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山手線LOVE

作者: yama14

朝、代々木で7時28分発、山手線内回り8号車に乗った俺は、またあの人がいるのに気づいた。いつも、8号車に乗っている、20代くらいの若い女性だった。


俺は二階堂遼という。23歳。今はアパレルメーカーで働いていて、いつも俺は田町で降りる。


いつも乗っているその女性は、いつもこっちをチラチラとみてくる。こっちも、チラチラとみてしまう。そして、偶然あっちも見たとき、相手もこっちを見ていて、二人はまたそっぽを向いてしまう。


あの人と初めて出会ったのは、2年前。


内定をもらって、初出社をする時だった。偶然、8号車に乗った。すると、その女性も、8号車に乗っていた。その女性の顔を見た瞬間、惚れてしまった。俺は、その女性の前に行くつもりはなかったのだが、あまりの人の波に押され、その女性が座っている席の前に来てしまった。その女性の顔は、僕と同じく夕陽のように赤く染まっていた。上品な女性だなと思った。

その女性の顔を3秒以上眺められなかった。もうその時、この人を好きになっていた。

俺は、田町駅に降りる前に、何か言おうと思った。そして、口パクで言った言葉が、

「明日も、この8号車に乗っていてくれますか?」

だった。

すると、その女性に口パクでも伝わったのか、その人はうなずいた。


それから、2年の歳月がたった―


それ以来、あまり進展がない。


話すとしても、どちらかが7時28分発、山手線内回りに乗らなかったときぐらいだった。

「なんで昨日は乗っていなかったんですか?」と聞いて、それにこたえるくらいで終わってしまう。


相手も彼氏をつくらずに待っているんだと思う。けど、告白するタイミングも見つからないし、勇気もない。


だが、小学生の時告白して振られたトラウマから、告白してもダメなんじゃないかというネガティブな思考がわきあがってくる。


けど、告白して、成功したら、どんなに幸せか―。

名前も、年も知らない人に恋をする。


そうやって考えていると、田町につく。


この人は、いつもどこで降りるんだろう?

気になるけど、探索はしない。探索をしたら、今の微妙な関係が壊れてしまいそうだからだ。


田町を降りると、気持がいつも軽くなる。混んでいて、顔が見えていないときでも、田町から降りたら緊気持ちが軽くなる。


混んでいなくて、顔を見れて、会えたらうれしいけど、緊張して落ち着かない。本当に、緊張する。


そういった日々を過ごしていた。




翌日のことだった。今日は土曜日の出社だったが、あの人も土曜出社が多いから、今日は土曜の朝だし混んでいないので会えるかななんて思ったのだが、会えることが出来なかった。

まぁ、今日は偶然土曜出社じゃなかったんだろう。しょうがないかと思ったものの、会えなかったのは2週間ぶりだった。けど、心の中に嫌な予感がよぎった。


日曜日は、その女性に何かあったのではないか、その女性はだれかと付き合ってしまったのではないかとネガティブに考えしまい、その日の夜は、まともに寝ることが出来なかった。


そして翌日の月曜日、そのやな予感は的中した。


今日は平日の朝の山手線としては久しぶりにすいていたのだが、あの人の姿が見えない。今日も風邪かなんかか、珍しく寝坊したんだ、偶然だと思って決めつけたけど、不安と焦りが自分の心の中で交錯する。こんなことは、初めてだったのだ。2日連続で会えないなんて。


その日は、まともに仕事が出来なかった。その人のことを思っていた2年間の思い出が、頭の中を駆け巡る。何があったんだ…何が、あったんだ?


その日、久しぶりに上司に注意された。集中してないって。


その日の夜は、寝ようとしたけど寝れず、寝不足の日々は2日連続で続いてしまった。


今日、家を出たとき、もし今日8号車にあの人の姿が見えなかったら、1,2,3,4,5,6,7,9,10,11号車の全号車を回ってみよう。そう思いながら、俺は代々木駅へ向かった。


今日は、7時に代々木についた。俺は、7時28分発の列車を待ち続ける。


30分が待ち遠しかった。28分が近くなるにつれ、手が汗ばんでいく。


だが、あっさり決着はついた。彼女は、1本前の7時25分発の8号車に乗っていた。



そして、隣に、俺よりかっこいい男性がいた。


俺は、その瞬間泣いた。そしてその瞬間、彼女も振り向いた。そして、俺は恥ずかしくて、そのまま7時25分発の8号車に乗った。

彼女は、唖然とした顔をしながら、俺が8号車に乗った瞬間、彼女とその男性は8号車を飛び降りた。そして、山手線の緑色の列車は、代々木を出ていった。


彼女は、いつもの7時28分発に乗るんだろう。


俺は、悔しくって、泣いた。

2年間も恋をしていたのに。2年間、僕たちの、僕たちだけの会話で一緒に繋がっていたのに。

それは、幻覚だったんだ、そう気付いた。ただの、自意識過剰だったんだ。

俺は、その子のためにささげてきた2年間を悔いた。そして、自分がバカらしくなった。







その時だった。


列車のアナウンスは冷酷にもこの事実を伝えてきた。


「本日は電車の遅れのため、この電車が大崎止まりとなります。申し訳ございませんが、東京・品川方面をご利用のお客様は、次発の列車をご利用ください」


なんてことだ・・・最悪だ・・・かぶってしまう。会ったら、またあの彼女と男性の愛し合っている姿をまた見ることになる。俺は、その次の次の列車に乗ろうと思ったが、所詮会う確率は11分の1なのだ。そして今日は混んでいる。別に、会うことはないだろう。俺は、その彼女と会わないよう、1号車に乗ることに決めた。


こういうとき、時間がたつのは早い。体内時計では5分もたっていないような気がしたのに、もう大崎駅に着いた。


次発を待つまで、心から緊張した。所詮11分の1だ、と思いながらも、次の次の列車に乗れば、安全なのだと思ってしまう。けど、俺は、偶然あの女性と会った時、隣にあの男性がいないという可能性を信じ続けた。もし、あの人が隣にいなければ、あの女性とあの男性は付き合っていないというのと等しいのだ。


そして、緑色の列車が、大崎に滑り込んできた。あまりの混雑に、駅員も困り果てていた。


その時だった。乗った一号車に、泣きながらあの女性が乗っていた。


隣には・・・


誰もいなかった。


俺は、偶然にもその女性が座っている前の位置に立つことになった。そして、その女性が上を見上げた時、その女性の顔は申し訳なさそうに輝いた。

そして、その女性は口を開いた。

「あの男の人は、違うんです。私の彼氏じゃないんです。あの人は、初めて東京に上京してきた男の子で、東京にまだ慣れていないから、って、山手線に乗る時一緒に付き合うよう言ったんです。


私が乗るのは、いつも大塚なんです。その子が入っているのは、別の支社なんですけど、大塚から乗る人が私ぐらいしかいないから、その男の子のサポートをしていたんです。けど、いつもの代々木7時28分着には乗れませんでした。


だって、


大好きなあなたがいたから。


2年前に会った時、一目ぼれしました。あなたの顔を見た瞬間、私が結婚したいのはこういう人なんだ、って分かりました。2年間、ずっと告白できる瞬間を待っていました。けど、そのタイミングはなかなか現れませんでした。本当につらかったんです。あなたと、2年間ずっと進展のないまま、7時28分着の列車の8号車の中で、毎朝ずっと会い続けるなんて。そして、今回、私はもう駄目だと思いました。だって、1週間私が7時28分の列車に乗っていなければ、あなたはもう振られたんだと思って、あなたは、もう、私と会うことはなくなるでしょう?そして、さっきあなたとその男性と一緒にいるところを見られて、私の恋はもう、終わったな、って思ったんです。けど、私たちを、山手線が繋いでくれたんですね」

女性は泣きながら言った。俺の心の中で、ほっとした。そして、この山手線に、深い感謝を覚えた。

そして、その子とすぐに結婚した。そのまま、僕たちは婚姻届を出したのだった。




僕たちの愛を名前にするならば、「山手線LOVE」がふさわしいのは、言うまでもない。



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