様、転生者はどこに?」


「ここらで良く課外活動と称して狩りを行っているらしいのじゃが……あ、いた。」


 この行き当たりバッタリ感である。サムはまたしてもツッコミたくなったが止めておいた。


 爺が目を向けた先には確かに転生者らしき少年の姿が見えた。それに爺の話していた美少女も3人確認できた。爺はすでに彼らのもとに突撃していったようだ。もう、じい様は気が早いんだから。


「おい、そこの小僧! お前じゃお前! 茶髪のロン毛で人生いーじーもーどだぜぇって顔してるお前じゃ! こんな別嬪どもを侍らせておって! う、うぅ、ワシもそこの金髪美少女の体をペロペロしたいのじゃ〜。したいのじゃ〜。髪の毛一本もないんだから美少女一人くらい欲しいのじゃ〜。うぁあ〜ん!」


 あっ! じい様のリア充に見せつけられると幼児退行する持病がっ! はぁ、早く止めないと。サムは急いでオモチャを買ってと母親にねだる子供のような爺のもとに駆けつけた。


 着くと転生者一行は突然現れたこの不審者変態じじいに驚愕していた状態から、どうしたらいいのか分からないといった困惑した表情になっていた。また、学園のマドンナは嫌悪感丸出しで気持ち悪っとボソッと口にしていた。


「じい様、いけません。地面に寝転がってゴネるのは!」


「だ、だってのぉ……」


 爺がブツブツ言いながら立ち上がると同時に転生者の少年はサムに尋ねてきた。


「あなたはこちらのご老人の付き添いの方ですか? 僕に何か御用があったみたいですが」


 まだ少年だというのにこの状況でかなり落ち着いた対応をしている。クール系って奴なのかな。実際、少年に庇護欲を掻き立てるように後ろでしがみついている少女達に、少年がカッコよく、大丈夫さっ、とウインクしてそれに対して少女達がキャッ、勇者さま……と頰を紅くするこのやり取りは、サムでもイラっときた。


「はい、まず先程の爺の失礼な態度は申し訳ございません」


 サムは何故自分がこれから倒す転生者一行に自分が謝らなければならないのか疑問に思ったが、非礼は詫びるのが基本だと考えていたので仕方なく謝った。一方、元凶の爺は知らん顔して鼻歌を歌っているが……


「それで用って?」


 だんだん痺れを切らしたのか転生者の発言から敬語が抜ける。


「依頼によってあなた方を討伐しに参りました」


 サムの言葉を聞くと同時に、少女達が前に出て臨時態勢の構えをとった。転生者は少し驚いたような顔をして質問した。


「それはどうしてかな?」


「この森の洞窟でゴブリン達を殺したからです」


「ウケる〜」


「馬鹿げてます」


「失笑ですわ」


 少女達から笑いが起こった。それから転生者は笑いを堪えながらふたたび疑問を投げかけた。


「ゴブリンなんて野蛮なモンスターを殺してなにが悪いんだ?」


 サムはこれを聞いて、いつまでこんなくだらない問答をしなければならないのかと思ったが、それでも話さなければならないと考えた。


「その洞窟のゴブリン達は人間に危害を加えず平和に暮らして、」


「でも、それは!」


 転生者が話を遮った。


「それは?」


「それは、他のたくさんのゴブリン達は人間を襲ってるんだから、そいつらも襲って来る可能性があるじゃないか!」


 サムは怒りたくなってきたが、我慢した。


「他のゴブリン達が人間を襲うからといってそのゴブリン達が人間を襲う明確な根拠になるんですか? 実際、ここら一帯は豊かな森林地帯で人間の暮らす市街地からはかけ離れています。恐らく彼らはずっと洞窟の近くで食べ物を調達して生きていけたでしょう。私には仲の良いゴブリンの友人がいますが、彼は決して山から降りて人間と闘うようなことはせず、自然の恵みを愛しひっそりと暮らす心優しいゴブリンです」


 サムは畳み掛ける。


「さらに、先程あなたが仰ったように、ゴブリンを野蛮と断じて対話も試みようとせず容赦無く惨殺する偏見と独断に囚われている、あなた達の方がずっと野蛮ではないでしょうか」


「うっ……」


 転生者が真っ赤な顔で何かを言おうとするが、サムは話を続ける。


「そのゴブリン達にだって家族がいたんですよ。子は親を慕い、兄弟は育み合う。ゴブリンも同じなんですよ。それをあなた方は踏みにじった。じい様、依頼者は何て依頼書に書いていますか?」


 サムが爺を見ると先程までのフザケっぷりは見事に吹き飛んで真剣な面持ちになっていた。


「娘が度々お父さんやお兄ちゃんのところには帰れないの? と聞いてきます。まだ世の中のことを良く分かっていない幼子ですから、私どう答えたらよいのか何時も心が痛みます。このままでは娘を残して先に死んでも死に切れません。どうか、この願い果たしてもらえないでしょうか、と書いてあったのぉ」


「うっ、うるさあああああああああい!」


 とうとう転生者が叫びだした。


「ゴブリンなんて家族があろうが無かろうがゴミなんだよ! そんなの関係ねぇ! むしろ世界を救うこの最強で賢くてカッコいい俺様の力の糧となれるんだったら、本望だろぉおおおおがああ!」


 サムと爺は溜息をつく。


「あの小僧、狂ったぞい」


「クズですね。死ねばいい。そのゴブリン達の命はお前のくだらない思想のために捨てていいものじゃなかった」


 そう二人が話している間にもこの狂った転生者は叫びつづけていた。


「おい、お前たちあいつらを殺しちまえ! どうせ倒そうとあっちからやって来たんだ! 正当防衛、正当防衛!」


 その指示に戸惑いながらも三人の少女達が動き始めた。


「完全に悪党のセリフですね。あれ」


「お前は少女たちの方を頼むぞ」


「了解です」


 すると、不思議なことに爺は少女達が気づかぬうちに通り越して、狂った転生者と向き合っていた。


「なっ」


 転生者一行から驚愕の声が漏れ、少女達が爺を止めようと後ろを振り向くがそこには超人的な跳躍力を駆使して少女たちの上を飛び越えたサムの姿があった。


「悪いようですが君達の相手は僕です。」


ー戦闘開始数分後ー


「ひょっほーい」


 爺が森の木の枝を駆使して辺り一面を身軽に飛び回り、転生者を混乱させていた。


「ちぃ! ちょこまかとぉ! 最上級火魔法イフリートスプラッシュ!」


 転生者の手のひらの中から炎の化身をかたどった魔法が飛び出す。それが爺の前に立ちふさがり、炎の剣を振りかざしたが、


「ぬるいわぁああああ!」


「なんだアイツ! イフリートを突き抜けてきやがった!」


 そして、爺が転生者の前まで突撃して来たので、転生者は転生特典の速攻防御魔法を体の前に展開するが、


「薄いわぁあああああ!」


 爺の一撃は防御シールドを突き破り転生者の腹に直撃した。


「ぐっはぁ!」


 転生者はそのまま勢い良く後ろに吹っ飛び10本くらいの木々をなぎ倒しやっと静止した。転生者には理解できなかった。これまでの敵は苦労もなく楽勝に倒せたのに、今、自分の魔法が全て体術で打ち砕かれた。爺が近づいて来る。


「ひっ、ひっいい! く、来るな!」


 彼は片手で腹部を押さえ、倒れた状態で後ずさりした。

 何か考えなくては、何か……

 そうだっ。彼は取って置きの武器があることに気づいた。そして魔法袋から取り出したのは転生者特典で獲得したもので、


「アイス王の剣! 英雄時代に実際に魔王の一体を滅ぼすのに使われた神器だ! ハッハッハ! 残念だったな、クソジジイ。あと一歩のところだったのに。ハッハッハ!」


 対して爺は、


「ふん! 小賢しいわ!」


 ありえない速度で転生者に向かって飛んでくる。転生者はとっさに後ろに下がって、


「ぬおおおおおおお!」


 雄叫びを上げながら飛んでくる爺のパンチがあと50cmほどになるタイミングで、


「バーカ! 終わりだ。ヒャッハハハハッハハ!」


 転生者がそう宣言すると同時に彼が吹っ飛ばされて倒れていた所に、仕掛けておいた暗黒魔法ブラックホールが発動した。突如、爺は自分の足元から吸い込まれるような感覚が襲ったが、


「だから小賢しいんじゃ。クソガキィイ!」


 爺は一瞬でかかと落としでブラックホールを消しとばした。あり得ないといった表情をして驚いている転生者に爺は究極の一撃をぶち込んだ。


「じじいパァンチ!」


説明しよう。じじいパンチとは、ただの溜め攻撃です。

 彼の顔面にパンチが当たり、その衝撃で無残にも吹っ飛び、その先にある山も吹っ飛んだ。


 爺が転生者一行との遭遇場所にもどると、火魔法による山火事の消火活動はサムによって済まされていたようで、サムは木に気絶した少女三人を縛り上げて待っていた。


「お疲れ様です。じい様」


 彼のもとに行くと、サムは爺の功労を労った。


「お前も御苦労じゃった。消火までしてくれたんだからのぉ。さて、この少女達はこのまま放置してさっさと家に帰るかのぉ。ちと腰が痛くなってきたわい」


「はい、じい様」


 その後、彼らは夕日の出る地平線の彼方に走り去って行った。


作者談(おまけ)

これ、今日の朝3時に寝れないときに思いつきで書き始めたので、最後しんどかったです。

良かったら作者の他の作品も見てくれたら嬉しいです(切実

























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