まくあけ
起きたら、寝る前と全てが変わっていた。
慣れ親しんだ万年床のかたい布団ではなく大きなベッドの上にいるし、部屋は広いし、視界に入る天井も家具も全部が知らないものばかり。
なによりも、ここは安心できるいつもの自分の部屋のニオイがしない。
花の良い香りがするけど、それはワンルームに住んでる自分の部屋では嗅いだことのないもので、より一層私を不安にさせた。
とりあえず、ベッドからおりようとして思ったよりも高さがあって足を踏み外して滑って転んで床に頭を打って、倒れこんだとき唐突に解った。
ここ、日本じゃない。
なにより、私は前の私じゃない。
前の私の名前を思い出せないけど日本で暮らしてたことは覚えてる。
ここでの自分の名前もわからないけど、ここがどこなのかは解る。
ここは、たぶんゲーム、シュルスの勇者と乙女の世界だ。
このゲームは勇者である主人公が聖なる乙女ー通称聖女と力をあわせ、世界を終わらそうとする魔王を倒すゲームである。
王道の設定でありながら、綺麗なグラフィック、ストーリー、やり込みがいがあるマルチエンディングでコアなファンもいるが一般的にはそれなりの人気だったゲームである。
それなりだった理由は、どのエンドでもめでたしめでたしの終わりではないからだ。
Aエンドでは無事に魔王を倒し勇者と聖女は抱き締めあってエピローグにはいる。
しかし、魔王を倒しても世界の崩壊は止まることないことを示唆してするムービーが最後に流れる。
Bエンドでは魔王戦に入るまえに、魔王がこの世界の終わりについて語り始める。
世界を作った神はすでにこの世界に棄ててどこかへ消え去ってしまった、この世界が壊れるのは神がいない為である。魔王が人を殺して減らすのは、少しでも世界の終わりを遅くする為という事実を。
それを聞いた二人は迷いながらも魔王を討ち倒すが世界の崩壊の一端を目にして絶望する。
Cエンドは魔王から話をきいた二人が魔王を倒すのをやめ、世界の終わりを先のばしにする為に人々を減らしていくのを黙認するが崩れていく世界のなかで手を繋ぎながら微笑んで消えていくムービーに見た感じそんなにのばせてなさそうであった。
Dエンドは魔王から話をきいた勇者がなんとか世界を救おうと神の力の残滓を集めていくが、神が去った世界を救えるほど集まるはずもなく、その力を聖女だけを救うために使おうとする。
だが、集めた力では到底足りず勇者は自分の命を捧げることで、聖女はどこか平和な世界で別人として産まれ変わる。
そこでは前の記憶は無くなって別人として産まれ変わった聖女が大切なものを、その大切なものがなにかも解らないのに探し続けるという姿がエンドロールとともに流れる。
そんな世界に放り込まれて、いったいどうしたら良いのだろう。
日本に戻る方法探すとしても、どうやってきたかも解らないし、世界が終わるというタイムリミットがあるから難しそうだ。
それに戻ったところで何になる。
あの狭くて汚いワンルームもスマホも大好きだったけど、家族もおらず親しい友人もつくれず夢も希望もなく、貧乏で色んなことを我慢しながら日々を無意味に消費していくように生きてた。
それなら終わりが解ってるこの世界の方が良いんじゃないか。
よし、この世界が終わるまで楽しもう。
幸いにもこの世界の常識もこの家の事とかも全てでは無いけど何故だか解る。
そうして私の終活がはじまった。
正直、連載に自信がありませんが、ゆるゆる終活ライフを書けたらいいなあと思います