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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

子沢山寵妃になった元石女夫人

石女夫人と嘲笑されてきたはずが、王太子の夜伽指南係に任命された挙句、年下殿下に溺愛される子沢山寵妃になっていました。なぜ。

作者: 燈子
掲載日:2026/03/31


「どうしてもやめてしまうのか」

「ええ、殿下。申し訳のうございます」


ぐすぐすと泣きながら詰る声の震えを、スカートの裾を頼りなく握りしめる拳の小ささを、私は後悔とともに、今でも覚えている。








親の決めたことに逆らえぬは、貴族に生まれた女のさだめ。

父親の命ずるまま、十九歳からの十年間で、私は三人の男のもとに嫁いだ。


一人目の夫は、二人目の妻を病で前年に亡くした侯爵だった。

妻の葬儀に訪れた私の美しさに目を奪われたのだと堂々とのたまう、恥知らずな老人だった。

老いらくの恋を楽しむための若い妻として迎え入れられた私は、当然のように前妻の子たちや使用人に疎まれた。

そして、最初の妻が生んだ嫡男はとうに成人しており、彼は私より十五も年上だった。


老いてなお好色な父侯爵を恐れたのだろう。私が新たに男子を産むことを厭い、彼は私にニフェンの実から作られる避妊薬を飲むよう要求した。

侯爵家が用意するだけあって、ニフェンの薬は強力であり、その分体へかかる負荷も大きい。ほとんど毒と等しい効果の薬は巷で流布される悲劇小説などでも有名だ。子を産むことができなくなると言われ、娼婦か王家の断種のためにしか使わないような薬である。

もう我が子は抱けぬ覚悟で、私は毎月、月の物の始まりとともに薬を煽った。醜悪な老人の子を産みたくないという乙女らしい潔癖な心もあったし、万が一にも子を孕んだがために跡目争いに巻き込まれて命を落としては元も子もなかろうという諦念に満ちた打算もあった。


まぁ言い訳はいい。

とにかく私は侯爵の子が差し出した避妊薬を飲んだのだ。

毒薬を飲まされるよりはマシだと己に言い聞かせて。


嫁いで三年。

老いた侯爵の良き話し相手として、老いらくの恋のお相手として、思い通りに動く着せ替え人形として、献身的な介護者として。私なりの精一杯で侯爵家に仕えた私は、侯爵の死とともに実家に戻された。次世代に不要な人間は排除したいという嫡男の意思であり、おそらくは過酷な侯爵家から逃がしてやろうという慈悲でもあったのだろう。

しかし、あわよくば男児を産んで侯爵家の中枢に喰いこめ、後継争いに名乗りを上げろと私を激励していた父は、至極失望した様子であった。


実家で喪に服したのちは修道院にでも入れるかと期待したが、三月(みつき)も経たぬうちに縁談が舞い込み、私の期待は儚く散った。

辺境伯の子息からの縁談で、父は当然のようにこれを受けた。




二人目の夫は、子ができないことを隠したい神経質な男だった。

不仲と評判だった前妻とは子が出来ず離婚していたのだが、その前妻が再婚してすぐ子を孕んだらしい。

密かに囲っていた数人の愛人たちとの間にも子がいなかった彼は、もしや子が出来ぬのは己に原因があるのではと恐れた。

ゆえに、最初の夫であった侯爵の嫡男の友人であるという彼は、私が子を産めなくなっていると知って、あえて私を二番目の妻として望み、娶った。

初婚で石女の実績のある私とあえて結婚することで、親族からの攻撃の盾にしようとしたのだ。

子が出来なかったとしても、私に責があると言えるように。


外向きには、私の美しさに一目で夢中になったのだと言って。

以前は既婚者の身であり、求婚できなかったのだと吹聴して。

夫からは仲の良い夫婦を装うことを要求された。


この夫は、前夫のように私におかしな服装でごっこ遊びをさせることもなく、正式な妻として扱ってくれたので、私にとってそんなに嫌な人間ではなかった。

ついでに、隙あらば毒を盛ろうとしてくる親族や、嫌がらせをしてくるような多くは使用人なく、命の危険を感じるような環境でもなかった。

妻としての雑務をこなしながら、私は比較的ストレスが少ない日々を送っていたと言える。


夫とは、子供が出来れば儲けものだと言って、子のできやすいはずの時期を狙って数回、夫婦らしく夜を共にした。いや、正確には共にしようとした。夫は緊張に弱い質で、なかなか完遂できなかったのだ。

一人目の夫の死以来、私は避妊薬は飲んでいなかった。けれど、夫側の()()()もあり、やはり私が孕むことはなかった。

親族たちは子ができない理由を何度も問いただし、そのたびに私は申し訳なさそうな顔でただ押し黙った。私のせいか、はたまた夫のせいか。寝室のことなど他人は知ることがない。私たち夫婦の真実は神のみぞ知る。しかし、彼は周到に子が出来ないのは、()()()()()()と周囲に思わせた。

結局三年の間、私たちには子が出来ず、辺境伯家の親族会議により私は再び離縁され、実家に戻されることとなった。

暗い顔をした夫が複雑な感情を宿した瞳で「すまない」と言ったことだけ、やけに印象的だった。

そして、今更勝手だとも思った。もともと私を盾にするために娶ったのに。


辺境を守るあの武骨で巨大な城に、また一人で取り残される夫が多少哀れに思えた。しかし、愛していたわけではないので、同情もすぐに薄らいだ。

なにせ私は、離婚して早々に、またしても嫁がねばならなくなったからだ。




「帰ったな、恥晒しな娘よ」


追い出され、おめおめと帰ってきた私を、父は大きなため息とともに迎えた。床に伏して謝罪した私を父は鼻で笑った。


「安心しろ。もうすでに次の縁談の用意がある」


驚きに固まる私に、父は薄く笑って吐き捨てた。


「お前は子が産めないわりに、使い勝手のよい駒だな」


父は私を新たな男のもとへ送り出した。子を産まず実家へ出戻った不肖の娘に相応しい、明らかに格下の男のもとへ。




三人目の夫は、金はあるが爵位の低い成金男爵だった。

そして、少し前に爵位を買ったばかりの男爵には、糟糠の妻とも呼べる愛人がいた。


結婚初夜に、私との子を作るつもりはないと言い放った男爵は、その後も茶菓子片手に、月に数回私の閨を訪れて会話をするだけであった。私は彼の訪れが「妻と夜を共に過ごした」という体裁と言い訳のためであることは承知していた。健全な夫婦生活を送っても子ができなかったのだと言えるための、アリバイ作りだ。


「君との間に、万に一つも子ができては敵わない。せっかく石女と評判の君と、高い金を払って一緒になったのだから」


そんな酷い台詞を言い放ちながら私に眠りに良いと評判のハーブティーを注いでくれた彼には、子を望まない女を欲した理由があった。


我が国では、貴族の正妻は貴族でなければならない。そして、貴族の跡継ぎになれるのも、正妻の子だけである。

しかし、抜け道があった。妻が子と認めたのであれば、養子でも良いのだ。


だから彼は、子を産めぬ私との縁談を望んだ。今は愛人という日陰の場所に身を置く愛する女との間に生した子を、正妻との養子として迎え入れ、己の跡継ぎにするために。


一般的には酷い境遇だろう。

けれど、彼は、私にとって決して悪人ではなかった。

三年子がなければ妻の有責で離婚できるという我が国の悪法を逆手にとり、彼は希望があれば将来的に私を()()すると約束してくれたのだ。


「これはリリアナ、君にとっても悪くない取引だと思うよ」


旧家ゆえに無駄に顔の広い伯爵家の人脈と後見を望む彼は、大層黒い笑顔で私に握手を求めた。

我が家も男爵から経済的援助を受けることを望み、お互いに利がある縁組であったから、おそらく父も愛人や庶子のことは黙認していたのだろう。


この夫のことは、私は嫌いではなかった。

昔から己の苦労を支えた女を尊重する姿は、私にとってはむしろ好ましく映ったのだ。

女を使い捨ての道具のように扱う貴族男性に飽き飽きしていたからかもしれない。


私はむしろ彼が、私を女としてではなく共犯者としての扱うことを喜んだ。

そして、私は自ら進んで、離婚後に向けて彼の愛人に貴族社会のルールやマナーを教えた。

謙虚な愛人は、畏れ多いと言いながらも大層ありがたがって喜んだ。


嫁いで三年、子を産めなかった私は堂々と彼と愛人の子を養子に迎えた。

そして状況が落ち着くのに一年ほどを待ち、私は離縁届を手に入れた。

私は、晴れて解放されたのだ。十年で一番の気分爽快と言ってもよかった。


なにせ夫が父と話をつけてくれたおかげで、今回は実家に帰らなくてもよいのだ。

夫は私に、彼が率いる商会で最も重要な工房を敢えていくつか任せてくれた。そして企業秘密を知る私を他家には渡せないとうそぶいた。

父との金銭の絡む多少の()()の末、離婚後も共同経営者として残ることになったのだ。

まあ実態は名前だけの責任者である。

私は夫からの援助で海辺に家を買ってもらい、悠々自適にのんびり過ごせることになっていた、のだが。




「リリアナ、すまない。約束を果たすことは難しそうだ」


うきうきと引っ越し準備をしていた私のもとへ、困り顔の夫、いや前夫が二通の書簡を手に現れた。我が家からのものが一通、そして、王家からのものが一通。


「なぜ……」


動揺する私を同情に満ちた眼差しで見つめた夫は、力なく首を振った。


「分からない。しかし、私にはどうにもできんよ。なにせ私は多少金があるだけの成金男爵だからね」


自嘲のにじむ苦笑いとともに、私につやつやのインクで長い文言が記された羊皮紙を渡す彼の顔には、憐れみとしか言えない感情を浮かべていた。


「君は王太子殿下のもとにお仕えするしかないと思うよ。その……名誉なことじゃないか。夜伽指南係なんて」

「そんな……」


静かで気楽な独り暮らしの夢が目前でガラガラと崩れた私は、力なくソファに座り込んだ。

あまりにもあまりな運命である。

十年間にわたる三回の結婚生活で子を産めなかったことを()()され、私は来年の春に成人と成婚を控える王太子殿下の夜伽指南係に任命されてしまったのだ。




***



「お前は本当に使える女だな。まさか石女であることがここまで有利になるとは思わなかったぞ」


機嫌よく笑う父の後ろを楚々と歩きながら、私は憂鬱な気分でうつむいていた。

私はかつて、王妃殿下の侍女であった。そして、王太子殿下がお生まれになってからは殿下のお世話係として、彼の方にお仕えしていた。お生まれになった時から、殿下が五歳におなりになるまでの五年間だ。


男子は十六、女子は十五で成人とされて婚姻が認められているこの国で、私はそろそろ孫を抱いていてもおかしくないような二十九の女である。かつてお仕えしていた頃は十九だったが、領地の経営不振で結納金が用意できずに婚期を逃した私は、十代だった当時ですら、すでに行き遅れと囁かれていたのだ。

まだ十五歳の王太子殿下にとって、今の私はどんな老婆に見えることだろうか。

あの頃、舌足らずな声で「リア」と何度も呼んでくださった殿下にもう一度お会いできるのは喜ばしいことだ。けれども、叶うならば殿下の記憶の中では、一番美しい娘盛りの頃の己でありたかった。


「はぁ……」

「辛気臭いため息などつくな!」

「申し訳ございません」


思わず漏れたため息を罵倒され、益々気が滅入る。

気の進まない輿入れを何度も淡々とこなしてきたはずなのに、これまでになく足が重い。いっそ逃げ出してしまいたい心持ちだ。しかしこれまでの結婚ならいざ知らず、王家相手にはそうもいかない。

もう半刻も後にはご挨拶せねばならないのだ。


あぁ、なぜこんなことに。


胸の内でひっそりと嘆きを呟いて、私は陰鬱な気分で豪奢な王宮廊下を歩いた。

十代の私が誰よりも何よりも慈しんだ、美しく愛らしい殿下。この世の何よりも清らかだったあの御方に、私がこの十年で三人もの男性と結婚していたことすらも知られているのだ。果たしてどんな顔をしてお会いすればいいものやら、見当もつかない。


けれど、早く心を決めなければ。

春の空のような瞳を氷のように冷たく凍らせ、軽蔑の眼差しで見られたとしても。この十年に恥知らずにも積み重ねた多種多様な経験と悲しくも豊富になってしまった知識を()()()()()がくるなんてありがたいことではないか。

今も昔も、私の心は変わらない。殿下のために、精一杯にお役目を果たすのみだ。


私はそんな悲壮な決意をしていたのだが。





「リリアナ!久しいな!」

「……殿下、お久しゅうございますわ」


昔とまったく変わりなく、曇りのない笑顔を浮かべたアルベルトが駆けよってきて、そして床に膝をつく私に抱き着いてきたのだ。


「ぁ゛えッ!?」


隣で妙な呻き声を噛み殺しながら、必死で動揺を隠している父は大変滑稽だった。だが、残念ながら私もそれなりに動揺しており、みっともなく目をひん剥いてこちらを凝視してくる父の顔を楽しむ余裕はなかった。


十年だ。

朝に夕に、寂しがりなアルベルトを抱き上げていた頃とは違う。

私は二十九になり、アルベルトは十五になっているのだ。

あの頃と同じ距離感はおかしいだろう。


「お、恐れながら殿下、いささか近すぎるのではと」


苦笑しながら諌める言葉を発すれば、アルベルトはくしゃりと顔を歪めた。そして口をへの字に曲げて、ますます私に縋りつく。


「殿下などと他人行儀な!昔のようにアルと名を呼んでくれ、リア」

「……アルベルト様。近すぎますわ。離れてくださいませ」

「リア……!?リア!?」


確かにかつては愛称でアル様と呼んでいたけれど、十五の男性に向かってそんな呼び方は出来ない。私は少し悩み、アルベルトと名を呼んだのだが、アルベルトはショックを隠しきれない様子だった。今にも泣き出しそうな顔で私の名を呼ぶ。


「リア!まさか、僕のことが嫌いかい!?」

「……ふふっ、違いますわ」


とんでもなく泣き虫だった昔の面影をそのまま残す愛らしい主君に、私は思わず吹き出して、丸みの残る頬を撫でた。


「けれど久しぶりなのですから、もっと離れて、しっかりお顔を見せてくださいませ」

「リア!勿論だとも!」


パッと離れたアルベルトがニコニコと私に顔を見せつけてくるのを苦笑しながら右から左からと眺める。本当に綺麗なまま、素敵な青年に育ったようだ。なんと可愛らしい。昔の癖でヨシヨシと頭を撫でた。


「私たちの王子様は、本物の、素晴らしい王子様にお育ちになりましたわね」

「もちろんだとも!僕は君の王子様だからね」


胸を張る幼い仕草に私は思わず口元を綻ばせて笑う。硬直した父のそばでほのぼのとした再会を繰り広げていた私たちのところへ、もう一人女人がやってきた。


「おほほ。相変わらずリアはアルベルトの扱いが上手だし、アルベルトは本当にリアが大好きねぇ」

「まぁ王妃殿下!」


ゆったりとしたドレスに身を包み、ゆっくりとこちらに向かってくるのは、かつてお仕えした主人である我が国で最も尊い貴婦人だ。


「お目にかかれて嬉しゅうございます!お身体は」

「もう平気よ。七人目ともなると、もう慣れたわ」


つい先月、七人目の御子をお産みになった王妃は、控えていた騎士が差し出した椅子に悠然と座る。


「今度の子はよく眠る子で、私も飽きてきたから、貴女の顔を見に来たのよ」

「嬉しゅうございますが、そうおっしゃらず、どうか産後のお体を大切になさいませ」


私の忠心からの苦言に、王妃はひょいと片眉を上げて笑うと、ひらひらと片手を振った。


「分かっているわ。あなたの顔を見に来ただけ。あら」


そしてふいと顔を横に逸らした王妃は、冷や汗をだらだらと流しながら突っ立っている父を視界に入れた。


「いやだ、伯爵。あなたもいたの」

「おや、本当だ。リアに似ていないから気づかなかったよ」

「ででで殿下、いやはや、ご冗談を」


わざとらしく笑いあう貴き母子に、父は強張った笑顔で膝をついたまま再び礼をとった。私と違って、父は声をかけられていないから、立ち上がることができないのだ。父に起立の許可を与えぬまま、貴人二人は平坦な声で笑う。


「はは、冗談じゃないけどね」

「ふふふ、アルベルトはお気に入りだったリアを取り上げられたと十年前から伯爵に怒っているのよ。ま、子供の癇癪だから流してちょうだいな」

「は、はは、はは、はははは、はっは」


冷たい眼差しで睥睨され、父は壊れたおもちゃのように笑いながら、青い顔で脂汗を垂らしていた。下っ端の侍女として仕えていたはずの私がここまで妃殿下たちと親しいとは思わなかったのだろう。この方たちは仕える者を家族と呼ぶ変わり者なのだ。だからこそ、家の命に従うと決めて退職を申し出た私の決断も、一度は反対したものの、最終的には十九の大人の女が決めたことならばと尊重してくれた。


「リアが王宮に戻ってきてくれて嬉しいわ。あなたの淹れた紅茶は絶品だったもの」

「お茶会の采配も完璧だしね!」

「ふふ、ありがとうございます」


昔のように温かな距離感で続く会話に、離れていた十年の月日がなかったかのような気分で、私も軽口を返す。


「いつか王太子妃殿下のいらっしゃるときは、完璧に仕上げさせていただきますわ」

「それはいいわね。私はあなたのセンスを信頼しているのよ」

「もう!今からそんな話をしないでくれよ!ただでさえ気が重いのに!」


私の図々しい申し出を王妃は手を叩いて喜び、アルベルトは情けない顔で嘆いた。


「あら、本当にあなたは女慣れしていないわねぇ。陛下の積極性を見習いなさいな」

「父上が積極的なのは母上にだけでしょ」

「おほほ、他の女のことは確かに知らないわね。あのひと、私以外見ないから」


我が国の国王夫妻は鴛鴦夫婦で有名だ。さらりと国王陛下の一途さを惚気て、王妃はくすりと笑った。


「でもまぁ、あなたには負けるかもしれないけれど」

「え?」

「母上!」


にやっと意味ありがな目線で息子をみた王妃に、私は首を傾げる。しかしどういう意味かと問おうとしたところで、アルベルトが焦ったように口をはさんだ。


「もういいではありませんか!リリアナは母上の話し相手になるために出仕したわけではないのですからね!」


ぐい、と私の腕を引くと、アルベルトは床に膝をついたまま愕然としている父と、面白そうに事態を見守る王妃に向かって、堂々と宣言した。


「リリアナは僕がもらっていきますよ」





「ちょちょちょ、殿下ッ!急すぎますわ!」

「何がだい?君だって役目は理解してここへ来たのだろう?」

「それはそうですが!」


慌てる私をよそに、アルベルトは爽やかに笑った。


「やっと手に入れたんだ。もう待ちきれないよ」

「ちょ、お待ちください!?」

「十年も待ったのに?このうえまだ待てと言うのかい!」


めまぐるしい状況の変化に追いつけず、焦って制止するばかりの私を笑い飛ばし、アルベルトは熱のこもった瞳でこちらを見つめて言い切った。


「さぁリリアナ、早く寝台に行こう!」

「えっ!?えええぇっ!?」


満面の笑みのアルベルトに攫われた私は、生温い笑みの女騎士たちが警護する後宮廊下を逞しい腕に抱かれて駆け抜けるはめになり、抵抗もむなしく寝台に沈められた。

そして、書物で知識は叩き込んできたものの、()()()()()()()()の乏しい私では、興味津々なお年頃のアルベルトにはまったく歯が立たず、情けないことに何一つ()()することができなかった。


「リリアナ、指南役のくせに随分と初心なんだね」


先ほど何かに気づいて、寝所にふさわしからぬ歓声をあげていたアルベルトは、にやにやと嬉しそうに笑って言った。


「うるそうございますわ」


ご満悦な様子のアルベルトをキッと睨んでから、私は枕に顔をうずめた。明朝には後宮の皆々様にご挨拶せねばならないのに、一体どんな顔をして行けばよいのか。王妃様にもご報告に上がらねばならないのに。せっかく指南役としてお呼びいただいたのに、何のお役にも立てず、面目ない限りだ。


「もう……なんと申し上げればよいのやら」

「ん?母上への報告?んふふ、指南など要らないくらい僕が()()だったとほめてくれてもよいよ!」

「お黙り下さいませ!……もうっ」


王太子相手に怒鳴ってしまい、自己嫌悪の中で私は重い体を寝台に預ける。言い訳をするならば、萎れた枯れ枝をなんとか元気づけるだとか、縮こまった気弱なおチビちゃんを勇気づけるだとか、そっち方面の経験ならばそれなりにあるのだ。けれど。


「……殿下がお元気すぎるのがいけないのですわ」


私が有していたのは、若く精気盛んなアルベルト相手には不要な、いや、()()()な手練手管ばかりなのである。指南役の面目を保とうとして、なんとか披露しようしたのが間違いだった。余計な真似をしたせいで、ただでさえ十分興奮していたアルベルトを、ますます奮い立たせてしまったのだ。

窓の外が薄明るくなっている。もう朝になるらしい。寝所に運び込まれたのは夕方だったのに。己の愚かな意地のために、私は天に召されてしまうのではと恐れるほどに貪られてしまったのだ。


「もう、しりませんわ……」


襲いくる眠気に抗えず、私は恨み言の呟きを最後に体の力を抜いた。三十近い体では、十五の若い少年の欲望の全てにお応えするのは、非常に大変だったのだ。筋肉痛と疲労で体中が痛い。果たして起き上がれるのだろうか。


「ふふ、おやすみリリアナ。……やっと手に入れた。今度こそ、僕がきちんと幸せにしてあげるからね」


強い疲労感と倦怠感の中で意識を手放した私は、アルベルトの囁きに必死でお断りの言葉を述べようとしながら眠りに落ちた。







「おはようリリアナ!大丈夫かい?」


夕方から明け方まで好き勝手されて死んだように眠っていた私は、目が覚めると同じ部屋で書類仕事をしていたらしいアルベルトに声をかけられた。


「昨日は無理させてごめんね。母上に言われて反省したよ」

「え、王妃殿下に?」


驚く私を前に、アルベルトはへにゃりと眉を落として話した。


「うん。君が起きないということで後宮医を呼んだら、初夜から無理をさせ過ぎだと言われてね。女性はか弱いんだから大事に扱いなさいって、父上にもこっぴどく叱られたよ」

「ひぃ!私が寝ている間にそんなことになっていたんですか!?」


知らぬ間に昨夜のあられもない愚行が、医師の元で両陛下につまびらかにされていたと知り、あまりの情けなさで私はさめざめと泣きたくなった。顔から火が出そうだ。これまでも一般的にはそれなりに女として惨めな境遇だった気がするが、これほど恥ずかしいのは初めてである。夜伽指南にきて、何一つまともに教えられず、挙句の果てに十四も年上の女が閨であっけなく沈められているなんて。


「もう合わせる顔がありませんわ……」


涙声で枕に突っ伏す私に、アルベルトは気まずそうに告げた。


「あー、ごめん、目が覚めたと連絡してしまったから、母上がもうすぐ謝罪に来ると思う」

「えっ!?」

「育て方を間違えた、未成年のしたことだから親が謝らなきゃいけないとかなんとか」

「あああぁっ、なんてこと」


ぼそぼそと申し訳なさそうに言われ、私は羞恥に耐えられず泣き伏した。こんな馬鹿馬鹿しいことがあっていいのだろうか。

あんなに悲愴な決心で参上したのに、翌日には「息子が抱き潰してごめんなさい」とこの国で一番尊い貴婦人に謝罪されるのか?我が国の未来を背負う王太子の円満で幸福な夫婦生活の一助になればと、忠実な臣民としての使命感と指南役としての重い責任を感じながら参上したのに。いったい私のお役目とはなんだったのか。

そう涙まじりに訴える私に、アルベルトは困り顔で頬を掻いた。


「えっと……とりあえず、いくつか誤解を解く必要があって」

「誤解?」


首を傾げる私を、アルベルトは喜びと申し訳なさを同居させた不思議な表情で見つめた。


「まず、君の役目は夜伽指南となってはいるが、その……実質的に僕の側室だ」

「え?」


ぽかんと口を開けて瞠目する私に、アルベルトは早口で言葉を継ぐ。


「まだ議会で認められていないけれど、両陛下はお認めになっているから、内定だね」

「聞いてませんわ!」

「だって言ってないもん。これから末永くよろしくね、リリアン!」

「そ、そんな!」


可愛子ぶっているアルベルトに大人げなくもイラっとする。もちろん王家の正式な命となれば逆らうわけにはいかないけれど、なぜ私が?という気持ちがぬぐえない。せめてもの抵抗で、私は極めて常識的な意見を突き出した。


「だ、第一!正式な妃殿下がいらっしゃる前に側室をもつなど、不誠実にもほどがありますわ!」

「あー。そこなんだよねぇ、誤解」


困った顔でベッドのサイドテーブルを指先でとんとんと叩きながら、アルベルトは突拍子もない説明を続けた。


「むしろ、先に側室を入れておく必要があるんだ」

「そんな馬鹿な!一体ぜんたい、どういうことですの?」


驚いた私が焦って問い詰めるように尋ねると、アルベルトは肩をすくめて言う。


「それが輿入れてくることになった()()()()()()殿()の、ご希望だからね」

「新しい婚約者?輿入れされるご婚約者様は、隣国の第三王女ではなくなったのですか?」

「うん、変更になったんだよ」


珍しいことがあるものだと尋ねた私に、アルベルトは頷いて、あっさりととんでもない事実を伝えた。


「なんでも、護衛騎士の子を身籠ってしまったらしくてね」

「…………は?」


理解が追いつかず絶句した後、やっと言葉が頭の中で意味をなし、私はサァと血の気が引いた。


「え?え?そもそもまだ十四歳でしたよね!?」

「大問題だよねぇ成人前なのに」


色々と問題すぎて一つずつ突っ込んだら間に合わない。アルベルトは呑気に言っているが、本当にとんでもないことでなのだ。

成人前の妊娠は、平民ですら眉を顰められる不品行だ。しかし、そんな次元の話ではない。なにせ()の王女は、アルベルトの婚約者なのだ。


「それもそうですが、それよりも!王太子妃として嫁入り前ですよ!」


我が国をあまりにも馬鹿にした振る舞いであると激怒する私に、アルベルトはけらけらと笑いながら言った。


「あはは。まぁそれはいいんだけども」

「なにひとつよくありませんよ!?」

「相変わらずリリアナは真面目だなぁ」

「……真面目とか、そんな話ではないでしょう?」


妙な感心をされた私が不服に眉をひそめて反論を試みる。しかしその前に、アルベルトはあっけらかんと新たな衝撃を放った。


「まあいいじゃないか。色々と協議を重ねてお見合いの結果、代わりに、第一王女のリリー殿がいらっしゃることになったんだ」

「……は!?あの御方、独身だったのですか!?」


我が国でも時折聞く名前に、私は驚いて目を見開く。リリー王女は芸術に秀でた方で、詩人として名高いのだ。彼女のつくる恋詩連作は我が国の乙女たちの聖典(バイブル)であると言えるだろう。あんな蕩けるような恋歌を創る方が、まさか独身だとは思わなかった。それに。


「で、では、なぜ最初から第一王女と婚約なさらなかったので?あ、もしかしてお年の頃が合わないとか?」


首を傾げて尋ねる私に、アルベルトはあっさり首を振った。


「いや、僕と同じ年だよ。第二王女と違って、第一王女は正妃腹だから、血筋も問題ない。ただ」

「ただ?」


続きを促した私に、にやりと含み笑いをして、とんでもない爆弾を投げた。


「リリー殿は大の()()()でね。男と睦むなんて死んでも嫌だ、絶対に子は産まないと言っていたから、隣国王家としては最初から候補にならなかったらしい」

「は??だ、だめじゃないですか!」


泡を食って詰め寄る私に、アルベルトはきょとんと首を傾げる。何の問題があるのかと碧眼を瞬くアルベルトに、私は動揺を隠せない。なぜ平然としていられるのか。もしかして私の方がおかしいのかという疑念すら沸くが、まだ幼い王太子が事態を理解できていないのではと、一抹の不安を抱く。


「どうして?」

「だ、だって、お子ができないと、お世継ぎはどうするんですか!」

「君が産んでくれればいいだろう?」


とんでもない発言に目をむいた。今日聞いた非常識発言の中でも、ダントツ一番意味が分からない。


「わ、私は夜伽指南係です!殿下の側室どころか愛妾でもありません、それに」


一瞬ためらった後、私は絞り出すように叫んだ。


「わ、私は、石女ですよ!?」


だからこそ私は、夜伽指南役として、王宮に招かれた。そのはずなのだ。だから、両陛下がアルベルトののありえない思い付きに賛同するはずはない。


「子が産めないからこその夜伽指南係です。これまでの指南役は普通なら子が出来ない年配者でしたが、私は石女であると認められて、王立議会から認可が下りたのでしょう?」

「まぁそうなんだけど……」


夜伽指南係という極めて特殊な役目に就任するにあたり、私は様々な書類を提出した。子が出来ないと示すために、月の物の有無や過去の服薬歴、病なども赤裸々に報告している。一人目の夫である侯爵の家にも協力してもらい、毎月強力な避妊薬を飲んでいたこと、それらにより非常に子ができにくい身体であることを証明しているのだ。そう力説しても、アルベルトは目を眇めて首を捻る。


「ほんとかなぁ?これまでの結婚で、ちゃんと()()()()()()()()()()()、した?出来たの?あの夫たちと?」

「うっ」


痛いところを突いてくるアルベルトに、私はそっと目を逸らす。その件については多方面に問題があり大変気まずいので、どうかあまり触れないでいただきたい。


「で、でも!ニフェンの実の薬を毎月、三年も飲んでいたのです!子ができるはずがありません!」

「まぁねぇ」


夫に原因があったとしても、私が巷に流布する悲恋小説や歴史小説などあらゆる書物で毒薬としても有名なニフェンを飲んでいたのは事実なのだ。最初にニフェンを開発して用いたのは王族なのだから、その有効性は誰よりも知っているはずなのに、アルベルトは大した問題でもないように笑う。


「でも、知ってる?君がさっきから飲んでいる薬湯茶。あれ、サヨンの蕾のシロップが混ぜてあるんだ」

「だ、だからなんですか?」


とっておきの秘密を語るように楽し気に笑うアルベルトに、私は動揺した。しかし年上の意地で、必死に虚勢を張って聞き返す。しかし。


「ニフェンの解毒薬なんだよね」

「え」


とんでもない暴露をされて硬直した。ニフェンの解毒薬?不幸を招く不治の毒薬と呼ばれ、歴史上でも政争の陰で悲劇を量産し、王家の代替わりの際にも暗躍すると謳われる、あのニフェンの?


「えええええっ」

「万が一疫病や戦で家系が断絶しかけて、断種させた王子も戻さなきゃいけないときに使うんだ。王位継承者しか知らないけど」


淑女にあるまじき大声をあげて衝撃に打ち震える私に、アルベルトは飄々と続けた。


「まぁ市中に出回っている程度の濃度の薬なら、もともと飲むのをやめたらそれなりに回復するはずだし、それに僕、種は強い自信あるし!うん、大丈夫だと思うよ」

「そんな楽観的な」


唖然として力なく崩れ落ちる私の肩を抱き、アルベルトはにこにこと機嫌よく言った。


「僕に任せちゃえばいいんだよ。毎日サヨンの薬湯茶を飲んで、しっかり健康的な生活をして、僕と仲良くすればすぐ赤ちゃんは来てくれると思うよ!僕としては、せっかくならしばらくはいちゃいちゃしたいけど、仕方ないよねぇ。とりあえず妊娠がわかるまでは毎日仲よくしようね!」

「そんな馬鹿な!?楽観的すぎますわ!無茶苦茶すぎますー!」


私は頭を抱えてシーツに突っ伏し、顔を合わせられないと思っていたはずの王妃殿下の来訪を待ちわびる。何とかアルベルトを説得してもらわねばならないと固く決意して。

しかし残念ながら、陽気で前向きな王妃殿下はアルベルトに同調してしまい、まったく頼みにならなかった。私は彼らに現実を説くことを諦め、リリー王女の輿入れまでに諦めてくれればと願うようになった、のだが。

果たして、四か月後。




「おめでたでございます」

「嘘ぉ……」


にこにこと笑う後宮医の言葉に、私は口から魂が抜けそうなほど驚いた。体に力が入らず、椅子の背もたれに身を預ける。隣ではアルベルトが小躍りしそうなほどに喜んでいた。


「やったぁ!でかしたぞリリアナ!」

「おそらくこの春にはお生まれになりますよ。殿下のご成婚とあわせて目出たいですなぁ!わっはっは」

「そ、そんな呑気な!お二人とも冷静になってくださいませ!」


この後宮にいるのは楽観人間ばかりなのかと気が遠くなりながら、私は半泣きでアルベルトに取りすがった。


「何を焦っているんだい、お腹の子に悪いよ?」

「だって殿下!まだリリー王女とのご成婚前ですのに!」


でれでれと笑み崩れながら平たい腹を撫でるアルベルトに、私は青い顔で言い募った。


「ど、どうしましょう。王女様がいらっしゃる前に、そんな、失礼にもほどがありますわ、きっとご不興を買い」

「いやいやよかったよ!これで第一王女も嫁いでくれるよ」

「え?」


安心したと繰り返すアルベルトを訝しみ、私はなんとなく嫌な予感を抱きつつ聞き返した。


「リリー殿からは『ぜったい産みたくないから、世継ぎは確実に予めもうけておいてくれ。嫁いだら諦めて産むだろうなんて考えられていたらたまったもんじゃない。そうでなければ嫁がないから』と言われていてね」

「えええっ聞いてませんわ!」


ありえない条件に卒倒しそうになる。王家の人間には常識が通じないのか。いや、過去は結婚前に側室を入れて庶子まで設けていたことに腹を立てて戦争になった例もあると聞く。やはりこの人たちがおかしいのだ。


「君には言ってないよ。言ったら重荷になっちゃうからね」

「そりゃそうですよ、責任重大じゃないですか……!」

「だろ?知っていたら君のことだからもっと若い娘を後宮に入れるべきだとか言い出して、僕の元から逃げ出すに決まっている。僕は君を信用していないんだ」

「いや、非常に真っ当な方法だと思うのですけれど!分かっているのならば実行してくださいませ!石女と評判の三十路目前の私に産ませようなどと考えずに!」


叱りつけ過ぎて疲れる。ぜえぜえと肩で息をする私に、アルベルトは胎を撫で続ける。そして、にこにこ笑いながら言い放った。


「でも結果的に懐妊、万事問題なしじゃないか!……ん?あーでも、男児じゃないとまずいのか。すまないけれど、男の子がうまれるまで頑張ってくれるかい?僕ってば父上に似て一途だから、君以外を抱く気にならないんだよねぇ」


あまりに身勝手な言い分に、私は青筋を立てながら叫んだ。


「まだ一人目も生んでいないんですけれど!?」





さて、数か月後。


「おめでとうございます、アルベルト様。リリアナ様。お元気な王子でございます」

「よ、よかった……」

「おおおっさすがリリアナ!君は僕の願いをすべて叶えてくれる女神だよ!」


狂喜乱舞するアルベルトの横で、私は無事男児を産み終えた安堵に、気絶するように眠りに落ちた。私が意識を失った後、両陛下も大層お喜びだったらしい。何よりである。


第一子が幸運にも男児であったので、「跡継ぎが生まれるまでは嫌だ」と言って往生際悪く嫁入りを拒んでいたらしい第一王女も、春の花吹雪の中、満面の笑みで嫁いでいらっしゃった。

無事に予定通り王太子妃となったリリー殿下に政治は任せろと言って頂けたので、私のやることと言えば子供と遊ぶだけ。私も側室として正式に王族入りしたわけだが、仕事は殿下たちにお茶を入れたり、後宮を暮らしやすく整えるくらいである。


そこから年子で男児、女児、男児と三人の子を産んだ私の功績(おかげ)で、リリー殿下は大層安心したらしい。これからも頼むとおっしゃった。後宮でこんな役割分担があっていいのだろうかと疑問がよぎったが、我が国は特殊なのだと割り切った。

アルベルトは二十歳にして三児の父であり、すっかりメロメロになっている。

そして驚くことに、リリー殿下は私を大変気に入ってくださり、「おねえさま」と呼んでくださる。

子供たちもリリー殿下に懐き、母というよりは()のように慕っている。

私は大切な人たちのこと笑顔に囲まれて幸せな毎日だ。


そんなこんなで、わが後宮はとても平和で仲が良い。

他国からは目を丸くされるだろうが、朝食は王太子ご夫妻と私と子どもたち、そして親しい侍女や騎士たちと、大勢で食べる。殿下たちが望んでくださったのだ。なんでも、後宮まるごと家族計画、と言うらしい。

リリー殿下が子供たちの基礎教育は任せてくださったので、それはしっかり行うつもりだ。だが、私は家政もせず、時折茶会やパーティーの采配を王太妃殿下に頼まれるだけなので、本当にのんびり暮らせている。


ちなみに先日、話の流れで私の過去を聞いたリリー殿下はいたく腹を立てて、これだから男は嫌いなのだ!と絶叫して女騎士に慰められていた。ぴったりとくっつき、何度も髪を梳かれ、背中を撫でられていた。端的に言えば、彼女たちは私をダシにしていちゃついていた。美しい女性二人の抱擁は大変絵になり美しかったので、この場に画家がいればよかったのにと思ったほどだ。


くだんの女騎士は毎朝一緒に朝食をとるメンバーである。

隣国からついてきたリリー殿下の腹心だが、もとは武術を修めた侍女であったらしい。しかし、王太子妃となるリリー殿下をお守りするために、鍛錬を重ね厳しい試験に挑み、輿入れの直前に晴れて正式に騎士になったのだという。美しい主従愛であるが、実質は恋人らしい。隣国の子供世代では護衛騎士と結ばれるのが流行っているのだろうか。いや、私には、ありがたいばかりだから、まぁいいのだけれど。隣国王家の皆様の心労が心配である。




さて、私が非常に孕みやすい女であるという評判が立ってしまった結果、二番目の夫がやはりお前に問題があるのではないかこの種無し男と詰られて家出したとか、三番目の夫が白い結婚だと言われ現妻との鴛鴦夫婦の評判に拍車がかかったとか、そんな話も聞こえてきたけれど、まあどうでもいい話である。

今がとっても幸せなので、私は過去にも外にも興味はないのだ。

シリアス展開で書いていたはずが、途中から陽気な殿下がスキップで乱入してきました。一度はシリアスに修正しようとしたものの、パリピ殿下が「時代はハピエン、ご都合主義上等」とうるさいので、そこまで酷い人がおらず誰も不幸にならない(?)ラブコメ版とシリアス版を両方書きました。よろしければシリアス版もシリーズからご覧ください。


ニフェンはフニン、サヨンはヨウサンあたりから適当に取ってるので、特に意味はなく、あまり名前がどこの国ぽいかとか考えずにつけてます。

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