*江戸の憂鬱 1*
放談第18話: ~咸臨丸アメリカへ行く ~
*江戸の憂鬱 1*
レポーター: 舟橋***作家『花の生涯』など執筆
出演: 将軍徳川家定***・孝明天皇***
ハリス駐日公使***・大老井伊直弼***
老中首座堀田正睦***・水戸藩主徳川斉昭***
大老井伊直弼(再演)***
⋆⋆⋆⋆⋆こんにちは、作家の舟橋聖一です ⋆⋆⋆⋆⋆
舟橋***こんにちは、作家の舟橋聖一です。私が井伊直弼を主人公にした小説『花の生涯』を作品にしてから70年以上の歳月が流れました。今回改めて主要な登場人物に話を伺ってみました。わたしの知らなかったことが沢山聞くことが出来ました。以下はこのレポートです。
第一幕 将軍家定の場
―――第13代将軍家定は生来の病弱の上に人前に出るのを極端に嫌い幼少期に患った疱瘡(天然痘)が原因かなり奇妙な行動があった。家定は今でいう脳性麻痺を患っていたのではないかと言われている。―――
はじめに将軍徳川家定公にお話を伺いました。
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、家定公に謁見 ⋆⋆⋆⋆⋆
*将軍家定の憂鬱
*作家の舟橋聖一でございます。大病を患われて御不自由と伺いました、心中お察し申し上げます。してお身体の方はいかがでございますか。
家定***ご覧の通りじゃ。仕えているものに支えられ生きておる。皆わしのことを暗愚、愚鈍と申しておるだろうな。そちもそうか。
舟橋***滅そうな。そのようなことはございません。
家定***世間はどうじゃ、どう思っておる。さぞかし悪口をたたいていることだろう。それを思うと毎日が憂鬱じゃ。
舟橋***殿にお仕え申している者のほかは殿のご容態は存じませぬ。御心配には及びませぬ。
*ハリス公使と謁見
家定***米のハリス公使がわしに拝謁を望んでいるそうだのう。わしはどうすればよいかわからぬ。政治の話は不得手じゃ。
舟橋***ご安心なされませ。お仕えしている者がすべて執り行うと聞いております。
家定***ハリスに聞かれたときはどう答えればよいと思う。
舟橋***これもお仕えしている者にお任せください。ハリスも殿へのお話は心得ていると存じます。
*家定条約締結にうなずく
家定***そうか、そうか。それでいいのじゃな。
舟橋***一つだけお聞きしたいことがございます。条約締結のこと、ハリスが問えばいかがお答えなりますか。
家定***ハリスがそれを問うたときは・・・・・・。
舟橋***・・・・・・問うたときは?
家定***仕えている者が申しておる。うなずけ、と。
舟橋***さようでございますか・・・・・・。それをお聞きして安心いたしました。
本日は将軍と拝謁がかない恐悦至極でございます。
今日はありがとうございました。
第二幕 米国の大使ハリスの場
さて、次はハリス米国の大使にお話を伺いました
―――ハリスは、日米修好通商条約を締結させるための米国の大使。日本は鎖国の時代であり、海外との条約締結には消極的な態度だったため、交渉は進まず将軍との謁見を求めては、度々断られていた。ついにハリスは将軍徳川家定との謁見を果たします。―――
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、ハリス大使に伺う ⋆⋆⋆⋆⋆
*ハリス江戸城に登城し家定公に拝謁
舟橋***作家の舟橋ですが、ハリスさん、江戸城に登城したときの話伺えますか。家定公の印象はどうでした。
ハリス将軍徳川家定公に拝謁した話かね。私は何の予備知識もなく家定公に拝謁したが、名にしおう日本の最高権力者が幼いころ脳炎を患われておられ、大病後もご不自由な身とはご同情に耐えない。
舟橋***家定公のご様子はどうでした。
ハリス**話もままならぬお方とは知って正直驚いた。
*家定の様子
舟橋***家定と言葉を交わされましたか。
ハリス**話されるとき大君は自分の頭を、その左肩をこえて、後方へぐいっと反らしはじめた。同時に右足をふみ鳴らした。これが三、四回くりかえされた。正座もままならぬご様子だった。
舟橋***家定公は何と申されました。
ハリス**よく聞き取れなかった。おそばの方が説明してくれた。”遠方の国からこられ、この書簡に満足する”とおっしゃったようだ。
舟橋***あなたは”通商条約”の話に触れられましたか。
ハリス*私から締結を申し出ると家定公ははっきり”そのようにしよう”とうなずかれた。それで謁見が終わり退席の時、老中首座阿部正弘殿は私にこう申された。
*ご容態は御内密に
舟橋***何と申されました。
ハリス*堀田正睦殿は『上様のおっしゃる通り”通商条約”の話は進めましょう。ただ、上様のご容態については御内密に願います』とおしゃった。
*通商条約の交渉を開始
舟橋***幕府は間髪を入れず、日米修好通商条約の交渉を開始しますね。
ハリス**これで私はこの条約交渉は8分通りは成ったと思ったね。
舟橋***江戸城殿中の印象はどうでした。
ハリス*全体から私を礼儀正しくかつ、温かく遇する誠実さを感じた。ただ米の指導者なら就任後の病ならいざ知らず、就任前から将軍のような大病のお人が就任するとはありえない話だ。同時に日本という国の不思議さと、不気味さを感じた。
舟橋***それはごもっともな話ですね。でも日本は古来より、君主は賢愚、聡明によって定まるものではなく、長幼の序が第一として参りました。家定公の足らざるところは家臣の役目で御座います。
ハリス*日本という国は一筋縄ではいかない国のようだ。
舟橋***大使、今日はありがとうございました。
第三幕 老中堀田正睦の場
さて、次は老中堀田正睦殿にお話を伺いました。
―――堀田正睦は江戸末期の老中。日米通商条約締結のためハリスと交渉の任にあたり条約調印勅許を得るため上京したが失敗。日米修好通商条約の調印がなるのを待って罷免さらに無勅許調印の責を負わされて隠居する。―――
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、老中首座の堀田正睦に伺う⋆⋆⋆⋆⋆
*条約調印の勅許得られず
舟橋***老中首座の堀田正睦殿に伺います。日米修好通商条約の交渉を開始が始まると自ら上洛して孝明天皇に条約調印の不可避なることを説明し、勅許を得ようとしましたね。
堀田***わしの説明不足からか”外交は幕府に委任しない”と一蹴されこの上申は不首尾に終わった。
舟橋***何故だとお考えですか。
*朝廷無視の不満
堀田***これまでは、天皇と攘夷派は幕府はこれまでの「開国はせず」の約束を堅持すると思っていたのだろう。だが、清国と英国の戦いは英国が勝って艦隊が日本に向かってる。日本が開国しなければ英国は日本を清国と同じになる。世界は状況は一変した。そのことを説明し条約の交渉開始の勅許を願い出た。これが朝廷軽視と映ったらしい。もっと早く説明すべきだった。
*井伊直弼が大老に就任
舟橋***1858年4月井伊直弼が大老に就任しますね。大老に火中の栗を拾ってもらおうと考えたのでしょうか。
堀田***大老に局面の打開をお願いした。しかし天皇は幕府の意に反して条約締結拒否を伝えてきた。天皇の勅許を得る機会はなくなった。
*幕府は四面楚歌
舟橋***幕府は四面楚歌になりましたね。
堀田***何とか打開をせねばならんな。
第四幕 井伊大老の場
さて、次は江戸幕府の井伊大老にお話を伺いました。
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、井伊大老に伺う ⋆⋆⋆⋆⋆
―――幕末期の江戸幕府の大老、開国派として日米修好通商条約に調印し、日本の開国・近代化を断行した。
大老就任後、急遽現状での鎖国の維持は無謀判断し、積極的な交易と開国を主張。また、強権をもって国内の反対勢力を粛清したが反動を受けて暗殺された。―――
舟橋***井伊大老に伺います。調印直前に大老になられましたがどんなお気持ちでした。
大老***一橋派の松平慶永殿を大老に就いてもらう手筈が急遽わしに大老職が廻って来た。わしに心構えなど持つ期間さえ与えられなかった。
舟橋***井伊殿の大老就任は、将軍家定の裁可でしたが。
大老***家定公の状態から見て家定公が断を下せるはずはなく、これは今も策謀と思っている。おそらく一橋派が動いたのだろう。
舟橋***大老は就任前に幕府の置かれている状況をご存じでしたか。
*直弼何も知らされず大老へ
大老***わしには何も知らされていなかった。就任後老中堀田殿の説明で家定公の病や幕府の窮迫していることを知らされた。正直驚いた。すべてが決まっており、わしが選択する余地など何もなかった。
舟橋***大老は天皇への説明を優先し、天皇の勅許まで調印を引き延ばすことを主張しましたね。
大老***それがわしの取れる唯一の途だった。
*勅許前に条約調印
舟橋***でも大老は天皇の勅許前に調印しましたね。
大老***あれは事の成り行きだよ、わしは万一の際は調印してもよいかと尋ねられ、わしが万一の時は致し方ないと答えると、たちまちその日のうちに調印となってしまった。
舟橋***大老としては不本意な調印でしたね。
大老***一橋派は恰好の批判材料を得て、わしを追及してきた。まったくの上げ足取りだ。
舟橋***大老、今日はありがとうございました。
第五幕 水戸藩主徳川斉昭の場
さて、次は水戸藩主徳川斉昭殿にお話を伺いました。
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、水戸藩主徳川斉昭に伺う ⋆⋆⋆⋆⋆
―――斉昭は西洋化に抵抗し、幕府は軍備を強化すべきであり、この問題で井伊直弼とは対立していた。彼は天皇家であり、王政復古を支持していた。西洋人が日本の内政に介入しないように尊王攘夷の中心となった。―――
*斉昭ら不時登城
舟橋***水戸藩主徳川斉昭殿に伺います。井伊大老が日米修好通商条約に調印して、すぐに水戸殿は、慶篤殿、慶恕殿と共にあらかじめ登城日が決められていたのを無視し不時の登城して大老を責めようとされました。その意図は何処にありました。
斉昭***わしにそれを言わせるのか、言わずと知れた天皇の勅許なしに条約調印など暴挙も甚だしい。調印を無効とせよと談判に行ったのさ。きみはこれを黙許せよというのか。
舟橋***すると不時登城の意図は条約調印は認められない、無効とせよと談判に行ったのでしょうか。
*調印無効と談判
斉昭***あわよくば井伊に切腹をさせるつもりだった。
舟橋***何と、切腹でございますか。それはきついお咎めですね。でも大老は誰とも会わず門前払いをしました。
斉昭***その上わしを永蟄居にしおった。たかが一介の譜代が徳川御三家の水戸のわしを永蟄居にして、煮え湯を呑ませおった。
舟橋***腹の虫がおさまりませんね。水戸殿はこれからどうなさるおつもりですか。
*斉昭永蟄居
戊午の密勅
斉昭***わしが蟄居しても藩士どもが黙っておらんだろう。
舟橋***天皇が江戸幕府に対し幕府が日米修好通商条約を無断で調印したことに対する非難で発した戊午の密勅を長州藩と水戸藩に直接下賜しましたね。密勅を天皇自身の裁可で下したとは考えられませんが。
斉昭***わしが陰で糸を引いたとでも言うのかね。
舟橋***この勅諚は条約締結後の、朝廷への非礼を戒め、水戸殿を中心にして幕政改革を行うことを促すものでした。貴藩と薩摩の藩士は素早く動いてます。
斉昭***この動きにはわしは関わっておらんよ。
舟橋***殿、今日はありがとうございました。
第六幕 孝明天皇の場
さて、次は第121代孝明天皇にお話を伺いました。
―――第121代天皇。幕末の激動期と重なり、ただ形式的な天皇ではいられない運命をもち、その危機感を募らせていた。国粋的な教育で培った理念を現実の政治の中での、朝廷の権威回復と攘夷思想の実現という、二つの大きな課題に向き合い尊王攘夷の象徴的存在であった。―――
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、孝明天皇に拝謁 ⋆⋆⋆⋆⋆
舟橋***失礼致します。作家の舟橋聖一で御座います。天皇におかれましてはお健やかで祝着至極に存じます。
孝明***おう、ようきた。今日は遠慮なく話そうぞ。
舟橋***神道を尊ばれ、日々の神事を滞りなくお務めとお聞きしこれも祝着至極と致すところでございます。
孝明***わての務めじゃ、先祖と庶民の為と心得ておる。そうだ茶を一服盛ろうか。・・・・・・召しががれ。
舟橋***恐れ入ります。結構なお手前で。早速お話をお伺いいたします。天皇は基本的姿勢として攘夷思想を持っておられ開国を拒否しておられました。
*天皇独立と皇統の護持を第一
孝明***わては、黒船来航や通商条約締結の動きに強い危機感を抱いている。日本の独立と皇統の護持を第一と考えておる。
舟橋***この「拒否」は従来の天皇像を大きく塗り替えるものでした。その根底には何がおありですか
孝明***先祖代々この国は天皇を中心とし、外国勢力を打ち払うという思想があり、国家体制を維持してきた。わての代でこの国家体制を崩壊させることは先祖に対し忍び難かった。
*孝明前例のない拒否
舟橋***大老井伊直弼が勅許を得てアメリカとの日米修好通商条約を結ぼうとした際、 条約の勅許に最後まで首を縦に振りませんでしたね。これまでの幕府の申請にはすべて勅許を与えてきた天皇には前例のない決断をなさいました。
孝明***たしかに従来の天皇が儀礼的存在であった。慣例を破ることは、わてにとって大きな決断だった。
舟橋***この姿勢は天皇の一存で決められたのでしょうか。
孝明***朝議を経て決めたものでわての一存ではない。だがわての意を汲んだ形で決められた。わては朝議でこの条約締結の動きに「国体を損なうもの」と強く反発した。
舟橋***幕府は米との軍事力の差を認識しており、交渉を進めざるを得ない状況に追い込まれていました。天皇は世界の中の日本の立場を考慮する余地はなかったのでしょうか。
孝明***朝廷内の意見も一枚岩ではなく、側近である九条尚忠や一条忠香らは、公武合体を通じて幕府との協調を模索する動きをしていた。朝廷内にも幕府の立場を容認する動きはあった。わてはそれをも考慮はしたつもりだ。
舟橋***幕府は天皇にイギリスに侵略された清国の悲惨さを伝えるなどして、いく度も勅許を願い出ました。でも天皇は 条約の調印反対の姿勢を崩しませんでした。
*政治と外交の経験不足を自認
孝明***それをわての政治と外交の経験不足からくる無理解と人は指摘する。たしかにそのとおり、外国の動きにわてにはよくわからず認識も欠けていた。
舟橋***天皇は国家の危機を避けるためにも幕府の立場をもっと理解すべきだったとはお思いなされませんでしたか。
孝明***わての生まれや育った環境がそのような雰囲気はなかった。
*幕府条約調印に踏み切る
舟橋***現体制は居心地がよかったのでしょうね。それに比べ体制が変わると自らいる場所が何処に求めればよいか分からず不安だったのではありませんか。
孝明***そうかも知れない。
舟橋***追い詰められた大老は、天皇の許可を得ぬまま、米との条約調印に踏み切らざるを得ませんでした。
*「戊午の密勅」
孝明***「無勅許調印」は、許しがたい暴挙であり、直ちに強い抗議の意を示した。その抗議の象徴が「戊午の密勅」だった。
舟橋***この「戊午の密勅」は天皇ご自身の判断で出されましたか。
孝明***朝議に諮ったが議論百出でまとまりを見せなかった。決断はわてが下した。
舟橋***これが水戸斉昭公などの攘夷派を勇気づけ、諸藩に大きな影響を与えました。特に薩摩藩と水戸藩に与えた影響は甚大でした。
孝明***べつに、諸藩を駆り立てたつもりはない。これは先祖から受け継いだ国家を守ること共通の認識だったと思う。
舟橋***「戊午の密勅」の天皇の意図は何処にあったのでしょう。
孝明***わての意図は、幕府との対立を意図するものではなく、協力して対外政策に当たることを意図するものだった。
舟橋***多くの藩士はそうは取りませんでした。幕府を戒め、体制を元に戻す勅命ととらえたようです。長州、薩摩、水戸の藩士は過激に走りました。世情は一挙に険悪になりましたが、これは天皇の意図ではなかった、と言われるのですか。
孝明***それはわての思わぬ結果であった。
*孝明の「心中氷解」
舟橋***その後も幕府は執拗に外国の現実的な脅威のから、老中首座の堀田正睦が勅許を得るために説得に奔走しました。この堀田殿の説得が「心中氷解」につながりましたね。
孝明***そのとおり。
舟橋***「心中氷解」は一般には”天皇豹変”のように見えますが、老中首座の堀田正睦は天皇にどのような説得をしたのでしょうか。
孝明***わての説得に幕府のありったけの力を出して来た、老中の誠心誠意に心を打たれた。
舟橋***それだけでしょうか。ハリスは家定公拝謁で家定公の病状を知っています。ハリスがこのことを口外したら英・露は日本恐れるに足らずと侵略をはじめるでしょう。
孝明***わては将軍家定公の病状を知らされ驚いた。
舟橋***ハリス公使は一切口外しませんでした。米国は誠意ある国だと天皇に縷々説明したのではないでしょうか。
孝明***・・・・・・。
*「尊王攘夷」が糸の切れた凧
舟橋***お答えくださらなくても結構です。この「心中氷解」が幕府の『戊午の密勅』を返納させる働きかけの黙認につながったわけですね。
孝明***わての「尊王攘夷」が糸の切れた凧になってしまった。
舟橋***大君、今日は貴重なお話ありがとうございました。
第七幕 再び井伊大老の場
さて、次は再び井伊大老にお話を伺いました。
⋆⋆⋆⋆⋆舟橋、再び井伊大老に伺う ⋆⋆⋆⋆⋆
*天皇の「心中氷解」
舟橋**大老は老中を上京させて、孝明天皇に幕府の意図を説明しましたね。大老***打つべき手はすべて打った。万事を尽くして天命を待った。
舟橋**それが功を奏して条約調印を了解したという天皇の沙汰書が下されました。そこには「心中氷解」と記されています。天皇の考えを一変させる切り札は何だったのでしょう。
大老***誠心誠意説明しただけだ。
舟橋**老中首座の阿部正弘の時ハリス米公使と将軍家定公との拝見がありました。阿部殿はハリスに家定公の病状を”内密”にと念を押しています。
*約束を守ったハリス
大老***そう聞いている、ハリス米公使はこの約束を守ってくれている。それが日本の今のある証かも知れん。ありがたいことだ。
舟橋**もしハリスが家定公の病状を口外したら英・露は清国同様わがもの顔に日本恐れるに足らずと侵略をするでしょう。米国の誠心に応えなければならないことを天皇に縷々説明したのではないでしょうか。
大老***天皇の説得に幕府のありったけの力を出しことは間違いない。
*水戸藩と薩摩の藩士の過激化
舟橋**その後大老は『戊午の密勅』を返納させようと働きかけました。しかしこれが水戸藩士の激情に油を注ぐ結果になり貴藩と薩摩の藩士を過激に走らせたようです。
大老**わしの打った手が裏目に出たようだ。
*大老の過激派藩士の弾圧
舟橋**大老はこの過激を押さえるために弾圧しましたが、過激藩士はより過激な行動で応え、いたちごっこになりました。これが安政の大獄の発端ですね。
大老**藩士藩士たちの過激ぶりはとても野放しにできる状態ではなかった。
舟橋**大老はこの弾圧に迷いはありませんでしたか。
大老**わしに迷わぬことなど一つもなかった。世の人はわしを暴君と罵るだろう。されど、国を守るためには他の道があったと思うかね。この言葉ほどわしの心にそぐわぬ言葉はない。
舟橋**過激藩士がより過激になったらどうします。
大老**それはわしにも分らない。人は自分が何者なのか誰に分かろう、予想しえない状況に接したとき予想しえない自分になるものだ。
*大老「ポーハタン号」と「咸臨丸」に期待
舟橋**大老は日米修好通商条約の批准書を交換するため、遣米使節団を米に派遣されました。正使「ポーハタン号」と随伴船「咸臨丸」です。
大老**おお、そうだった。順調に航海しているかのう。
舟橋**嵐に遭遇しながらも両船とも元気に航海中のようです。
大老**それはよかった。それまでわしの命があれば苦労話など聞いてやりたい。無事の帰国が楽しみだ。
舟橋**大老、今日はありがとうございました。
⋆⋆⋆⋆⋆エピローグ ⋆⋆⋆⋆⋆
―――華やぎの影には、すでに不穏の影が忍び寄っていた。そぞろ歩く町人の背後で、星が流れ、妖怪がちらり、ちらりと姿をのぞかせる。
やがては大獄の嵐となって、江戸の町を呑み込んでいくその兆しを――
誰も、まだ声にはしなかった。―――
江戸の町 百鬼夜行が 見え隠れ
終幕 再び咸臨丸へ
*咸臨丸にバトンを返します
舟橋***江戸は波乱含みになりました。私は引き続きレポートしますが江戸がどうなるのかこの先が心配です。江戸の波乱含みを知ったならば勝麟太郎さんなどは、『アメリカへ行くどころではなくなった。江戸が心配ぢゃ、戻ろう』と言い出しかねませんね。
咸臨丸は「江戸の憂鬱」は知らないで航行しています。
さあ、ここで咸臨丸にバトンを返します。
みなさ~ん、元気に航海してますか?!。
放談第18話: ~咸臨丸アメリカへ行く ~
*江戸の憂鬱 1*
了
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