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沈め! 山田インワンダーランド ★

※ 挿絵があります。苦手な方は挿絵機能OFFでお願いします。

 

「アタシたち演劇部は、今度の夏休みに地域の老人ホームで慰問公演をするんです。新入生にとっては初めての発表会。だから今、みんなすごーく一生懸命練習してて……その、熱が入ってちょっと帰りが遅めになっちゃう日もあって」


 人生に疲れた場末のスナックのママのような雰囲気を漂わせ、ヒゲ美さんは頬に手を当てながらため息をついた。


「なるべく集団で帰ったり、練習を早く切り上げたりはしてるんだけど……それでも帰り道で気持ち悪い視線を感じたり、部室からものが盗まれたり。ボクは平気なんですけど、他の子たちが怯えちゃって。このままじゃ練習に集中できないんです」


 ヒゲ美さんの言葉を白藤さんがくやしそうに継いだ。


「ひっどい! 紫、これは完全にうちの出番よね」


 憤慨する麗ちゃん先輩に紫先輩が力強くうなずく。


「ねえ、その変質者に狙われる子たちって、特徴はあるのかしら? たとえば小さい子とか、胸が大きい子とか」


 紫先輩の問いかけに、ヒゲ美さんは割れた青々しいアゴに手を当てながら首を傾げた。……ねえ、ほんとにこの人、女子高生?


「そぉねぇ……おとなしそうな子が狙われてる、かしら? だからたとえばアタシや薫なんかは対象外みたいで、一人のときは被害に遭ったことがないのよねぇ」

「ちょっと待って、ボクをヒゲ美なんかと一緒にしないでよ。そもそもヒゲ美はおとなしいおとなしくない以前の問題だろ。ちゃんと現実を見なよ」

「ちょっとぉ、薫ったらヒドイわぁ!! アタシの繊細な乙女心はズタズタよ!!!」

「そもそもヒゲ美にはズタズタになる乙女心なんてないだろ。お前にあるのは男心なんだから」


 あ、やっぱり。どう見ても女子高生には見えなかったんだよね、ヒゲ美さん。そっかぁ、そうだよなぁ。やっとすっきりした。しかしこの学校、ほんといろんな人がいるな……。


「まあまあ、薫ちゃん。男にだってね、乙女心はあると思うの。ほら、世の中には乙男(オトメン)とかいるじゃない」

「そうよ! アタシの心は九十九パーセントの乙女心と、一パーセントの漢心でできてるんだから!」


 麗ちゃん先輩の援護を得てヒゲ美さんが荒ぶる。乙男はなんか違うような気がするけど……なんて話が脱線しかけたところで、紫先輩が呆れたようにため息をついた。


「はいはい。乙女でも漢女でもいいけど、ひとまず話を元に戻すわよ。ねえ、被害に遭った子たちの中で、犯人の姿を見た人はいるのかしら?」


 紫先輩の質問に首を横に振る二人。どうやら今回の変質者は露出(ダイレクト)タイプじゃなくて覗き(ステルス)タイプらしい。


「そう。じゃあ、まずは聞き込みしましょうか。みんな、現場に行くわよ」


 こうして私たちは現場――演劇部――へとむかうことになった。



 ※ ※ ※ ※



 演劇部――扉を開けると、そこはワンダーランドでした。


 うん、不思議の国。


 だって、かわいい女子高生と女子(?)高生、そのどっちかしかいないんだよ、ここ! 中間とか中庸ってものはないのか。

 そっと背を向けた私は悪くない。グッバイ不思議の国――


「ちょっと玲ちゃん、どこ行くの。んもぅ、演劇部はこっちよ」


 縛られたままの林くんを引きずっていた麗ちゃん先輩に強制連行されました。こんにちは、ワンダーランド。どうも、不憫の国の山田ですちくしょう。


「初めまして、特殊奉仕活動部のみなさん。私は三年で部長の扶桑花(ぶっそうげ)。話はヒゲ美たちから聞いてるわ」


 出てきたのは女子(?)高生の方だった。きれいな小麦色に焼けた肌、ムキムキスキンヘッド、そして頭にはどうやって固定されているのか謎な赤いハイビスカスが一輪。

 正直見た目はアレだったけど、話しぶりからするとどうやら普通の人っぽい。


「残念ながらまだ同好会なんですけどね。私は部長で、二年の武田です。では扶桑花先輩、さっそくお話を聞かせていただいてもよろしいですか?」


 こうして普通の会話をしていると、なんか紫先輩まで普通の人に見えてきた。あれ? もしかして私、普通の基準がだんだんおかしくなってきて……る? いやいや、きっとこれは人の見た目に左右されなくなってるんだよ。きっと成長したんだ! そう思わせてくれ!!

 確認のため、麗ちゃん先輩の足下に転がっている林くんを見た。うん、これは変態。大丈夫、私の基準、おかしくなってない。…………たぶん。


「すでにヒゲ美たちから聞いてるとは思うけど、私からもいちおうお話しておくわね。まあ、復習だと思って聞いてちょうだい。あ――」


 ちょうどそばを通りかかった女子高生な方を捕まえたハイビスカス先輩。なんか「今日こそあの子、来てる?」とか聞いてる。あの子って誰だろう?

 女子高生な方の子はうなずくと、部屋の奥の方へと走っていってしまった。


「今うちを悩ませてる変質者なんだけど……捕まえようにも、まず姿を見せないのよ。姿さえ見せてくれれば、こちらもやりようがあるんだけど」


 悩まし気にため息をついたハイビスカス先輩。なんだろう……どうみてもごっついアニキにしか見えないのに、なんか妙に色っぽいな、この人。

 なんて思ってたら、さっきの子が誰か連れてきた。


「なんだい、ハイビスカス。あたしはこれからダーリンのとこに行くんだから、用があるなら手短にしとくれよ」


 …………いや、いやいやいやいやいやいや!!!

 待て、ちょっと待て。これは……女子、ではあるんだろうけど。そこはいいや。きっとちょっと大人びてる女子なんだろう、たぶん。どう見てもうちのお母さんより年上に見えるけど、きっとほんのちょっとだけ老け顔なんだろう。髪の毛が紫なのも、きっとおしゃれなんだろう。うちの学校、校則ゆるいから。

 そこはいい。そこはいいんだよ、別に。だけど……だけど!


「何で肌が緑色!?」


 あ、つい口に出しちゃった。

 緑色……先輩でいいか。は腰に手を当て胸をそらせると、反対の手の人差し指をびしっと突き出して高らかに言い切った。


「ダーリンに癒しを与えるためさ! 緑は癒しの色。あたしを見て、ダーリンの日々酷使されてる目を癒してやるのさ。ただ……恥ずかしくて、まだダーリンの前に姿を見せたことはないけどね!」


 中身は意外に乙女だった。ただその緑色、癒しの森林カラーというより毒沼の色なんですけど。あとダーリンって誰?


「山田さん、緑の肌の人なんて別に珍しいものでもないでしょう? というわけで話を戻しましょう」


 紫先輩の世界では、緑の肌の人は珍しい存在ではないらしい。これ、私の常識が間違ってるのかな? そういや私以外、誰も緑色先輩につっこまなかったね。あれ? もう常識がわからないよ。



挿絵(By みてみん)



「緑色のお姉さん、罵ってください!!」


 何の脈絡もなく、突然林くんが別の意味でつっこんできた。

 さっきまで一言もしゃべらないで転がってたのに、急にどうしたんだろう? もしかして林くん、緑色先輩みたいなタイプが好みとか?


「誰が口をきいていいって言ったのかしら? 豚は這いつくばって床でも舐めていなさい」

「はうん、ありがとうございますぅ! ああ、やっぱり女の子に蔑まれるのって癒される……」


 林くん、いつもいつもおかしいとは思ってたけど……でも、今日はなんかいつもと違うおかしさな気がする。なんだろう? なんか違和感があるんだよなぁ。

 床で幸せそうに這いつくばる林くんを見て私が首をひねると、隣に立っていた風峯が不思議そうな顔で私を見下ろしてきた。


「どうした、玲。あいつがあんな(変態)なのは、いつも通りだろ」

「うーん……そうなんだけど。なーんかいつもと違うような、違わないような?」


 結局私の違和感は解消されないまま、扶桑花先輩と緑色先輩が喋り始めてしまった。


「ねえ、寄生木(やどりぎ)ちゃん。あなたなら例の変質者の姿、見たことないかしら? あなたもストーキン……隠密行動、得意でしょ?」

「ちょいと、あたしをあんな節操なしな尻軽変質者と同じ風に言わないどくれよ。あたしは一途なんだよ! 美術の古川先生(ダーリン)以外の男なんて興味ないんだからね!!」


 ああ、ダーリンって美術の古川(ふるかわ)先生のことだったんだ。

 喫煙所でよくタバコ吸ってる、鹿のダサT着た八重歯のあの先生だよね? あの先生、いつもライターじゃなくてチャッ〇マンで火をつけてるから、妙に記憶に残るんだよなぁ。


「はいはい、ごめんなさい。で、どうかしら?」

「確かに最近、あたしとダーリンの愛の空間に入ってくるゴミがいるね」


 緑色先輩にみんなの視線が一斉に集まる。


「寄生木先輩、そのゴミってどんな姿でしたか? ちなみに先輩も被害を?」

「小太りで禿げ散らかした、見慣れない中年のオヤジだよ。まったく、あたしのダーリンとは月とすっぽんだね。あとあのオヤジ、視界には入ってくるけどあたしには興味ないらしくてね、あたしは被害には遭ってないよ。これでいいかい? じゃ、あたしゃもうダーリンのとこに行くからね」


 紫先輩に変質者の情報を渡すと、緑色先輩はさっさと部室を出ていってしまった。あの人も部員のはずだけど、練習とかいいのかな?


「見慣れない中年の小太りで禿げ散らかしたおっさん、ね。この学園の職員でそういう感じの人はいないから、おそらくだけど外部の変質者が入り込んでるってことよね。もう、警備は何をしているのかしら」

「紫先輩、もしかしてこの学校の教職員の顔、全部覚えてるんですか!?」


 思わず聞いてしまった私に紫先輩は、「上に立つ者なら当然よ」と、さも当たり前だという顔で返してきた。そして――


「要!」


 紫先輩(女王様)の一声で、床に転がっていた林くん(下僕)が跳ね起きた。

 


Special Thanks 古川アモロさま、あっきコタロウさま

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