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土系統の彼女

 家の外に出ると、小さな一軒家の周囲では、見覚えのある白金色の髪が揺れていた。


「ティアーナ」


 名前を呼ばれて彼女は振り返る。

 その姿を見て、スヴェンの肩に乗っかっていたチコリアは息を呑んだ。

 ティアーナは元々この家の横に小さく広がっていた、以前の住人が使っていたのであろう畑にしゃがみこんでいた。


「草むしり? そんなことしなくていいのに」

「どうして? 雑草も命だけど、他の力を奪ってしまうわ。残念だけど、ここは彼等が生きるべき領域ではないのに」


 畑を囲う柵の外には既に抜かれた雑草が山盛りになっている。随分と長い時間やっていたようだ。

 見ればその柵も修理され、入り口からではないと入れなくなっていた。スヴェンがこの家に来た時点ではもう壊れていて、それから一年近く放置されていたはずだった。


「君、何をするつもり?」

「花か、野菜でもいいわね」

「植えるの? 別にいいけど、いい土じゃないしなかなか育たないよ」

「それは昨日聞いたわ。だから治していくのよ。見たところこの辺りで大きな戦いがあったみたいね。でもこれは、百年以上前かしら?」


 土を掌に乗せて、ティアーナは目を閉じて何かを感じ取っていた。

 彼女の掌からは深緑の淡い光が放たれ、それは土に纏うと一緒になって地面へと落ちていく。


「……それ、魔法かい?」

「さあ」


 こともなげにティアーナは肩を竦める。


「魔法の定義にもよるわ。不可思議な現象を全て魔法と片付けるのならば、これも立派な魔法ね」

「成程ね。なら大半の人にとってはそれは魔法だけど、君にとっては違うね」

「ちょ、ちょっとちょっとちょっと!」


 スヴェンの肩を蹴るようにして飛び出したチコリアは、今度はティアーナの周囲をぶんぶんと飛び回る。


「い、今、貴方何をしたの!? 大地に活力が戻ってる!」

「いいえ。まだよ。わたしはほんの少し、きっかけを与えただけ。これから時間を掛けて再生するの」

「ううん、違うよ! 戻ってる。だってアタシには声が聞こえるもの。アンタに感謝してる。そして命を生み出そうとしてる!」


 チコリアは感極まったのか、泣いているかのような声を張り上げて、ティアーナの周りを飛んでいる。

 そして土を掬い上げる掌の上に着地すると、そこから彼女を顔を真っ直ぐに見つめた。


「アタシ判るよ。アンタは人間じゃないね。アンタの魂はもっと高いところにある」

「かも知れないわね」


 素っ気なく答えて、ティアーナは作業に戻って行く。

 チコリアは彼女の邪魔をしないようにゆっくりと飛びまわると、またスヴェンの前にまでやってきた。


「もう。アンタも人が悪いわね。解決してるんだったら最初に言ってよ!」

「僕も知らなかったよ。彼女にこんな力があるだなんて」

「こうしちゃいられないわ! 急いで仲間達に報告しないと。この辺りの大地が蘇るかも知れないって!」

「いや、それはまだ……」


 スヴェンの話など全く聞かずに、チコリアは飛び去っていく。

 その途中で彼女は一度だけ振り返り、「あ、クッキーは夕方ぐらいに取りに来るからねー

!」と叫んで山岳の方へと消えていった。


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