俺たちの戦いはこれからだ!
変態を捕まえた翌日、私たちは武田先輩に再び部室に呼び出された。
「今日は、昨日の反省会をやります」
昨日の反省会――そう、昨日は大変な一日だった。
露出狂を捕まえて、警察に引き渡した。たまたま出くわして、たまたま現行犯逮捕したっていうならまだわかる。しかしこの人たちは、わざわざ作戦たてて捕まえたのだ。まあ、私も参加してたけど。そしてはっきり言って何も役に立たなかったけど。
作戦事態はよくある囮作戦。まず、誰が囮をやるかでもめたなぁ……
※ ※ ※ ※
「はぁい! 麗、囮やりたい」
「馬鹿かお前。どこからどう見たらお前が幼女に見えるんだ」
「だってぇ、うちの女子の中で可愛い系っていったら、麗しかいないじゃない。紫は大和撫子美人系だし、玲ちゃんは小動物僕っ娘系だし」
「麗ちゃん先輩、人を勝手に僕っ娘にしないでください。僕なんて言ったことないじゃないですか」
「イメージよん、イ・メ・エ・ジ!」
「囮役ならもう決まっているわよ。出てきなさい」
武田先輩が、部屋のすみにある衝立に向かって声をかける。すると、そこから見たこともない美少女が現れた。
緩く内巻きになった茶色のショートボブ、同じく茶色の大きな目。小さくて華奢で、思わず庇護欲をそそられるめちゃくちゃ可愛い女の子。
「武田先輩、小等部からさらってきちゃったんですか!?」
「失礼ね、山田さん。私がそんなことする訳ないじゃない」
いえ、先輩だからやりかねないと思ったんですけどね。
「要よ。ドМ変態の、あの林要」
ずいぶんとひどい言い様だが、当の本人は頬を染めてうっとりしているからいいのか。本当に残念な中身だな、林君。
「ねえ山田ちゃん、女装する男子高校生、どう? 軽蔑する? 気持ち悪い?」
瞳をキラキラさせながら変な事を聞いてきた美少女を見て確信した。この変態発言は間違いなく林くんだ、と。
「完成度が高すぎて正直うらやましい。大丈夫、全く軽蔑もしないし、気持ち悪くもない」
林君の女装姿があまりにも完璧だったので思ったことをそのまま正直に言ったら、林君は泣きそうな顔で武田先輩を見た。
「そんな……! 紫様が女装したら間違いなく蔑まれるって言ったから……だから僕……」
絶望する林君に武田先輩が優しく微笑む。
「大丈夫よ、要。私は心底軽蔑しているわ。卑しく薄汚い豚野郎だと思っているから安心なさい」
「あぁ……さすが紫様です。今日だけで、緊縛に放置に言葉責め……最高です! 僕、一生ついていきます!!」
なんか変な世界が繰り広げられてたけど、誰一人止める人はいなかった。
※ ※ ※ ※
「反省会って、昨日は作戦通りうまくいったじゃないですか。人の流れが途切れたところを見計らって林くんを囮にして、変態を誘きだして犯行現場を風峯が写真撮って、麗ちゃん先輩が最後に捕まえる。うまくいきすぎなくらいじゃないですか」
私が首をかしげると、武田先輩がため息をついた。
「全然だめよ。だって、全員揃ったところで名乗りをあげられなかったじゃない。こんなんじゃ戦隊失格だわ」
え、何その決まり。
ってことは、もし次も何かあったら、その時は名乗らなきゃいけないってこと?
「……名乗らなきゃ、いけないんですか?」
「当たり前じゃない、戦隊の基本よ。本当はユニフォーム着て集合したら、『学園戦隊風林火山、見参!』って決めたかったのよ! それなのに今回は要がユニフォーム着てなかったし、名乗りはあげられなかったし……」
危なっ! よかった、それうやむやになって。相手が変態とはいえ、そんなことやりたくない。
「次は全員ユニフォーム着て、ちゃんと名乗ってもらうわよ」
武田先輩は私たちを指差し、悔しそうに言い放った。
「やだ、絶対いやです! みんなだっていやだよね?」
冗談じゃない。そんな恥ずかしいこと絶対やだ。私は助けを求めるように他の三人を見る。
「大丈夫よぉ、慣れれば平気だから。それに、私たち中等部の時からやってるしぃ」
「大丈夫、すぐ慣れる。それに、あれをやってから俺に絡んできた女共がいなくなってスッキリしたぞ」
「大丈夫。それにあれやるとね、女の子からのドン引きの視線、いっぱいもらえるんだよ」
「どこが大丈夫なんですか! 何も大丈夫じゃないですよ!」
武田学園入学八日目。
昨日はうっかり雰囲気に流されそうになったけど、やっぱり無理!
卒業まであと三年。
こんな自由人たちに負けてたまるか!
絶対ノーマルなままで卒業してやる!
――私の戦いはこれからだ!
変態ファイル その1
名前:小野 堕美弟
年齢:28
職業:会社員
性癖:露出性愛