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パンを購入したのだが、持参するのを忘れた。忘れ物ボックスは空っぽであるから、きっと家にあるのだろう。そんな筆者のパンは、いつのまにか誰かに食べられていた。少し衝撃を受けたため、筆者は隣の人のパンを食べることにした。すると隣の人が衝撃を受け、河童の皿を投げてきた。筆者はよける。すると筆者の後ろにいた河童が河童の皿を受け止め、自分の頭上に乗せたではないか。驚きのあまり、筆者は文字を書き始めた。「よし、行こうか。今度こそ楽しい旅になりそうだ」





「全くもって大丈夫じゃない。その服なんとかならんの」


 ナキは山伏装束をまとっていた。

 現代の街中を歩こうものなら、注目の的である。


「華子さんが着てる服ならいいかな」

「よくない。やめろ」


 華子が着ているのは中学校の制服である。

 普段着ならまだしも、さすがにスカートはまずい。


「困ったな。体も羽見たいに消えへんの」


 華子が問うと、ナキは「おお」と感嘆の声をあげた。

 ナキの言葉を聞くまでもない。きっと消すことができるのだ。




 そんな問答を終えた二人は、帰路についている。

 スーパーマーケットで適当な牛丼を購入。

 神社に戻ってもよかったが、冷えるため、華子の家に行くことになった。

 華子がナキを自宅に招いた。

 理由は、ナキから見た自分の印象。

 馬鹿っぽいというのは、褒めたものではないが、華子としては最高に近い言葉であった。

 その上、天狗という存在に心躍っている。

 夢に見た“魔物”というものだ。

 ブラウン管越しではない。目の前にいる。

 その事実が、華子のテンションを上げた。

 天狗の話を聞きたい。なら、自宅に招けばいい。

 少々飛躍した発想である。

 華子は今後のことを特に考えていなかった。


「うわ、何これ」


 ナキの、華子宅に上がった第一声。歓声である。

 想像していた一般庶民の民家とは、かなり異なっていた。

 スーパーマーケットにも、帰路道中も驚きの連続ではあった。


「もういいよ」


 華子の声に、ナキは姿を現した。

 神社を出てから今まで、ナキは姿を消していた。

 消すといっても限界があるらしい。

 華子のような、ナキの姿を知っている者には、意味がない。

 ただ、華子の目には羽は映っていない。

 山伏衣装の成人男性がそこにいるだけである。

 天狗だと知らなければ、衣装さえなんとかすれば、その辺りで歩いている男性と変わらない。


「こっち」


 物珍しげに辺りを見回す天狗。

 玄関から中に入ってくる様子でないため、華子は声をかけた。

 「下駄脱いでね」と一応言っておく。

 土足で入ってきかねない空気があった。

 ナキのその後の様子を確かめず、華子は階段を上った。

 両親の部屋は一階、彼女の部屋は二階にある。

 こういうときは一戸建てでよかったと思う。

 天狗が家にいるということが知られる危険性が少ない。

 華子は自室の襖を開け、ナキを待った。


「びっくりした。今の日本の家屋は面白いね」

「そうなん?よくわからんけど」


 華子はナキを部屋に入れた。

 襖を静かに閉じ、振り返る。


「なにしてんだ」

「いやぁ、久々の畳に死にそう」

「死んでしまえ」

「酷い」


 ナキは床に伏していた。

 彼女の部屋は和室である。襖を開くと畳が部屋一面に敷いてある。

 スッキリした部屋だ。生活空間は机周辺だけである。

 教科書類はきれいに整頓され、本棚に収まっている。

 机や本棚と畳の間には、カーペットが敷かれ、畳を少しでも傷めないように工夫されている。

 若者が好きそうな小洒落た服だの鞄だのの姿が見当たらない。

 布団は押し入れにあるだろう。

 人のにおいも薄く、畳のよい匂いが部屋を満たしていた。


「ちゃぶ台なんてないから、適当に食べて」


 華子は牛丼の入ったビニル袋をナキに渡す。

 礼を言いながら、ナキは受け取ると、中身を取り出し、蓋を開けた。

 よい匂いが辺りに広がる。

 スーパーマーケットの電子レンジで温めた牛丼は、まだ温かいままであったようだ。

 ナキが牛丼を頬張る横で、華子は少々反省していた。

 ナキを招待したことは、後悔はしていない。

 だが、今後どうすればよいのか考えていなかった。

 現時刻は午後6時を回ったところ。

 母の方が先に帰宅するが、基本21時過ぎである。

 後3時間。それまでに、ナキをどうするべきか考えなければならない。

 落ち着け。そもそもナキを家に泊めるとは言っていないし、彼も希望していない。


「食ったらどこ行くん」


 華子は聞いてみる。

 ナキは最後の一口を飲み込むと、「うーん」と呻った。特に予定はないらしい。


「そもそも、なんで急に祠を出ようと思ったのか分からないんだよね」


 ナキは言う。

 四百年引きこもっていたというのに、今になって表に出た。

 何か原因があるはずだ、といいつつ、あては無い。

 できることであれば、地上を散策したい。

 羽で空を飛ぶのは力を使うため、なるべく飛びたくない。

 自分の山に帰るのには空を飛ばないと時間がかかってしょうがない。

 そこで。


「泊めてほしい」


 華子は考えた。

 ナキを家に泊めたところでなんのメリットもない。

 デメリットしかない。

 しかし、おもしろそうである。

 天狗。ナキが本当に天狗であるかは定かではないが、人間ではないことは確かである。

 これが夢であれば残念であるほど、今、華子は興奮している。


「泊めてやろう」


 上から目線であることは、御愛嬌である。

 彼女は、この口癖のせいもあり、教室でも浮いていることは察しがつくだろう。

 加え、あまり後先考えず、夢見がちであることも問題である。


「ありがとう! 華子さんいい人!」











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