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お・ひ・が・し

作者: 咲世子

お干菓子が甘く口に溶ける瞬間。それって、何より幸せでしょう。

私はすっかり疲れてしまいました。何といっても、一週間というものはあっという間ですが、疲れは溜まりに溜まって少しも消えないのです。殊に今日は、そうでした。


私は、毎木曜はお茶道のお稽古があります。それは学校の部活動といっても、本格的で立派なお稽古です。

さて、初めて3カ月にもなるでしょうか。私はちっとも上達しないので、周りの同学年の子たちの上達したお手前を、お下品にも身をのりだして、じっと見つめていました。

おふくさを畳む、さっ、さっ、パッ。お茶をたてる、かしゃ、かしゃ、シュッ。

けど、スカアトのひだを直して、さあ自分の番となると途端に頭が真っ白になってしまうのです。

この次は、はて、どうだったかしら。

かざし柄杓、つまみ、ひき柄杓......。

気がつけば私は、先生に手を添えていただきながら、いちばん時間を掛けて何とか

お手前を終わらせているのです。

例によって今日もうんと時間を掛けて、下手っぴな、とても人様にお披露目なんてできないお手前を

終わらせました。

私のたてたお茶はさぞ苦かったでしょう。だってちっとも泡がたたないんだもの。

けど、私のお相手をしてくださった裕子さんは、にっこりと笑ってみせて「大変結構でございます。」と

おっしゃるのです。私、不意に申し訳なくなって、きまり悪くって、とっさにお愛想笑いをしてしまいました。


がたんゴトン、がたんゴトン、電車に揺られて私はお家に帰りました。

なんとも、溶けきれずに、玉になってお椀の底に残ったお茶みたいに、私の心には色んな

もやもやが残って、すっかり元気をなくしてしまいました。

唯一、心の支えである誠二さんも、最近では私のことなぞ気にかけてくれません。


一体、何故でしょう。何かいけなかったのかしら。


あと4日もしないうちに私は16歳を迎えてしまいます。

ああ、あぁ。歳をとるって、なんだか怖いわ。昔は早く大人になりたいと願っていたのに。

ああ、どうか、少女のままでずっと、いられないものかしら。

いっそこのまま、どこか遠くへ行ってしまおうか。

そしたら私、今より素敵な何処かへ辿り着けるかしら。


いいえ、そんな気を起こしてはいけないのです。

ここが、ユートピア。人間、ある程度満たされている中で高望みなぞして

良いことなど決してないのです。そう決まっています。

少なくとも私は、そうでした。


窓越しに霞んでいく、雨降りの街は 今日もせわしく働いています。

私はその中の、小さなアワ


お噺が過ぎましたね。

ではさようなら、今度はきっとお手紙差し上げます。



読んでくださってありがとございます。

お茶道は実際に嗜んでおりますが、まだまだ初心者です。

思春期真っ只中、悩みごとは千も万もあります。

消えては生まれの繰り返し。

それをいつか懐かしく思い返せる日が来るなら

私たちの葛藤が無駄でなかったとわかるのでしょうか。


私には、まだわからないけれど。

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